小説

夏の大三角 4

『ハプニング』

また1週間も逢えないのかぁ… 長いなぁ… 「千沙ぁーーーー!!千沙ぁーーーー!!!」 織姫さま…、わたし 織姫さまみたいにはなれそうにないよ… 「千沙ぁーーー!?」 彦星さまぁ…ひこぼ… 「千沙ぁ!!!!」 -バタンッッッ!!! 大きな音とともに開いた千沙の部屋のドア。 そこに立っていたのは、相変わらずの Tシャツ、短パンスタイルの男の子 陸だった。 「ちょ、だからぁ!!  勝手に入ってこないでよっ!!!」 「だから勝手にじゃねぇって。  何回呼んだと思ってるんだよ。」 「そう言う問題じゃ…!!  …はぁ、…もういいや。」 「うん、いい。」 「よ、良くないっ!!」 ここ最近、週1ペースくらいの頻度で 陸は千沙の部屋を訪れている。 ちょうど日が暮れたくらいの時間帯 何故か千沙のお母さんが 都合良く外出している時間帯に。 「…まぁた勉強かよ。」 「夏が勝負なの!アンタみたいに  グゥたら遊んでる暇はわたしにはないの。」 「…サボってたくせに。」 「うるさいっ!!」 相変わらずの罵声に、嬉しそうに笑う陸。 「…で、何の用なの?また石?」 「そう、石。」 そう言ってポケットから さっき見つけてきた丸い石を取り出す陸。 今日も見事にまん丸だ。 「はぁ、よくもまぁ…。」 「すげぇだろ。」 嬉しそうに見せびらかしたあと 例のごとく机の上のアルミ製の箱に入れる。 「…これで5つ目だな。」 「こんなん集めてどうすんのよ?  …ってかなんで  わたしの部屋に置いとく必要があんの?」 「ふふん、秘密。」 「…生意気。」 「あ?」 「なんでも。」 陸は今日の仕事を済ませると 机の上に置かれた千沙の問題集に目を向ける。 「…はぁ~、良くやりますなぁ。」 「それは、どーも。」 陸には全く理解できない知識が 教科書の隅々にうごめいている。 「…なんで、東京の中学校なんかに行くんだ?」 急に真剣な顔つきになり、細い目の片方を二重にして 千沙に訊く陸。 「…もうコリゴリなんだよね、こんなトコ。」 「ここが?」 「そ、田舎過ぎるし、なーんにもないし  わたしみたいな人間には向いてないのよ。」 「……。」 「…なによ。」 「目が泳いでるぞ。」 「……!!うるさいなぁ!!!」 なんだかんだで、翻弄されっぱなしの千沙。 「…んまぁ、千沙でも受かるんじゃねーの?  そんな学校。」 「え?…どういう意味?」 「だって、こんな簡単な問題しか出ないんだろ?」 そう言って、問題集の1つを指差す陸。 「はぁ!?何言ってくれてんのアンタ!?  アンタに解けるような問題  ここには載ってないから!!」 「んなことねーよ!これとか、余裕だし。」 「あ、言ったね、じゃあ答えは?」 「…んー、……5。」 「ぷっ、これ算数じゃないし。」 「うるせー笑うな!よしじゃあこれなら…!!」 と、次の問題ならと、陸が千沙の勉強机に 身を乗り出した次の瞬間…!! -ガチャン。 机の上に置いてあった麦茶のコップに引っ掛け 思い切りそれを倒してしまう。 「あっ!!!」 「うぉっ!?」 完全に机の上で倒れたコップの中身は 陸の短パンに見事にかかり 陸は下半身びちょびちょの状態に。 「あー、もう何やってくれてんのよ!!!」 「…う、うるさいっ!!  千沙がこんなとこにコップ置いとくのが悪い!!」 「ここ以外に何処に置く場所があんのよっ?  あーもう濡れちゃって…  ほら早く脱いでっ!!」 「い、いいよ別に!!こんなモンすぐ乾く…」 「乾くわけないでしょ?  ほら、代え持ってきてあげるから。」 「いいって、こ、こらやめろっ!!」 「抵抗するなっ!!!」 そう言って千沙は おもむろに陸の短パンに手を掛け… -ザッ!!! 「ん?」 「っな!!」 「…あ。」 -ぴょこん。 勢い良く下ろしたそれは 陸のパンツを見事に巻き込み… その結果、陸の小さなちんちんが 元気良く飛び出した。 「………!!!」 -サッ!! 千沙の視線を感じ 慌てて大事なそれを両手で隠す陸。 「………。」 「……。」 「……見…た?」 顔を真っ赤にして訊く陸。 「うん。」 驚くほどあっけなく答える千沙。 その返事に、陸は完全に所在をなくした様に固まり 頬を染めたまま黙り込んでしまう。 「アンタまだこんななんだね~。  可愛い~。」 恥らう陸をからかう様に 少しだけ照れながらも、嬉しそうにそう言う千沙。 その千沙の反応に、陸は顔をまっかっかにして 両目を二重にした鋭い目つきで、千沙を一瞬見つめ 「可愛いとか…言うなぁ!!!」 そう言い放ち、短パンとパンツをズリ下げたまま 両手でそこを押さえただけのだらしない格好のまま 千沙の部屋から飛び出していった。 一瞬千沙を見つめたその瞳には うっすらと涙を浮かべているようにも見えた。 -バタンッ。 陸がいなくなり、千沙の部屋に急に静寂が訪れる。 …何よアイツ。 自分でこぼしといたくせに…自業自得じゃん。 これだからガキは… …にしても、初めて見ちゃったな。 陸のおちんちん。 …ふふ、ちっちゃかったなぁ~、超可愛いかった。 いつもからかってばっかくるけど やっぱりまだまだ、陸はお子ちゃまなんだよね。 …… 「…ふぅ、なるほど…ね。」 夜空には例のごとく、大三角が姿を現す。 さっきのデネブのハプニングで 思いついちゃった。 一際大きな輝きを放つ星を見つめながら 千沙はアルタイルへの願い事を思い浮かべ 1人、頬を染めていた。
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