小説

テイク7 scene4

「さようなら~。」 「さようなら~。」 今日も無事学校が終了。 ふぅ、疲れた~。 今日は早く帰って家でゆっくり… なんてワケにもいかないのは 重々承知。 「スケジュールが押してるの。」 マネージャーさんと監督の 最近の口癖にもなってる。 …でも、好きでやってるんだもん。 甘えたことなんて言ってられないよね。 …… …でも、今日はちょっと、なんか いつもと意気込みが違うと言うか… 意気込みって言うか…、その 落ち着かないと言うか 朝からずっとドキドキしてて… …… 「…な?」 「………。」 「…理奈?」 「…!…は、はいっ。」 「……何それ。」 ふふふ、笑う友達。 「ボーっとしてるよ。疲れてるんじゃない?  大ジョーブ?」 「…え、…ううん!  全然全然っ、余裕余裕っ!」 「ふ~ん、ならいいんだけどさ~。  で、今日も?」 「…う、うん、そだね。」 「そっか、残念。  ま、頑張ってきてよっ!んじゃね~。」 「うん、じゃーね~。」 無理矢理頬を緩ませて 笑顔で手を振る。 …、駄目だ、ボーっとすると すぐ変なこと考えちゃう。 …そんなワケないのにさ、…はは。 …… 「…し?」 「………。」 「…大志?」 「…!…は、はいっ。」 「はぁ?なんだよそれ。」 ……… 「疲れてんじゃねーの?大ジョブか~?」 「…そ、そんなことねーって。  余裕余裕…、がはは。」 「はは、ならいんだけどさ。  んで、今日も野球無理そうな感じか。」 「…そ、そだな。  今日も例のアレ…だから、…さ。」 「そか、いつも御苦労だな。  ま、また懲りずに誘うからさ。  来れるときは適度に付き合えよなっ。  んじゃな~。」 「おうっ。んじゃな~。」 …無理矢理頬を緩ませて 笑顔で手を挙げる大志。 …… …きっと、そんなことあるワケ… あると考えてしまっているもう1人。 アンタがそうでどうするのよっ。 …大志までそんなだと、ホントにそんなことに… -プップー。 例のごとく わたしたち以外誰もいなくなった教室に いつものクラクションが響く。 こんなにビクッとしてしまったのは きっと今日が初めてだろう。 すでにランドセルを背負い 出動体勢万全のわたしたし2人。 …行こっか。 その意味も込めて、いつものように大志の方を向く。 当然合致する、視線。 …行くぞ~。 いつもなら、そのお決まりの誘い文句に 断る理由もなく、2人で一緒に 校門へと駆けていく…、のに …視線があったその瞬間 大志が恥ずかしそうに、その目を逸らしてしまった。 …え。 心臓が大きく1つ跳ね、わたしも思わず それをオウム返し。 ……、な、何これ…。 大きな沈黙。 …外から聞こえてくる 他の子たちの大きな笑い声。 なんだか分からないけど 凄く羨ましく思えてしまう。 …それくらい どうしたらいいか分からない沈黙。 …でも、行かなきゃ行かないんだよ大志…。 みんなが待ってるんだもん。 …ここは、今はわたしが お姉ちゃん役のわたしが 大志を引っ張っていかなきゃいけないんだ…! 「何にもないって。行こっ!」 まるでカメラが回っているかのような 演技じみた笑顔で 大志に喋りかけようとしたその瞬間 ―タッタッタッタ… 大志は、そのまま何も言わずに 教室を出て行ってしまった。 …うぅ。 もう、どうすんの…。 ―車内。 逃げてしまったのかとも思ったけど ちゃんと大志は車に乗っている。 わたしを置いて、先に車に駆けて行っただけだった。 「なんで今日はバラバラ?」 マネージャーのお姉さんに、疑問がられたけど 大志が何にも答えてくれないから 無理矢理嘘で誤魔化すわたし。 …もう、気ぃ遣わせないでよね。 …って言っても、しょうがないか。 …昨日2人で確認した、あのシーン。 どうなるんだろう…、どうなっちゃうんだろう… 昨日からずっと、今日の授業中もずっと そのことばかり考えている。 …きっと大志も。 …おそらく、間違いなく。 「…なぁにぃ?2人ともダンマリしちゃって。  喧嘩でもしたの~?」 流石に不思議に思ったのか 運転中のマネージャーさんが わたしたちにミラー越しに話しかけてくる。 いやその…、なんて言えばいいか… 「…別に。」 迷うわたしをよそに、そう小さく呟く大志。 思わずそちらに目を向けると 赤く染めた顔で、窓ガラスから 外の流れる景色を眺めていた。 …な、何それ。 逆にそんなテンションで答えたら ホントに喧嘩してるみたいに 思われちゃうじゃん…! 「…全くもう。  変な空気持ち込むのだけは止めなさいね~。」 やれやれといった感じで 鏡越しにわたしたち2人を見つめるマネージャーさん。 ほら…、完全に勘違いされちゃったじゃん。 ちょっとは考えてよね…。 …って言うか …あー、なんかもう馬鹿らしくなってきちゃった。 なんでわたしがこんなに 気ぃ遣わなくちゃなんないのよ。 …大体そんなくだらないことで 急にセンチになったりしないでほしいよね。 そんな、…そんなことあるワケないけど …もし、もしもそうなっちゃったとしたって プロなら、それを受け止めて プロらしく、その役を全うするべきってモンじゃないのっ? …何よ、1人だけ被害者ぶっちゃってさ。 わたしだって、…アンタの見ちゃうかもしれないって ドキドキしっぱなしだけど それを押さえて頑張ってるって言うのにさ。 …ふんだ。 「…別に。」 わたしだって。 …大志に対抗するがのごとく 窓ガラスに頬を付け、呟いて見せる。 …大志なんて、大志なんて監督に すっぽんぽんにされちゃえばいいんだ。 …強気で心で叫んでみたけど でも、でもやっぱり、その姿を想像すると ドキドキが止まらなくなってしまう。 ふと目に留まるガラスに映る自分の顔が 恥ずかしいくらいの照れ顔になっていて やっぱりそのまま、俯いてしまう。 うぅ…もう… …どうなるんだろう。
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