小説

テイク7 scene19

―ワイワイワイワイ…。 ―ガヤガヤガヤガヤ…。 その日の学校は、朝からもの凄い賑わっていた。 ある程度予想はしていたけど こんなに騒ぎになるとは思っていなかった。 今日は、昨日の明日。 昨日は、『江崎家の非日常』の21話の放送日。 そう、あのシーンを含んでいる回だ。 昼帯のドラマだから、普通は見れないんだけど わたしたち2人が出ているって言うことで 録画して、帰った後に見ている子がほとんどらしい。 …で、もちろん、この盛り上がりの原因は、ただ1つ… 「大志~!!昨日見たぜ~!!!」 大志の机を囲むようにして、男の子たちが集まっている。 「ケツ丸出しだったなぁ~!!」 「かかか!!大サービスだなっ!!!」 「子役って大変だよな~!!!」 口々に率直な感想を好き放題に語る男の子。 あのお風呂のシーン 大事な部分はもちろん映ってなかったけど 大志のお尻は必要以上くらいに映されていた。 お尻ごしにわたしの顔が抜かれているカットでは 流石にテレビとは言え、目を伏せてしまった。 「…うるっせーなぁ。」 そんな周りに、ただぶっきら棒に振る舞っている大志。 凄く…、恥ずかしそう。 …なんて、他人事みたいに言ってもいられない。 わたしの周りにも、女の子たちが溢れかえっている。 「理奈、昨日見たよ~!」 「わたしも~!…ってか、神山くんの~…!!!」 「ねー!…見ちゃった~!!!」 興味津々の子、恥ずかしがる子、ホント混沌とした状態。 …でも、そうだよね、単純に考えて このクラスにいる女の子に テレビ越しにであれ、お尻を見られちゃってるんだもんね。 …きっと、目茶苦茶恥ずかしいよね…。 「…ってかさ~、あのシーンてどうやって撮影したの~?」 「ねー!わたしも気になる~!!」 構える間もなく、恐れていた質問をされる。 …そんなの…言えるわけ…… 「…え、え?…それは~……」 そ、それは… 「マジでーーーーーーーー!?!?!?」 わたしの声をかき消すほどの大声に クラス中がそちらに注目をする。 …どうやら、何人かの男の子たちが 狂ったように興奮している様子。 何…?何……?ヤな予感… 「あのシーン、あの風呂のシーン。  大志何も隠してなかったらしいぜ!?」 「…ぇえ!?マジで!?  あー言うのって普通撮影だったら  前は隠すんじゃね―の!?」 「いや何もっつっても、流石にちょっとは隠してるだろ~。  変なとこ盛るなって大志ぃ!」 ザワザワがエスカレートしていく… ちょっと大志、もうそんなとこまで話さなくても…いい…… 「うるっせーなぁ、隠してねーよっ。  ちんこ丸出しでやってやったんだよっ!!!」 クラスの全員が聞き取れるほどの大声で そう自白する大志。 「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」 「マァジカァァァアアアアア!!!!!」 確信的なその大志の台詞に、大興奮の男子たち。 大志…もうなんでそんなこと…… そんなこと言ったら…、今度は…… 「…待て待て。  ……ってことはてことは……!?」 「…てーこーとーはー!?」 ―ギラッ。 大志の周りを囲んでいた男の子たちの目線が 一斉にわたしの方へと向けられる。 ほら、もう最悪…… 「…え、理奈…ほ、ホントに…?」 「そ、そうなの理奈……!?」 女の子たちから、質問が雨のように降ってくる。 そしてその答えを、男の子たちも期待している。 …一瞬気味が悪いくらいにクラスが静かになって… 完全にクラス中が、わたしの反応待ち…… ……、もう……、知らない……っ!! 「…そうです。全部見ましたっ!!」 もうヤケになって、大志に負けず劣らずの声量で そう答えてやった。 …… 「きゃーーーーーーー!!!!!!!!」 「えーーーーーーーーー!!!!!!」 「いやーーーーーーだーーーーーーー!!!!!!」 「うおぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」 「きたぁぁぁああああああ!!!!!!」 「まぁじぃでぇじぃまぁぁあああああ!!!!!!!」 もう朝のテンションとは考えられないほど クラスはお祭り状態のどんちゃん騒ぎ。 喜ぶ男の子。興奮する男の子。 わたしの方を見てくる男の子。 何故か恥ずかしそうに 自分のそこを服の上から隠す男の子。 きゃーきゃーする女の子。照れる女の子。 何故か涙を流す女の子。 恥ずかしそうに大志の方を見て 羨ましそうにわたしの方を見る女の子。 言っとくけど…、わたしのせいじゃないからね。 大志に、大志に合わせただけだから… 「おーい朝からどうした~!?  みんな席つけ~!」 グッドタイミングで先生が登場。 そそくさとみんな自分の席に戻り始める。 ホームルーム中も、ザワザワは収まらないけど 終わった後のこと考えると 若干めんどくさかったりするけど …まぁ、なんとかなるでしょ。 あのシーンを乗り越えられたわたしたちだもん。 …ね、大志。 ひたすらうずくまる大志の背中に カメラが回っているときのように、心で語りかける。 何でも聞いてくるがいいさ。教えてあげるよ。 プロの世界の厳しさってものをさ。 みんなには、多分絶対出来ないでしょうけど、あんなこと。 …ただ、 あのシーンのフレーム外で起きていた、とてつもない事件。 良く考えると、ホントびっくりするよ。 あれが、OKテイクになったなんて。 …思い出すだけで恥ずかしくなる。 口が裂けても、それだけは、教えたくない。 きっと大志も、むしろ圧倒的に大志の方が そう思っているはず。 きっと墓場まで持っていくであろう わたしと大志だけの、秘密。 ―テイク7 多分きっと、二度と聞くことのない合図。 何故って?わたしたちプロだよ? そんなにミスするわけないじゃない。 絶対に忘れないけど、絶対に繰り返したりはしない。 もし次、そんなシーンが来たら 1発でOKを言わせてみせるんだから。 …と、それよりもまずは先に この状況を上手く片づけなきゃね。 ほら大志、ホームルームが終わるよ。 準備はいい? …… よーい… …アクション。
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