夏の大三角|Kune Kune Project

小説

夏の大三角 5

『お願い』

「よし、できてる。」 「ひひ、やったね。」 昼下がりの千沙の部屋。 和哉がここにやってくる週に1度の日。 和哉はいつも、千佳に宿題を出していて 1週間後それの答え合わせをすることから 勉強を始めることになっていた。 「にしても、ホント頑張るね。」 「だって、夏が勝負だもん。」 得意げにそう言う千沙。 事実、千沙の学力はこの夏で 驚くほどに向上していた。 「もう俺の教えることとか、ないかもしれないなぁ。」 「え!そ、そんなことないよ!!」 たじろぐ千沙。 「はは、冗談冗談。  夏の間は、しっかり教えさせてもらうよ。  でもホント、良く頑張ってる。」 「…へへ。」 鉛筆を持ったまま、嬉しそうに笑う千沙。 誰にも見せない顔とは きっとこういう顔のことを言うのだろう。 「…ん?」 「え?」 ふと顔をしかめる和哉。 そしてそのまま、机に少し身を乗り出す。 その視線の先にあったのは アルミ製の銀の箱だった。 中には、丸い石が5つばかり入っている。 「…これ……」 何かに気づいたように、そう呟く和哉。 「ああこれ…、あ!  …べ、別に!!石を集めるとか言う  地味な趣味持ってるわけじゃないんだよ!?」 「…はは、別に石集めが地味だとは思わないよ。  でも、どうしたの?これ。」 「近所のガ…、いや、…近所の男の子が…ね。  何故かは分かんないけど  最近丸い石を持ってきては、ここに置いてくの。」 「男の子…」 「うん、こんなの集めて何するのって聞いても  全然教えてくれないし。  なのに、絶対捨てるなってうるさいし。  わたしも良く分かんないんだよね。」 「…ふーん。」 丸い石の1つを手にとりながら 千沙の話を興味深そうに聞く和哉。 「クラスの子?」 「…んまぁ、クラスの子って言えばクラスの子だけど…  学年は違うよ、2こ下、4年生。  田舎の学校で人数少ないから  高学年生はみんな  一緒のクラスで勉強してるってだけ。」 「ふーん、4年生…ね。」 何かを思い出すように まじまじとその石を見つめる和哉。 「名前は?」 「な…まえ?名前は…陸、田中陸。」 「陸…ね、…なるほど。」 「…な、なんで?」 「ん?なにが?」 「いや…だって和兄。  なんか凄い興味津々って感じだし。」 「…あ、いやいや、ちょっとね。  俺の知り合いにも丸い石を集めるのが  好きな奴がいてね。  もしかしたらって思って…。」 「へぇ~、そうなんだ。  でも絶対違うよ。  いつもTシャツに短パンみたいな、田舎丸出しの子だし  和兄と知り合いなわけないよ。」 「はは、そうだね。  そう言えば、陸なんて名前じゃなかったな。」 「でしょー?」 いつもの笑顔に戻り、石を元に戻す和哉に 相変わらず嬉しそうな千沙。 「…さて。」 箱を元の場所に戻し いざ勉強開始…と思われたそのとき 「あ、ちょっと!」 和哉の動きを静止させる、千沙の声。 さっきまでの嬉しそうな顔からは一転 恥ずかしそうな、照れたような顔になる千沙。 「…ん?どうした?」 「あ、いあ…そのね。  あの~、前に言ってた…ね、あれ。」 「ん?あれって?」 「ん、だからぁ…」 「…あぁ。何でも言うこと聞くって言うやつ?  やっと決まった?」 「え、うん…まぁ、一応。」 言うのを躊躇うかのように 頬を指で掻きながら机の一点を見つめる千沙。 「そか、で、内容は?」 「えっと、えっとね…  む、無理ならいいんだけどね…。  その…」 「うん。」 「えっとぉ…、一緒にぃ…」 「うん。」 「お、おふ、…お風呂に入って欲しい…!!」 精一杯振り絞った末に ようやく出てきた千沙の願い事。 「…え?」 その内容に、意表を突かれたように唖然とする和哉。 「う、受かったらね。  和兄に一緒にお風呂入って欲しいな~って…。」 椅子に指をモジモジさせながら 恥ずかしそうにそう続ける千沙。 「え、えと…千沙ちゃんと一緒に  お風呂に入る…のが、願い事?」 「う、うん…。  う、うちのお風呂ってね。  天井がガラス張りになっててね。  夜だと星とかも凄い綺麗に見えるの!!  だから、一緒に入りたいなぁ~…って。」 早口でオプションを追加していく千沙。 和哉を説得しようと必死なのだろう。 そんな和哉は、鼻を指で掻きながら 少し困ったような表情を見せる。 「…風呂、お風呂…って言うと  えとー、裸、だよね。」 「い、いや!!も、もちろん  タオルとか巻くしわたしも巻くし  和兄ももちろん巻くしみんな巻くし!!  ただ和兄と、星が見たくて…!!!」 あからさまに動揺する千沙。 顔を真っ赤にして、和哉を見つめている。 そんな千沙の姿に、和哉は少し吹き出し 笑顔に戻って 「…分かった、そんなんでいいなら  いいよ。」 そう言って、千沙の要求を受け入れた。 「ほ、ホント!?」 「うん、その代わり受かったら、だけどね。」 「わ、分かってるよ。」 和哉の許諾に 照れながらもいつもの笑顔に戻る千沙。 「…よし、じゃー時間もないし  勉強いたしましょうか。」 「うん!!」 前置きが長くなりながらも ようやく始まる和哉のプチ授業。 和兄と同じ学校へ行ける。 しかも、和兄と一緒にお風呂に入れる… いや、もしかしたらきっと…!! 紅潮していく顔を両手でパチパチと叩き 机に向かう千沙。 これまで以上に、頑張らない理由はなかった。
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