小説

イカサマG@ME 17

「部屋出て左進んで」… きっとそんな単純な答えを期待していたんだろう。 わたしの答えに、三浦は意表を突かれた様に 赤く染めたままの顔をしかめっ面にする。 「…あ?」 漏れて出たようなアホ声。 そのまま漏らしてなきゃいいんだけど…、じゃなくて。 そんな立ったままその場で行進運動を続けている三浦に わたしは更に続ける。 「…だから、知らない。  わたしの家  確かトイレなんかなかったんじゃないかな。」 「…はぁ!?」 呆れたような怒鳴りにも似た声が、わたしに向かって響く。 わたしの意味不明な返答に対する若干の怒りと 確実に近づいている尿意限界時への焦りが きっとそんな声を生み出したんだろう、と 同じく動揺しているわたしは 必死でそれに勝とうと、そんな思考を巡らせる。 「馬鹿じゃねぇのもう…」 確実に困った顔に、さっきの倍くらいの汗を光らせる三浦は 流石に話にならないと察したか、部屋のドアへと向かう。 駄目…させない… 「さっき言ったでしょ!?  もし負けたら、+αで1つ何でも言うこと聞くって!!」 恥ずかしさを堪えながら でも、約束したんだから わたしの発言に非はないと自分に言い聞かせて 当然のごとく 我が家にもあるトイレへと向かおうとする三浦の背中に 止めの一打を投げかける。 そんなわたしの問いかけに 仕方なくといった様子で歩を止め 体を再びわたしに向けてくる三浦。 …もう結構我慢の限界なんだろう。 わたしたちの目を気にしている余裕すらなくなったのか 大事な部分が ズボンの上から右手で思いっきり握られていた。 「わ、わぁったよ!!  ションベンしてきたら何でも聞いてやるよっ!!  また素っ裸にでもなればいいんだろっ!?  この変態女っ!!」 やけと限界と動揺が 見事に混沌としているような捨て台詞を吐いて 再びドアへ向かう三浦。 …駄目、すっぽんぽん姿ならさっきもう見たモン…。 また見ても…、それはそれでいいかもだけど… …じゃなくてっ!! それ以上の羞恥を こいつにはお見舞いしなきゃいけないのっ!! 女の子に向かって変態変態言うような変態には もうこれしかない…。 「…駄目!!わたしがいいって言うまで  この部屋から出ちゃ駄目っ!!  それが…最後の罰ゲーム……!!!」 わたしの叫びにも似た最後の要求に やっぱりちゃんと足を止めて 三度わたしに向きなおす三浦。 「な、なんだよそれっ!!  いいって、いつまでだよっ!?」 「…さ、さぁね、それはわたし次第じゃない…?  …それでいいよね?千佳、…森くんもっ!!」 「…え!あ、う、うん…。」 すっかり置き去りになっていた2人に このタイミングで賛同を求める。 きっと、恥ずかしさで上がりきったわたしのボルテージに 反論なんて出来るワケもなかったんだろう。 我ながら、有無を言わせぬ半強制感だったに相違ない。 最終(おまけ)罰ゲーム内容承諾書に 千佳の返事と 森くんの困ったような首肯と言う名の印を押し あんたの許可なんて必要ないんだからと 架空のそれを三浦に押し付けてやった。 「…な、なんだよそれっ!!  森には全然罰ゲームでのなんでもねぇじゃん!!」 「そんなのアンタに関係ないでしょ!?  わたしと千佳と森くんが賛成したんだから  もう決定なの、諦めなさいよっ!!」 「…は、話になんねぇよ…!!」 その顔からして、もう限界を超えてるのかもしれない。 確かに話にならないようなわたしの訴えに 膀胱に溜まりに溜まっているであろう液体を出しに行こうと 4度目の正直とばかりにドアに向かう三浦。 そんな三浦が、ドアノブに手を掛けたその瞬間に わたしはさっき手に入れた最後の切り札を その背中に突きつける。 「罰ゲーム無視して部屋出たら  クラスのみんなに言ってやるっ!!!  あんたが…まだ…ぶ、ブリーフ履いてるってことっ…!!」 …わたしのその紛れもない事実の暴露予告に 三浦は予想通り、握ったドアノブの回転を元に戻し そのままの状態で一時静止をする。 その背中は、もの凄く弱々しく見えて 「…じゃあどうしろっつーんだよっ…!!」 …そんな猿の嘆きが ひしひしと伝わってくるようだった。 クラス中に恥ずかしい でも本当の話を晒される方を選ぶのか それともトイレを諦めるのか… わたしは そこまで三浦の心理を読み取ることは出来なかったけど この時期の男の子にとって わたしの知ってしまった事実の漏洩は 想像以上にダメージの大きなものだったらしい。 結局4度目の正直も叶わず、わたしに振り返る三浦。 その顔には今日一番くらいに汗が噴出していて 顔は良く熟したトマトのようにまっかっか… 大事な宝物を守るように握られた右手の力は 血管が少し浮き出ているのをこの距離で確認できるほど 大きなものになっていた。 「じゃあ…ここで漏らせっつーのかよっ!!」 瞳にうっすら涙を浮かばせ、わたしに激を飛ばす三浦。 下半身の一部分を必死で押さえながらそう訴える三浦の姿は まさに“限界寸前”そのもので 少しでも気を抜いたそのときには 全てを垂れ流しにしてしまうであろう 危機迫るものだった。 「…別に、そんなこと言ってないモンっ!!!」 自分にもおしっこを我慢して辛かった経験があるから 三浦の辛さが十分に分かるけど そんな思いを押し殺して尚 三浦に敢然と立ち向かうわたし。 「…そんなことないっつっても  そう言ってるようなモンだろっ!?  い、言っとくけどな…、漏らしたらオレだって困るけど  お前だって困んだぞっ!?  この部屋のカーペットがオレのションベン臭くなっても  知らねぇかんなっ!?」 完全にどうしていいのかもう分からず やけを起こしている三浦。 そんな動揺と焦りと絶望感丸出しの三浦に もしかしたらこいつ 本気でここで漏らそうとしてるのかも…と 若干の不安を覚えつつも ここでお漏らししたら、三浦どうするんだろ… そのまま帰るのかな…、 お漏らししたままのパンツとズボン履いて…? でもカーペット汚されるのは困るよね… …でもでも それを三浦に責任もってクリーニングさせたら それもそれで三浦にとっちゃあ屈辱かも… などと 新たな分岐シナリオを この場面で作成しようとしている自分に鞭打ち やっぱりお漏らしは困る、と正気に戻ったわたしが判断し そうさせないようにと、三浦の誘導体制に入る。 「…わ、わたしの机の一番下の引き出しに入ってるもの…  …使っても別にいいけどっ……!」 明らかに不自然な展開だな…と、言ってすぐに気づいたけど 当の三浦は そんなこと気にしてるほど もうホントに余裕がなかったみたい。 ゾウさんが潰れちゃうんじゃないかと思うくらい そこを右手で握り締めたまま わたしの机に千鳥足を思わせるステップで近づき 許可した通りの一番下の引き出しを、震える左手で開く。 そこにあるもので 今三浦に必要なものといったら、確実に1つ…。 わたしの思惑通りに 三浦はそこから予想通りのものを取り出す。 …それは 10個入りの、透明な紙コップだった。
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