小説

テイク7 scene12

「ミノル~!!!」 ―ドンッ……!!!!! 本日4回目…いや、リハを入れれば5回目かな。 高揚しきった胸を抑えながら、そう叫び 浴槽へと踏み入る。 大志を睨み付ける。 …もう、何を考えてるのかなんて分からない。 わたしを睨み返す大志。 「…な、なんだよ。」 …ん、んと……、あ… 「アンタ、わたしのビー玉どこやったのよっ!?」 …そう、それであってる。 「…はぁ?…知らねぇし。」 …うそ…、嘘、つ、つくな…。…あ… 「アンタしかいないでしょ!?」 ビー玉…、玉…、…持ってるのは…… 玉…、…た、たま…… 「…うるっせーなぁ。」 本日3回目の、身構えを余儀なくされる合図。 さっきはこの後…大志は…… わたしの予想を裏切って、堂々と… わたしの目の前で…… ―ザバァァァアアアアンッ!!!!!! 大きな水しぶきと共に浮かび上がる 男の子のシルエット、大志の体。 今度はどうなんだろう…、またテイク2に逆戻り…? それともテイク3同様…? それとも、それを経てのテイク4への突入……!? …徐々に目の前に現れる肌色の姿に 同じ失敗の姿はなかった。 さっきと同様、前を隠さずに 大事な部分丸出しの姿で立っている大志の姿が そこにはあった。 …また…出た…、出ちゃった… 大志の、おちん………!! …と、今度はそんなに気持ちを整理する猶予を ミノル、もとい神山大志は、わたしに与えてくれなかった。 ―ザブッ、ザブッ…!! 右足、左足…と勢いに任せて湯船から出し 洗い場へと踊り出る大志。 そしてそのまま、本当にわたしの目の前まで近づいてくる。 一瞬の出来事に、常識的な思考回路を失うわたし。 目前に広がる肌色の世界に ただただ視線の先の確定に戸惑う。 最初に捉えたのは大志のおへそだった。 ポコッと出たお腹のど真ん中に、ポチッと開いた穴。 キラキラ光って見えるのは まだお湯が溜まっているからだろう。 息が荒いのか、大志のお腹は大きく膨張収縮を繰り返し そのたびにおへその水が、ビー玉のように光輝く。 …て、違う、わたしが見るべきものはそこではない。 ちゃんと、演技をしなきゃいけないんだ… 次…誰の…、どっちの台詞だっけ…… その前にわたしはどこに目を向けていればいいの…? おへそじゃないよね…、か…顔……? そうだよ、顔だよね…人と何かを喋るときには ちゃんと目を見て喋りなさいって教わったし… …で、でもそんな…こんな至近距離で今 大志の目を直視することなんて…、…できない。 でも、でもとにかく …次のアクションを起こさないとまた NGになっちゃう……、とにかく… とにかく動けわたし……!! …そんなわたしが咄嗟に動かした視線は 上ではなく、下だった。 …重力に負けたんだ…、重力に…、負けたん… 手を伸ばせば簡単に届く距離。 目の前で大志のおちんちんが、小さく構えていた。 見下す形になる。…初めてのアングル。 さっきまで覆っていた水分を綺麗さっぱりはじき ピカピカに洗浄され茹で上がったおちんちんが わたしの手中に納まろうとしているがごとく 差し出されている。 …た、大志…、なん、なんで…? 丸見えだよ…? …つるつるのおちんちん…全部見えてるよ? すっぽんぽんだよ…? なんで、…なんで隠さないの…? わたし…どうすればいい…… 「カァァアアアッットォォォオオオオ!!!!」 …かかってしまったNGサインに ドキッとすることもなく、ただただ硬直するわたし。 当の大志は、無言のまま ゆっくりと右手を自分のそこへと移動させ 添えるようにして、それを隠していた。 そのままくるりと向きを変え ゆっくりと湯船の中へ戻っていく。 どんな顔をしていたの…? 湯船に浸かるも背中を向けたままの大志に 心の中で聞いてみるけど それよりも、実は初めて見てしまった大志のお尻に 違う興奮を見出してしまっている自分がいたりした。 …、真っ白だった…。 「…もーう、理奈ちゃん駄目じゃないか~。」 監督の第2声にようやく我を取り戻すわたし。 …え、い、今のって… 「あそこは大志の目をしっかり見てくれなきゃ~。  あれじゃ初めてクラスメイトのちんちん見て  興味津々の女の子にしか見えないぞ~?」 ………!!! そ、そそそ、そんなつもりじゃ……!!! …いやでも、… ……でもそんなこと言われたら… …た 大志に救いを求めても、依然として背を向けたまま。 …違うよ、助けを求める対象がおかしいよ… …でも、その…、わ、わたしは……!! 違う!!だなんて、言えなかった。 だって、監督の言ったそのまんまがわたしだったから。 でも、ごめんなさい、なんて言えなかった。 それを言ったら、そうだったと言う自白になるから。 だから、何も言えずに 隠れるように最初の立ち位置に戻った。 テイク5の準備をした。 …ごめん大志…、次はちゃんと… ちゃんとやるから………
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