夏の大三角|Kune Kune Project

小説

夏の大三角 13

『兄弟』

夏休み最後の臨時家庭教師を終えた和哉は いつもの河原へと急いでいた。 次ここに来るのは、いつになるのか分からない。 ましてや、次あの少年に会うのなんて いつになるのかなど見当も付かない。 もしかしたら今日で最後かもしれない。 第一、今日あの河原にいるというのも 和哉の推測に過ぎない。 ただ、きっといるだろうと言う それなりに大きな自信はあった。 河原に着くと和哉は 背後から、うずくまる人影に近づいていき 「よう。」と声をかけていた。 リスが驚いたような表情で振り向く少年。 やはり、いた。 「驚かせんなよ兄ちゃん。」 「別に驚かせてねぇよ、君が気づかなかっただけ。」 「はいはい。」 そう言いながら、和哉に自分の隣りに腰を下ろす様に 誘導してみせる少年。 それに従う和哉。 「今日も石探しか?」などと言う質問は野暮に過ぎないと 和哉は喉の辺りでそれを飲み込む。 もう7つ揃っていることを和哉は知っていたし 何なら今、それらが全て入ったアルミの箱を その少年が大事そうに抱えているからである。 「今日は何してるんだ?」 「何って、兄ちゃんなら大体分かるだろ。」 知ってるくせに…と言わんばかりの細い眼差しを 和哉に向けてくる少年。 何を根拠に…と、眼で対戦を挑んだものの 別にここでとぼけても自分に利はないと判断し 少し吹き出しながらも、単純な推理を和哉は少年に告げる。 「ドラゴンを呼ぶのか?」 「さっすが。」 どうやらビンゴらしい。 無論、丸い石を7つ集めたら やることなど1つしかないわけだが。 「わざわざ兄ちゃん待っててやったんだからな。  感謝してよな。」 「別に俺は待っててくれなんて言ってないけどな。」 「全く…素直じゃないなぁ、兄ちゃんは。」 たまに出る偉そうな態度は一体何なんだ。 ただ、全く嫌な気はしなかったし 和哉にはそれが可笑しくて仕方がなかった。 「まぁ、それはいいとして。  やっぱりここで呼ぶのか?」 「…うん、まぁ、ここくらいしかいい場所ないし。」 「ここで見つけた石で、ドラゴン呼ぶってのも  なんだか可笑しいけどな。」 「…いちいちうるさいなぁ~。」 「はいはい。」 7つの石でドラゴン呼ぶって時点で本当は可笑しいのだ。 今更場所などのことでどうこう言うものでもない。 少年にとっては、全てが真面目であるのだが。 「…よし、じゃあそろそろ始めるかな。」 そう言ってゆっくりと立ち上がる少年。 いつの間にか、大真面目な真剣顔になっている。 「何をお願いするんだ?ドラゴンさんに。」 「そ、それは…、オレの勝手だろ。」 無論、少年の勝手だ。 ただ、必死で集めた7つの石を消費する願い事だ。 相当の思い入れのある願いであることに相違ない。 和哉にはその内容が、大体見当は付いていたが どちらを選ぶのかが、未だに分からなかった。 そんなことを和哉が考えているうちに 少年は着々と準備を進めていく。 ポケットから取り出した布を河原の砂利の上に広げ そこにアルミの箱に入った7つの石を 大事そうに並べていく。 それぞれの大きさこそまばらだが 改めて、どれも溜息が出るくらいに見事な球形だ。 日は徐々に暮れ始めていた。 そこまで終わると少年は、1つ大きな深呼吸をし 1つ和哉に目配せをすると 時は満ちたと言わんばかりに、声高らかに叫んだ。 「…いでよっ!!ドラゴンっ!!!!!」 広い河原全体に行き届くかのような 少年の甲高い声が響き渡る。 両手を天に上げ 某漫画の実写版(田舎クオリティ)かと思わせるほどの 見事な主人公っぷりではあるが 当然のごとく、ドラゴンなどというものは そう簡単には登場してはくれないものである。 「…あ、あれ?」 数十秒の沈黙に、流石に不安になったか 少年が和哉の方を振り返る。 その、どうしていいか分からないような ハムスターのような表情に 和哉は吹き出してしまいそうになるが いつでも真面目な少年に申し訳ない気持ちが勝り なんとかそれを制御する。 「なんでだろう…。」 顔をポリポリと指で掻きながら 自分の何処に非があったかを、必死で見出そうとする少年。 なんとかしてあげなきゃな。 和哉は頭の中で 少年が納得のいくような結末を何とか練り上げ それを少年に提案しようとする。 ただ、どうしても少し悪戯したくなってしまうのが 和哉の性であった。 「それじゃあドラゴンは出てこないぞ。」 「えっ。」 何かを知っているらしい和哉に 少年はすぐさま食いつき、近寄って来る。 「ど、どうすればいいんだ?」 「ドラゴンを呼ぶ方法って言うのは  今と昔じゃちょっと違うんだよ。」 「そ、そうなのか…。  …じゃ、じゃあどうすればいい?」 「そうだな。  …まず、ドラゴンさんを呼ぶときは  服を着ていてはいけないんだ。」 「えっ!!」 悪い大人になっちまったなぁ…と和哉は内心思いながらも 少年を信用させるために、真剣な顔つきでそう言ってやる。 「…服着ちゃいけないって、…全部か?」 「もちろん。」 「…全裸?」 「全裸。」 「マジか。」 「マジだ。」 流石に少し躊躇う表情をする少年。 いくら田舎だとは言え、野外で全裸は相当の勇気がいる。 それでも、少年にとってドラゴンを呼ぶ行為は 最重要事項だったのだろう。 「…分かった。」と一言呟くと 辺りに人気がないことを警戒しながら ものの5秒ほどで サンダル以外の全ての衣服を脱いでみせた。 ぴょこん、と和哉の目の前に 少年の小さなちんちんが露になる。 和哉の前だからか、まるで隠そうとはしない。 ただ、外だから誰かに見られているかもしれないと言う こそばゆさはやはり付きまとう。 その恥ずかしさからか 少年は小刻みにピョンピョンとジャンプするため その度に、大事なものがピョコピョコと好き放題暴れ それが何故か和哉の脳を刺激していた。 何を考えてるんだ俺は。 小さな男の子にこんなことさせて…と 若干の自己嫌悪感に苛まれながらも 和哉はあることに気づき、視線をその1点に集中させる。 「マジック、落ちたんだな。」 「え?…あぁ。」 いつか、少年の男らしさアップのために 和哉が少年のちんちんの上に描いたマジック製大人の証が 見事に消えている。 「兄ちゃん水性で書いただろ~。  風呂上がったときにはもう  ほとんど消えてたんだかんな。」 ちんちんの上をポリポリ掻きながら 恥ずかしそうに和哉にそう訴える少年。 「あぁ…、ごめんごめん。」 などと謝りながらも 本当はわざと、水性のマジックで塗っていた。 「…そう言えば、どうだったんだ?例の女の子とのお風呂。  まだ聞いてなかったけど。」 「えっ?」 突然の和哉の問いかけに、急に顔を赤らめ始める少年。 なんでこのタイミングで聞くんだよ…と言ったところか。 きっと少年的には今日会った最初の段階で 聞かれるものだと思っていたに違いない。 「…それは、まぁ…その。」 そのときのことを思い出しているのか。 宙を見上げながら言葉を探す少年。 ときどき手でちんちんをいじる仕草を、和哉は見逃さない。 また、一瞬だけ少年がにやけたのも 和哉は見逃さなかった。 「…成功だったんだな。」 和哉の言葉に、少年は隠しきれなくなり 恥ずかしがりながらも口を緩めてみせる。 「…まぁ、そんなとこ。」 「そっか、可愛い発言は撤回させられたのか。」 「…うん、なんか、なんかな。  …か、カッコいい、だってさ。」 きっと大好きな女の子に 初めて「カッコいい。」と言われたんだろう。 そして、それがもの凄く嬉しかったんだろう。 必死で笑みを堪えているが 喜びがにじみ出てしまっている。   「良かったじゃんか、マジック作戦大成功、だな。」 「…いや、マジックって言うよりもな。  …んまぁ、兄ちゃんならいっか。」 そう意味深な発言をすると 少年は和哉にお尻を向け、何やら両手でモゾモゾ… 和哉が頭に?マークを浮かべていると ようやく少年が和哉の方に向き直す。 「こうしたら、カッコいいってさ。」 顔をピンク色に染め、恥ずかしがりながらも 和哉に自分の姿を嬉しそうに見せびらかす。 その意外な攻撃に、思わず和哉は目を見開いて驚く。 少年の小さな宝物が、無邪気に 夏の夜空を見上げていた。
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