小説

曖昧サンドイッチ 10

夜。愛と福の部屋。 2段ベッドの下の段。福の寝床。 「…………。」 今日は、上に姉がいない。 なんでも、ソフトボール部の合宿だそうで。 「…静かだな。」 思わず、呟く。…と、 ―ギィ………。 部屋のドアがゆっくりと開く音。 ん?誰だ?体と起こし、そちらを向く。 そこには、パジャマ姿の舞が立っていた。 …舞?なんでまた…、…あ、 あぁ、そうか。なるほど。 「どうした?」 いつもの優しいお兄ちゃんで、訊く。 「今日、一緒に寝ちゃ…ダメ?」 妹っぽい、甘えた口調で訊き返す。 少し、ドキドキしているようだ。 「お母さんは?」 「いいって。」 そうか、それなら断る理由もない。 「いいよ、おいで。」 少し横にずれ、スペースを確保する。 パァーーッと、舞の顔に笑顔が咲く。 小走りで駆けてきて、そこに勢いよくダイブする。 ―ゴンッ。 調子に乗り過ぎて、柵に頭をぶつける。 「おーい、大ジョブかぁ?」 「いひひ。」 全然、へっちゃらな様子。 「福兄ちゃんのにおいがする~。」 「えー?どんなにおいだ?」 「んー、男らしいにおい。いいにおい!!」 「なーんだそれ。」 気にしたことなかったな。 「ふーんふーんふーん♪…」 足をウキウキさせて、鼻歌交じりに首を動かす。 福と一緒に寝れることが、本当に嬉しいのだろう。 そんな妹の姿に、ついつい福も頬が緩む。 ……、…と、 そうだ、いい機会だ。 ちょっと舞に、訊いてみよう。 「舞。」 「んー?」 「舞はさ。」 「うん。」 ………。 「お姉ちゃんのこと、好き?」 「………。」 福からの質問に、一瞬笑顔を消す舞。 そのまま少し考えたあと、無理矢理それを取り戻し、 「分かんない。」 笑顔でそう答える。 「なんで?」 「んー…。」 足を動かしながら、もう1回考える。 でもやっぱり、 「分かんない。」 「そっか。」 そっか。 「福兄ちゃんは?」 「ん?兄ちゃん?兄ちゃんは…、  まぁ、自由過ぎたり、気が強過ぎる気もするけど、  なんだかんだ、好き…かな。」 「ふ~ん、そっか。」 「うん。」 「…じゃあ、舞も好きっ!」 心からの笑顔か、無理に作ったそれか、 そう、応える。 はは、…じゃあ、か。 でも、まぁ…、…あ、 …うん、そうだ。 「舞、明日も今と同じくらいに、  兄ちゃんの部屋においで。」 「え?…  ……、…でも…。」 「大丈夫。」 「……。」 とても不安そうな舞。 「兄ちゃんを信じろ。」 かっこいい顔で、見つめられる。 「…うんっ。」 福兄ちゃんが言うなら、大丈夫に決まってる。 すぐに不安も解消される。 「よし、じゃあそろそろ寝るか。」 「うんっ。」 もう大分夜も遅い。 舞にとってはかなりの夜更かしだ。 「ん~っ………。」 眠い眠い。 体いっぱい、大きな伸びをする舞。…と、 「ぐふっ。」 伸ばした足の片方が、福の股間に見事に直撃。 「…んっ…、…んっ……!!」 「あっ…。」 なかなか強烈な一撃が決まり、悶える福。 でも、妹の前で情けない姿を晒すわけにはいかない。 なんとかかんとか体勢を立て直し、 「こ~ら~。  今兄ちゃんのちんちん蹴ったろ~?」 妹の頭に、優しくグリグリ。 「いっひひひひ。  ごめんなさ~い。」 一瞬焦るも、いつもの福の反応に、安心する舞。 「よし、じゃあ電気消すぞ。」 「は~い。」 消灯し、眠りの準備に入る。 …明日。 あんなこと言っちゃったけど、大丈夫かな。 今更、少し不安になる。 気づくと舞に、片手をギュッと抱かれていた。 ……。 …、まぁ、なんとかしなきゃいけないな。 はぁ、なんだかすっかり目が覚めてしまった。 まぁ、仕方ないか。 …、 舞が寝たら、ちょっとトイレに行ってこよう。 一応、確認もしときたいし…な。 はは。 まだちょっと、ジンジンする。 …にゃろーめ。
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