テイク7|Kune Kune Project

小説

テイク7 scene6

数分足らずで、脱いだ服を抱えた大志が 戻ってきた。 下には、渡された紺色の海パンを履いている。 さっきまでの弱腰、絶望的な姿勢とは一転 どこか誇らしげにこちらに向かって歩いてくるのが なんとも単純で、おかしかった。 よっぽど安心したんだろうな。 …まぁ スタジオに1人海パン一丁って言うシチュエーションも 普通に考えたら恥ずかしいはずなんだけどね。 していた想像が想像だけに…ね。 こんなの、屁でもないんだろうな。 ……屁って。 「よし、じゃあ、早速リハから行くぞ~。」 大志の姿に大きく頷き カメラの後ろへと戻っていく監督。 近寄ってきたマネージャーさんが 大志の脱いだ服を受け取って退き リハの準備がようやく調う。 ―ザブーーーン! 意気揚々、余裕綽々に浴槽に飛び込む。 …ちょ、ちょっと衣装濡れちゃったじゃん…!! …と 「そんなとこ突っ立ってないで  理奈も早くスタンバイしろよな~。」 湯船に浸かった大志が 顔だけ出してわたしに忠告をしてくる。 赤は引き、すっかり安心しきった顔になっている。 …なによ。 今日、1人でセンチな気分漂わせて さっきまで一度も、目も合わせなかったくせに 呪縛から解放された途端、そんな態度取っちゃってさ。 …わたしの気も知らないで。 「…わ、分かってるよっ!!」 少し怒鳴り気味にそう吐き捨てて セットの外、お風呂のドアの外へと スタンバりにいく。 ―ドンッ!!! セットのドアを閉める力も、自然に強くなっていた。 …なんか、何この負けた気分。 …あー、駄目駄目イライラしてきてる。 冷静にならなきゃ冷静にならなきゃ… わたしは女優… こんなくだらないことでカッカしてたら 渡辺さんみたいな素敵な女優さんになれないぞ…! 自分を叱咤激励し、邪念を振り払い 頭の中でシーン21-6のシミュレーションをする。 どうしても出来なかった空白のシーンも 今なら、簡単にイメトレすることが出来た。 なんか…ほんと、馬鹿みたい。 …ふぅ、落ち着いて落ち着いて。 「よ~し、じゃあシーン21-6、リハ1回目。  3、2、……」 ~おさらい~ 【シーン21-6】 駆け足で浴槽へと向かうカズミ。 バーンと、思い切り浴槽のドアを開ける。 カズミ「ミノル~!!!」(怒鳴ったような張った声で。) 浴槽に浸かるミノル。 突然の姉の侵入に驚きながらも すぐに平常心を取り戻した表情へと変わる。 ミノル「…なんだよ。」(ぶっきら棒に。) カズミ「アンタ、わたしのビー玉どこやったのよっ!?」     (睨みつける感じで。) ミノル「…はぁ?…知らねぇし。」     (本当は知っているけど、それを隠す感じで。) カズミ「アンタしかいないでしょ!?」     (風呂の中に1歩歩み寄りながら。) ミノル「……。」 (2秒くらいの沈黙。) ミノル「…うるっせーなぁ。」 ミノル、浴槽から徐に立ち上がる。 (前などは隠さずに、そのまま立ち上がる感じで。) (カメラ)ミノルの背後から     ミノルの裸ごしにカズミを写す感じで。 ミノル、そのままカズミの目の前まで歩み寄る。 ミノル「…これのことかよ?」     (嬉しそうに、子供らしい弟らしい満面の笑みで。) ミノル、カズミの左手首を右手で徐に掴む。 (カメラ)カズミの驚いた顔を写す。 ミノル、掴んだカズミの左手を そのまま自分の股間(袋)へ押しつける。 プニっと、2つのそれの感触を確かめた後 (カメラ)カズミの目をマン丸くした顔を写す。 カズミ「…バカッ!!」     (弟と言えど、少し照れたような顔と口調で。) カズミ、ミノルに握られた左手を振りほどき その手でそのままミノルの頬をビンタ。 (強さはお任せします。) カズミ、そのまま浴室を飛び出す。 (カメラ)ミノルの顔を写す。 ミノル、叩かれた頬を右手で押さえながら。 ミノル「…いってー。」(口をすぼめながら。) (カメラ)ミノルのバックショットを2秒ほどキープ。 …… ~おさらい終了~ 「…はいカットォ!バッチリだぁ!!完璧ぃ!」 何回も何十回も読み直したこのシーンのリハも 蓋を開けてみれば一発OK。 リハだからビンタするところは軽く触れた程度だったけど 今のが本番でも良かったんじゃないかってくらい きっと2人とも今日一番の、会心の演技だった。 いろいろ吹っ切れたから、いろんなものが 爆発したんだろうな。 …あ、ちなみに、その 大志の…、ミノルの…アレを触るシーンは…ね。 もちろん、手を浮かせてね、…やりました。 一応ね。…… …言わせないでください。 「よ~し、この調子で本テイクもサッと行っちゃおう!!  …あ~理奈ちゃん。  本番はもう、バーンと  思いっきり叩いちゃっていいから~!」 「え~~!!なんだよそれ~~~!!!」 湯船に浸かり直し、不満の声を上げる大志。 …なんだかそれ姿が、妙に馴れ馴れしいというか 撮影を舐めているように見えて わたしはますます大志に苛立ちを覚え始める。 「分かりました。思いっきりいきます。」 「お、いーねぇ理奈ちゃん。頼んだよ~!!」 「ちょ、理奈お前っ!!」 「ふんっ。」 これくらいさせてもらったっていいでしょ。 わたしだって あんなに無駄に精神削られちゃったんだから。 …別に、その恨みを演技で返そうってわけじゃないけどさ。 現に、思いっきり叩いた方が、絶対いい画になるし。 …言い訳じゃないもん。 「よし、じゃあ早速本番行こうか。」 今日一番の演技見せてやる…!! 「…と、あ。そっかそっか。」 …と、ん? その勢いのまま本番に行くのかと思いきや 何を思ったかそう小さく呟き わたしたちの方へと歩み寄ってくる八嶋監督。 なんだろう…? わたしも大志も、疑問に思い 近づいてくる監督に目をやる。 …な、なんかミスしたかな? 今日ノ―NGと言う素晴らしい偉業も追い風になって ドキドキしながら待っていると… 「ほら。」 …ん?どうやら大志に用があるみたい。 良かったわたしじゃない…でも なんかしたかな大志…? 「…え。な、…何。」 突然の監督の問いかけに、即動揺の色丸出しになる大志。 …って言うか、監督 なんか、大志から何かを没収したがってるみたいに 手を差し出してるようにみえる…。 …なんか湯船に持ち込んだとか?撮影なのに? そんな馬鹿な…ね… …じゃあ何を…、いま大志が持ってるものなんて 身につけてるものなんて… ……、 ………まさか 「海パン。」 低い声で、大志にそう告げる監督。 …… 「…え。」 大志が声を漏らすのとほぼ同時に わたしも同じセリフを漏らしてしまう。 海…パン……? 「当然だろ~。  今のはリハだから海パン着用させただけで  本番はもちろん海パン着用禁止。  フルチンだぞ。」 当たり前のように、笑顔でそう言う。 …フ、…フル…チン……? 大志の、余裕だった顔が、赤が引いたはずの顔が 逆流するかのように、舞い戻っていく。 …… …うそ。
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