小説

成長くらべっこ 12

-罰ゲーム 前日-

全ての結果が出た翌日。今日は土曜日。晴れ。 フミちゃんが、所属する野球クラブで行う最後の試合に出る日。 それを見るために、私は今、学校の校庭に来ています。 さすが試合、しかも最後とあって 1週間前の今日とは打って変わって、ギャラリーがたくさん。 親御さんと思われる大人の人たち 友達と思われる同世代くらいの子たち。 少なくとも50人くらいは見に来てるんじゃなかな。 とりあえず、この前みたいな居心地の悪さを感じれるほどの ベンチを独り占めできるような状況下に陥るようなことは なさそうです。 違う野球クラブチームの人たちとの試合。最終試合。 白地に赤の刺繍が施されたユニフォームを着ているのが フミちゃんたちのチーム。 その中に、探すこともなく、フミちゃんの姿を確認する。 気持ちフミちゃんのユニフォームが使い古されて見えたのは 人よりも大目に練習を重ねてきたせいか はたまたただ単に、私の贔屓目フィルターに掛けられているのか 今の自分には、ちょっと分からない。 試合は0対0のまま、延長戦にもつれ込む。 なかなか最初で最後の1点が決まらない展開に 正直野球のルールについてそこまでよく知らない私でさえも 手に汗握りながらハラハラとしていると 待ってましたとばかりにバッターボックスに登場したのは 何を隠そう私の今日のお目当て、フミちゃん。 「文弥ーーーーー!!!打てーーーー!!!」 甲高い聞き覚えのある女の人の声が響く。 フミちゃんのお母さん…、かな。 その歓声の直後の打球に、フミちゃんのスイングは空を切り 1ストライク。 「文弥ぁ!!!打てよぉ!!」 今度は少しドスの聞いた男性の声。 …多分フミちゃんのお父さん…だよね。 その力強い応援も空しく、球はフミちゃんのバットをスルリと抜けて 2ストライク。 2ストライク…、と言うことは あともう1回ストライクを取られたら、選手交代。 …この試合中に覚えた、野球の基礎中の基礎知識。 今日フミちゃん、全くボールを飛ばしていない。 なんとかいい思い出にしてあげたい。 最後だから、……最後、だから。 …… … 「フミちゃーーーーん!!頑張れーーーーー!!!  かっ飛ばせーーーーーーー!!!!」 私は周囲の迷惑や驚きなど考えもせずに 気づくと一心不乱に叫んでいた。 一瞬、周りの視線が私1点に集中したような 眩暈を催すほどの所在なさを感じたけど そんなの今はどうでもよかった。 私の大声に、フミちゃんがどんな反応を示したかは この位置からは毛頭確認できない。 でも、その代わりに、その返答に フミちゃんは最高のアクションを私に示してくれた。 運命の3球目は、これぞ運命と言わんばかりに フミちゃんのバットに吸われるように飛んでいき その球を目がけて、私がここだ!と 直観的に感じたまさにそのタイミングで 力いっぱいに自分のそれを振り切るフミちゃん。 ―カーン。 青空をさらに青空にするような清々しい高音が響く。 同時に、打ち上げられたボールがみるみる上昇していく。 もちろん同時に、フミちゃんも1塁ベースへと走り出す。 塀もない、決められたラインもない。 この試合に、ホームランなんて言う概念は きっと存在しないのだろうと思ってた。…でも 弧を描くはずの打球の軌跡が いつまで経ってもその弧の頂点に到達しない事実を 驚きと感嘆の気持ちで見つめていると …パッ、と、消えた。フミちゃんの、球が。 いや本当は、消えただなんて そんなサイエンスチックなことじゃなくて 校庭を、学校を囲うかなりの高さを持つネットを、 いとも簡単にと言っても差し支えないほど それなりの余裕を要しながら、越えていったんだ。 あんな、何処まで飛んだかも測定できない球 取りに行く、と言うより 探しにいくと言った方が聞こえがいいよね。 うん、誰が見たってそれは、紛れもなく ホームランだった。 … ……… ……… … 「ありがとな、今日は来てくれて。」 試合後、観客の密度も緩和され始めた頃合いを見て 私の元にやってきてくれたフミちゃん。 「いーえ。お疲れ様。  カッコ良かったよ。」 試合の結果は1-0。 もちろんフミちゃんのチームの勝ち。 そしてその決定打になった1点も、フミちゃんがもたらしたもの。 完璧な、最高の卒業試合になったんだ。 「いやいや、小春の応援のおかげや。」 「…そんなこと、ないよ。」 鼻をさすりながら照れ笑いでお礼をされ 急に恥ずかしくなってドモってしまう私。 「いやホンマにな、小春の声が聞こえてきたら  なんか急に力がみなぎってん。  俺練習でもあんなに飛ばしたことないねんで?  絶対、小春のおかげや。ありがとう。」 「…う、うん。  ど、どういたしまして。」 そんなに感謝されると、余計恥ずかしくなってしまう。 あの暴挙は、出来ればあまり思い出したくない、と言うか。 …でも、結果オーライ、…だよね。 うん。 「…で」 少し沈黙を作った後、ここからが本題とばかりに 意味ありげな接続詞を1つ漏らすフミちゃん。 「…で。」 意味もなくそれに倣う私。 「…で、やな。」 「…で、ですか。」 何を躊躇っているんだろう…、私たち。 「…どや?」 何に対する質問か、素直に分からないから 「何が?」 お決まりのように返す。 「…テストや、どやった?」 そりゃ…そうだよね、なんて。えっと… 「…こ、ここでもう発表?」 「いやいやちゃうちゃうちゃうちゃう!!  感想や感想、発表は明日や。  探りや、探り。」 急に取り乱したように首を振り、その真意を付けたす。 …ど、どやった…、って、言われても…… …… 「…どう…、かな……?」 「…なーんや、それ。」 呆れたのか、ホッとしたのか、当然かと思ったのか よく分からない笑みを見せるフミちゃん。 「…フミちゃんはどうなの?」 「んー、…どやろな。」 なーにそれ。 「…せやな、1つだけ言っとくとな。」 「…な、何?」 「えっとな。  …小春がおっぱいボインボインせなあかん可能性、  それなりにあるような気ぃすんで?」 フミちゃんのセリフに、一瞬ドキッとする。 …つまりそれは、自信あるぞ宣言ってこと…だよね。 …でも、…でも、取り乱したりなんかしないん…だからっ…! 「…そ。」 素っ気なく、一文字で返す私。 「…ふーん。」 「…、ん、何?」 「いやいや、なんでも。」 「私を突いたって、何も出ませんよ~だ。」 「はは、そかそか。そら残念や。」 微笑を携えた顔を、少し空へと逃がすフミちゃん。 …なんとか上手く、回避できたみたい。 「…ま。」 …ま。 「全ては明日明らかになるっちゅうわけやな。」 「…うん。」 全ては、明日…、明日……。 「俺が負けたら、すっぽんぽんでブランブラン。」 「…うん。」 「小春が負けたら、上だけ裸でボインボイン。」 「もう何回も聞いたよ。」 「…あ、あと、ニギニギとモミモミも、やな。」 「…………。」 「まぁ、全ては明日、やな。」 「…うん、明日。」 「…何処でしよか?」 「…ん…、と…、じゃ、じゃあ、  ……フミちゃんの家…、で、いいんじゃ…ない?」 「…………。」 「……え?駄目?」 「いやいや全然、それでええ。  …んじゃ明日、俺の家に…、午後にしよか?  午後…、1時頃でどうや?」 「…うん、分かった。」 「それ以降のことは…、また明日、…な。」 「うん。」 明日の約束を、さらっと交わし 「…んじゃ、  この後俺、クラブの集まりに行かなきゃやから。」 「うん、最後だもんね。」 「おう、きっともうみんな号泣や。」 「…フミちゃんも?」 「さぁ、どやろな。」 「ふふ、まぁ、楽しんできてよ。」 「おう。とりあえず今日は、  来てくれてホンマありがとうな。」 「いえいえ、いいもの見させてもらいました。」 「おう。  じゃ、また。」 「明日。」 そう言って、フミちゃんはチームメイトたちの元へ 小走りで駆けていきました。 … …… … 明日、…明日か。 … …… …今日は、寝れそうにないや。
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