小説

曖昧サンドイッチ 13

「…はぁ。」 今日の練習もハードだった。 たまった疲れを、落ちるところまで落とす。 ……。 「…はぁ。」 なんだか最近、溜息ばかり出てしまう。 …いけないいけない。 パンパンッ。 ほっぺたを強く叩き、自分を叱咤。…と、 ―ガラガラガラッ。 こんな時間に誰…? 福だ。 アソコをブラブラと揺らしながら、入ってくる。 「なっ…、…何。」 「何って、別にいいだろ。」 「…ノックくらいしてよ。」 「自分だって勝手に入ってくるくせに。」 「………。」 そう言われると、何も言えない。 腰を下ろし、体を洗い始める。 ―ゴシゴシゴシ…。 股を大開きにし、頭、背中、前、足、ちんちんと、 男らしく、大胆に洗っていく。 へ~、そんな風に洗うんだ…。 弟の野性的な一面に、まじまじと見てしまう愛。 姉の視線を、ビンビンと感じる福。 でも、もうこの際、全部見せてやった。 「よしっ。」 つるつる、ぴかぴか、ぷるぷるになった体で、 愛の隣りに浸かる福。 「ふぅ……。」 極楽極楽…、と、 今日はそんなにゆっくりするつもりではない。 切り出すタイミングが分からない。 でも、躊躇っていたら出て行ってしまう、から、 適当に乗りで切り出した。 「姉ちゃん。」 「……、…なに。」 「…胸、デカくなった?」 「はぁ!?」 「…嘘嘘、冗談。」 「何言っての、…ふんっ。」 少しだけ照れる愛。 掴みは、こんなもんか。 「舞のことだけど。」 「……。」 本題。 「舞のこと、嫌いなの?」 「…、またその話?」 「いいから、答えろ。」 真面目に、真剣に、問う福。 「……別に、普通。」 そっか。 「舞も、多分そう。  でも多分、姉ちゃんと仲良くなりたがってる。  絶対。」 「………。」 間違いない。 「母さんは?」 「……別に、普通。」 「…父さんは?」 「だからっ、別に嫌いじゃないってっ。」 壁を見ながら、そう言う。 「別に、誰も、嫌いじゃないよ…。」 「そっか。」 なるほど、そうだと思った。うん、 「分かった。」 「……?」 そうだ。 愛だってもう、許しているのだ。 浮気をして消えた父親、再婚、 最愛の母の死、の後の再々婚。 自分ばかりに起こる不幸、なんで、私だけ。 でも、そんな境遇の数々だって、 自分なりに必死に噛み砕いて、もう、許したのだ。 今の自分の立場だって、 いけないことくらい分かっている。 でも、時間を掛けて許してきた代償として、 打ち解けるきっかけを失ってしまったのだ。 …なら、どうすればいい? 簡単だ、きっかけを作ればいいんだ。 「よし。」 豪快に立ち上がる福。 「……?」 「まだ、出ないよな?」 「…いや、私もそろそろ。」 「まだ出るな。いいな?」 「……?」 「出るなよ。」 「…、………。」 よく分からない弟の命令に、仕方なく首肯する姉。 それを確認し、福はゆっくりと、浴室を出ていく。 ……。 「はぁ。」 天井を見つめる愛。…と、 ―ガラガラガラ…。 戸が開く。そこには福…と、 福に手を握られた、裸の舞が、立っていた。 「…っ。」 咄嗟に立ち上がる愛。 「まだ出るなっ。」 少し強めの福の命令に、少し怖気づき、 仕方なくもう一度、湯船に浸かる。 「舞、座れ。洗ってやる。」 「…うん。」 目が泳いでる、凄く、ドキドキしている。 ―ゴシゴシゴシ…。 丁寧に、優しく、妹を洗っていく兄。 「…よし、オッケイ。」 綺麗に流し終わり、舞の手を取り立ち上がる福。 …と、 「姉ちゃん、ちょっと寄って。」 「…いいよ、私出るから。」 「出なくていいって!」 「………っ。」 ただただ弟に、従うしかない姉。 今日の福には、何故か、逆らえる気がしない。 「ふぅ…。」 本日二度目の極楽浄土。 舞は、溜息を遠慮する。 「気持ちいいな、舞。」 「…うん。」 「ちょっと狭いな、姉ちゃん。」 「…ふん。」 はは、素っ気な。 …でも、 浴槽の中で、初めて、サンドイッチが完成した。
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