小説

曖昧サンドイッチ 14

姉と妹に挟まれ、湯船に浸かる福。 浴槽の中は、もうギュウギュウ。 …と、ここまでは順調に来たものの、 ここからは割とノープラン。 まぁ、大丈夫大丈夫…、…と、 「…なんでアンタ、タオル巻いてるの?」 「え、いや…。」 これは…、 「ちょっと、…たっちゃって。」 「……?」 「…バーカ。」 「はは、さーせん。」 無理矢理にでも、なんとか誤魔化す。 舞はと言うと、初めて見る姉の大人な裸が、 気になってしょうがない様子。 福を盾に、チラチラと視線を送るも、 気づかれたらマズいから、あまりジックリ見ることはできない。 …とりあえず、 「いやぁ、3人で入るのなんて、初めてだな。」 「………。」 「…うん。」 かろうじて、舞だけ返事。 …よし。 「でもさぁ、姉ちゃんと舞って、  実は似てるよな。」 「………?」 「…どこ…が?」 ちょっとだけ、食いついてくる愛。 「例えば、…ほら。  俺と風呂入ってること、友達に話しちゃうとことか。」 「……、そうなの?」 「…そうなの?」 「へぇ、そうなんだ。」 「へぇ…。」 そうなんだ、と、2人。 よしよし。 …それから、 「俺のちんちん、見てくるとことか。」 「…そ、それは、…!!」 「…う~ん、と。  見てくるって言うか~、見ちゃうんだよ。」 「…そ、そうよ。  見ちゃうのよ、目に入っちゃうだけ。」 「そう、目に入っちゃうの!」 「そうそう、それだけよ、ね?」 「うんっ。  ……あ。」 「…あ。」 目が合い、照れる愛と舞。 初めて2人だけの、会話のようなものが続いた。 照れながらも、少しにやける福。 もうひと押し。 「あと、やたらと俺のちんちん、  褒めてくるところとかな。」 「…べ、別に褒めた覚えないけどっ。」 「え~!  でも福兄ちゃんの、すっごいおっきくて  カッコいいよっ!!」 「…え、ま、…まぁ、そりゃあ、  それなりに立派、…だとは思う…、けど。」 「浦川くんのよりね、  ぜーんぜんおっきいんだよ!」 「あぁ、それは言えてる。  浦川のめっちゃくちゃちっちゃいし。  あれに比べたら、大分立派かも。」 「そうそう!  浦川くんの、すっごいちっちゃいの!」 「そうそう!  こーんなんよ、こんなん。」 「うんうん!こーんなん!  …あっ。」 「…あっ。」 福を挟みながらも、2人きりで顔を見せ合い、 盛り上がっていることに気づき、驚き、 再び目を逸らし、照れる2人。 …はは、なーんだよ。 全然喋れるじゃん。後はもう…、 「よっし、もっかい体洗おっかな。」 ザバーンと立ち上がり、洗い場に出る福。 ちょっと恥ずかしいけど、いやホントはかなり恥ずかしいけど、 最後の仕上げだ。 腰のタオルを解き、その場に座る、…ふりをして、 湯船に浸かる2人の方へ、グルッと振り向く。 …そして、 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 腰に手を当て、姉と妹2人の前でそれを披露する。 妹には、何回目か、姉には、初披露である。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 いつもより大袈裟に、出せる力の限りを使って、 自分のそれを振り回す。 恥ずかしさも、いつもの倍だ。 「…………。」 「…………。」 突然の、弟、兄の暴挙に、 一瞬、唖然とする、愛と舞。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 良く見ると、張り切り具合以外にも、 いつもと違う部分がある。 福のそれ、大事な部分に、何やら装飾がされているのだ。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 目を凝らしてよく見ると、福のそれに、 いくつか黒い線が入っているのが分かる。 ソーセージだ。 ソーセージ特有の、あの切れ目部分が、 黒マジックで表現されているのだ。 ご丁寧に裏側まで、しっかり切れ筋が入っている。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 さらによく見ると、それの周りに、 レタス的なものが、これまたマジックで描かれ、 さらに、それらが乗っている皿のように、 太ももやヘソの下あたりまでもを使って、 二重の円が描かれている。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 急にタオルで隠したのは、これのせいだった。 さっき、舞を呼んでくる前に、 トイレで福が、自分のそれに、自分で描いたのだ。 急いで書き殴ったのか、乱雑さは否めないが、 ソーセージと言う解を出すだけなら、 心配など、きっと無用の出来栄えだ。 何より、自分の口でこう言っているから、何の問題もない。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 いつもとは一味も二味も違う、 ちんちんぶらぶらソーセージスペシャルバージョン。 顔を真っ赤にしながらも、 それなりの虚しさを押し殺して作り上げたそれを、 福が福であると言う立派な証明であるそれを、 3きょうだいの中で唯一福だけが持ち合わせたそれを、 めいいっぱい、力の限り振り続ける。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら、…  ソーセージ~!」 ふぅ、ちょっと疲れた、でも、まだまだだ。 明日、ほぼ確実に腰へ訪れる筋肉痛のことなんて、 今は考えなくていい、ただ無心で、振るんだ。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 …はは。 ホント、バカみたいだよな。 この先の滝本家の命運を、こんな、 普段自分から人に見せることなんてあり得ない、 卑猥で、恥ずかし過ぎる一本の棒に、託しちまうなんてさ。 しかもご丁寧に、自らの手で調理までして。 お前にはそれしかないのか、芸がない奴だな、 なんて言うなよ? でも、俺にはさ、これくらいしか、と言うか、これ1つしか、 思いつかなかったんだ。 後はもう、願うしかない、2人を、信じるしかない。 バカにしたきゃバカにすればいいさ。 これが、俺が自信を持って導き出した、 最後の、鍵なんだ…! などと、終わりの見えないゴールと、 収束の見えない羞恥から、少しでも逃れようと、 頭の中の誰かに、少し大人ぶった自分の意志を福が訴えかけている、 …と、 「………っ。」 「…………ぷっ。」 「………くくくっ。」 「…く、くくっ。」 「…はは、あっはは。」 「…うふっ。」 「ははっ、あっはははははっ!!!」 「んっふふふふふ…!!!」 目の前で暴れる、お皿に乗ったソーセージに、 もう我慢できなくなり、噴き出す、姉と妹。 「あっははははははっ!!!」 「ふふふふふ…!!!」 舞は、もうおかしくて、 指を差しながら、ゲラゲラと笑っている。 愛は、堪え切れずに漏れ出た笑いを、 顔を真っ赤に染めながら、隠している。 2人の笑いに、成功を確信する福。 恥ずかしいけど、もう少しだけ、頑張る。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~!」 「ははははははっ!!!!」 「…もう、ばっかじゃないのっ。」 照れ笑いの顔を隠しながら、立ち上がる愛。 えっ。 「私もう出るから。」 「えっ、ちょっ…。」 もうちょっと…!! 「出るよ、舞。」 「…へ。」 「…へっ。」 突然のそれに、驚く、弟と妹。特に、妹。 何よりも、初めて自分の名前を、 姉が呼んでくれたことに。 「…体、拭いてあげるから。」 赤い顔をひたすら逸らしながら、妹にそう言う、愛。 驚きの表情でストップしていた舞の顔。に、 ゆっくりと、ゆっくりと、笑みが灯り、 「…うんっ!!!」 満開の笑顔で、湯船から飛び出す舞。 頑張った福になどもう、一切目もくれず、 姉を駆け足で追いかけるように、浴室から出ていった。 「ち~んち~んぶ~らぶ~ら  ソーセージ~……。」 1人残されたお風呂場で、 ソーセージを、ゆっくりと、…止めた。…さすがに。 「…ふぅ。」 2人が出て行った後の湯を、1人、満喫する福。 これできっと、もう、大丈夫だろう。 「こーら、動かない!ピッとしなさい、ピッと!」 「は~い!!」 脱衣所から聞こえてくる2人の声に、 それを確信する。 「…ふぅ。」 改めて、もう1つ溜息。 気が抜けたからか、今さっきまでの自分の行為が、 一気に、第三者的にフラッシュバックして、 猛烈な恥ずかしさに襲われる。 元々、恥ずかしいことをするのは、あまり慣れていない。 ちょっと、頑張り過ぎたんだろう。 その結果が、これだ。 …はは、穴があったら入りたい。それに…、 湯船の中で揺れる、黒いマジック。 良く考えたら、明後日から、修学旅行だったんだ。 油性で描いちゃったし…、まぁ、落ちないよな。 風呂で誰かに見られたら、どうしよう。 もちろんガチガチにガードはするつもりだけど、 それでも、見られないと言う確証はない。…はぁ。 それに、そうだ。 今日のこのこと、また、舞や姉ちゃんに、 学校で喋られたりしたら…、……、…はぁ。 考えるだけで、頭が痛くなってくる。 …でも、それでも、大きな変化は導けた。 この、滝本家の新たなスタートに比べれば、 これから自分が受けるかもしれない辱めなんて、 全然大したことのない試練なのだ、きっと。 まぁ、試練であることに違いはないのだけれど、 それを受ける価値があるものを、手に入れたはずだ。 後悔なんて言葉、微塵も頭の中に浮かんじゃいないさ。 すぐに、とは、行かないかもしれない。 でも、少しずつ少しずつ、これまでの溝も埋まって、 そう遠くない将来、家族全員で、笑顔でご飯を食べる、 そんな日が、きっと来るに違いない。 父さんが帰ってきたとき、ビックリするだろうな。 そんなことを、想像したりも出来る。 …きっと、これからは、 姉ちゃんや舞と風呂に入ることも、 なくなるんだろう。 やっぱり、女は女と、姉妹でお風呂に入るのが、 普通に考えて、自然だ。 …なんだかんだ、ちょっとだけ寂しい気もするけど、 こればっかりは、仕方がない。 それに、きっと、そろそろ下の毛も生えてくる。 姉ちゃんはともかく、舞にはあまり、 男のそう言うものは、見せない方がいいだろう。 うん、丁度いい、時期的のも、丁度良かったんだ。 「…ふぅ。」 いっぱい考えて、ちょっと疲れた。 天井を見上げる福。…と、 ―ガラガラガラッ…!! 「ちょっと福っ!!  毎週火曜に舞とお風呂入ってたってホント!?」 「…え。」 「そうだよねー、福兄ちゃんっ!」 「あ、あぁ、…まぁ。」 「ちょっと何それぇ!!  じゃあ今度から毎週水曜は、私と入るからねっ!」 「えーズルい!!  じゃー舞は木曜日も福兄ちゃんと入るっ!!」 「じゃあ金曜は私っ!!」 「じゃあ舞は土曜日も……!!」 ははは…。 …どうやらこれからも当分、寂しくはないようである。
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