小説

イカサマG@ME 2

玄関を開けると案の定、三浦と森くんが立っていた。 「いよっ!」 満面の笑みで笑う三浦。 これからすっぽんぽんにされちゃうとも知らずにね。 その横で落ち着いた様子で でも少し不安そうな顔をする森くん。 2人とも、いつもと変わらない感じに見えたけど 外見だけはいつもと少し違っていて… 2人とも揃いも揃って 似つかわしくなく眼鏡をかけていた。 「ちょっと~なんで眼鏡なんてかけてんの?」 「…ふふん、オシャレだよオシャレ。な、森!!」 […ん?あ…ま、まぁ…。] 「うそだね!男のくせにセッコーい!!」 「う、うるせーなぁ!!じゃーお前らもつければいいだろ!  …って田嶋はもうつけてるか。」 「そんなダテ眼鏡持ってないモーン。  いいよ別に、わたしたち下着以外に上に2枚着てるもん。  あんたたちTシャツ1枚でしょ?」 「あ!せっけーー!!」 「うるさいなぁ!ほらもう、入って入って!!」 …ふふ、眼鏡なんてかけて衣類の割り増ししちゃって。 そんなんかけたって何の防御にもならないのにね。 なんか勝つことが分かってると 男子が可愛く思えちゃうよね。 部屋に入って鍵を掛ける。 机を端に寄せた部屋の真ん中には トランプをもう用意してあった。 「…一応家にあったトランプ出しといたけど。  これでいいよね?」 変に勘繰られないように自然な感じで切り出したけど きっと今日1番に重要な台詞。 このトランプじゃなかったら わたしたちの計画は丸潰れだからね。 恥ずかしながら、少しドキドキしちゃった。 「…ん、あ、あぁ…俺らは構わないぜ。なぁ。」 「うん、いいと…思う。」 何の疑いもなく、わたしの提案を承諾する2人。 その首肯が わたしたちの勝利を意味するとも知らずに…ね。 ふふ、バッカみたい。 -1時間前。 「そのトランプって言うのが…これね。」 そう言って千佳にそれを差し出すわたし。 バイスクルって言う 世界で最もメジャーなトランプらしい。 でも、普通のそれに、少し加工が施されてるんだけどね…。 「中のトランプ出して  ジョーカーと他の1枚見比べてみなよ。」 わたしの言葉にコクリを頷き従う千佳。 取り出した2枚をジーっと見つめ始める。 「…ちょ、ちょっと、そっちじゃなくて  裏を見比べるの!」 「…あ、あそっか!そうだよね…ははは。」 …大丈夫かなぁもう、天然な千佳を見てると やっぱ少し不安になっちゃうよね。 これくらい天然なところがあった方が 可愛く見られるんだろうけどさ。 …なんて、ちょっと嫉妬。 カード2枚を裏っ側にして、間違い探しを始める千佳。 「うーん、うーん…。」と 女の子らしいブリブリの声で唸っている。 …なんて、友達のとこ悪く言っちゃ駄目だよね。 「分かんない?」 「…うん、全然分かんないや。」 …よし、それでいいの。 何も知らない人が見て分からないと判断できれば わたしも安心できる。 「四隅に天使が描かれてるでしょ?」 「…え?う、うん。」 「よーく見てみて。」 「う、うん…  …………うーん……。………あっ!!!」 「分かった?」 「天使が…笑ってる。…ジョーカーの方の。」 「そう言うこと。」 勝ち誇ったように千佳にそう告げるわたし。 このトランプ、ジョーカーの天使だけ 少しだけ微笑んでるの。 遠目で見たくらいじゃ分からないくらいの ホントに少しの笑みって感じだけど。 おばあちゃんの家に行ったとき 近くにあったマジックショップでたまたま見つけたんだ。 別にトランプが欲しかったから買っただけだったけど まさかこんなところで役に立つなんてね。 「それがあれば、絶対わたしたちは勝てるんだよ。」 「…でも、ジョーカーが分かってるだけで  絶対勝てるとは言えなく…ない?」 不安そうに質問してくる千佳。 「まぁまぁ、わたしたちはジョーカーが分かってるんだよ?  まず最初に、4人に均等に配る時点で  ジョーカーが男子に行く確率は2分の1。  ジョーカーが向こうに行った時点で  それだけでわたしたちの勝ちが決まるの。  だって分かってるんだから、引かなきゃいいんだから。」 「…う、うん。」 「もし万が一  わたしたちのどっちかにジョーカーが来ちゃったとしても  ゲーム中に男子がジョーカーを引いちゃった時点で  わたしたちの勝ち。」 「…うん。」 「最初に揃ってたカードでダイブ変わるけど  少なくとも10周くらいはするはずでしょ?  そう考えたとき  ジョーカーが見えているわたしたちの勝つ確率は…  ほぼ100%に近いんだよ。」 わたしの完璧な説明を聞いて、それでも尚 心配そうな表情が抜けない千佳。 「…でも、“ほぼ”…だよね?」 …もーう、心配しすぎだよね、千佳。 そりゃあ絶対に勝てるとは言い切れないけどさ。 負ける確率なんてホントに0に限りなく近いんだよ。 心配する方がおかしいってもんだよね。 「…それに  よーく見ないと笑ってる天使、見つけられないし…。」 「ババ抜きだよ?  裏からジーっと見てたって  何にも怪しくない数少ないカードゲームの1つだよ。」 「…あ、…まぁ、そ、そうか…な。」 「大丈夫!安心しなって!  負ける心配なんてしなくて大丈夫。  わたしを信じてっ!!」 「…う、…うん。」 …ま、千佳の心配性の性格だしね。 頷いてくれただけ良かったかな。 それともちょっと罪悪感とか感じちゃってたりするのかな? …そう考えるとちょっと…申し訳ないけど…さ。 でももう決めたことだし。 今から見ちゃうことを楽しみにしちゃってる 自分がいるわけだし…。 しょうがないよね。なんて、自分を正当化してみる。 わたしたちの計画は- 上がブラの状態になるまで、とにかく負け続ける。 男子の手札にジョーカーを見つけたら、引く。 そして残念がる。 そこはもう演技力の勝負だけど 勝ち続けるならまだしも、負け続けるわたしたちに 男子が不信感を覚えるワケないと思うしね。 そこは全然心配してなかったりする。 そして最後の最後で…ふふ。勝っちゃえばいいんだよね。 「…ジョーカーを制す者が、ババ抜きを制すのよ。」 もう1枚のジョーカーを手に取り 不安そうな千佳を横目に、独り言のように呟く。 …大丈夫、心配は無用だよ。 勝利の天使は、わたしたちだけに微笑んでるんだから。 …ふふ。
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