小説

曖昧サンドイッチ 12

次の日の夜。 滝本家、リビング、ご飯の時間。 福、愛、お母さんの3人。 ………。 「ごちそうさま。」 何1つ会話もなく、そそくさと部屋に戻っていく愛。 ……、重い沈黙。…と、 「舞には、上手く誤魔化しておいたから大丈夫よ。」 「え?」 「妹じゃないなんて言ったのは、  合宿で疲れてただけだって。一応ね。  まだそういうこと言うの、早いと思うし。」 「あぁ、…ありがとう、ごめん。」 「福ちゃんのせいじゃないわよ、ごめんね。」 「…………。」 誰が悪いのかと言われると、誰でもないとしか言えない。 こうなるべくして、こうなってしまったのだろう。 滝本家は、少し複雑な家庭事情を抱えていた。 遡ること約15年前。 父親と母親の間に、愛が生まれた。 3人家族、ごく一般的な幸せな家庭だった。 その約1年後、両親が離婚した。 愛もまだ小さかったから、鮮明には覚えていない。 大泣きしたのだけは、微かに覚えている。 結局親権は母親に委ねられ、母子2人の生活が始まった。 愛が3歳になりたての頃、母親が今の父親と再婚をした。 名字が、滝本になった。 初めは戸惑っていたが、お母さん子であった愛は、 お母さんがいればわたしはいい、と、 幼いながらに母親をなだめ、2人の結婚が決まった。 間もなく、福が生まれた。 初めての弟に、最初愛は、警戒心剥き出しだったものの、 すぐに慣れ、福を誰よりも可愛がる、 いいお姉ちゃんになった。 福が2歳の頃、母親が死んだ。事故死だった。 福は詳しくは覚えていないが、 愛と一緒に、大泣きしたことを微かに覚えている。 お母さん子だった愛にとっては、 大事件だったに違いない。 元々、継父にそれほど懐いていなかった愛は、 それ以来、あまり父に心を開かなくなっていった。 その1年後、父親が今の母親と結婚した。 愛は聞く耳を持たなかった。 そんな姉を尻目に福は、お父さんがいいならと承諾し、 2人の結婚が成立した。 新しい母親に、福は割とすぐに懐いたが、 元々継父との関係も良好ではなかった愛が、 継母といい関係を築けるはずもなく、 愛の心の拠り所は、福しかいなくなってしまった。 そして、舞が生まれた。 福は、初めての妹に、初めは警戒心剥き出しだったものの、 すぐに慣れ、舞を誰よりも可愛がった。 愛は、可愛がることなど、出来るはずがなかった。 あれから数年、今現在に至るまで、 家族間の関係は改善されないまま、平衡状態が続いてる。 部屋は、愛と福で1つ。母親と舞で1つ。 父親は現在、海外に出張中。 食事は、基本的にはリビングだが、 愛がいるときは、舞は部屋に籠っているし、 舞がいるときは、愛はいなくなるまで我慢する。 家族全員での団欒と言うものを、もう何年も見ていない。 「…はぁ。」 疲れ切った継母の顔。最近グッと老けた。 そりゃあ、そうだろう。 姉ちゃんの気持ちも十分に分かる。 実の父親と実の母親が自分の元からいなくなり、 血の繋がっていない親に育てられている違和感。 ―「私の妹じゃないもんっ!!!」 厳密にはその通り、でも、家族は家族だ。 きっと、唯一血の繋がっている、福と言う存在が、 家の中での、たった1つのオアシスなのだろう。 舞に関しては、こんな複雑な経緯、ほとんど知らない。 ただ、お姉ちゃんであるはずの愛が、 自分に対して、何故か冷たく接してくることを、 幼心に察知して、無理に気を遣って合わせているのだろう。 でも、そんなの駄目だ。 小学校2年生の女の子が、空気を読むなんて、 そんな悲しいことはない。 好きなときに笑って、好きなときに泣いて、 好きなようにしていればいい。 ここは家なのだから。 家族にとって家は、何処であれ、 居心地のいい場所であるべきなのだ。 …でも、どうすればいいのだろう。 昨日のような安易な作戦では、上手くいくことはないらしい。 血の繋がらない姉妹に板挟みにされた、 2人の血を半分ずつ持つ自分。 解決策はまだ分からない。でも、 自分がどうにかしなければならない、それだけは分かる。 ―タッタッタ……。 愛がいなくなったのを確認してか、 リビングに舞が、そ~っと現れる。 福と目が合うも、何を話せばよいのか分からず、 結局、不自然に目線を逸らしたまま、席に着く。 胸が痛い。 見ると、目が赤く腫れている。 相当、ショックだったのだろう。 こんな状況、これ以上長く続けていてはいけない。 …待ってろ、舞。 兄ちゃんが、なんとかするから。 心に誓い、味噌汁を口へ流し込む。
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