小説

雑草と太陽 11

泣き疲れたのか、考え疲れたのか、まぁ多分両方だろう。 昨日の夜は、驚くくらいにぐっすり眠れた。 それなのに寝起きは最悪で、体はやっぱり依然重くて、 頭もなんだか痛かった。 休もうかな、とも思った。実際本当に体ダルいし。 でも、休んだところでどうにもならないし、 事態が悪化するだけのような気しかしない。 まぁ、これ以上悪くなりようがないくらい、最悪な状況なんだけどさ。 とにかく、たくさん考えた結果、 誤解を解きたい、ただそれだけだった。 きっとノリなら分かってくれるよ。 根はすごーく優しいヤツなんだ、僕が一番良く知ってるはずだろ? 昨日の狂気じみたノリの姿なんて、思い出さなくていい。 忘れてしまっても、問題ない。 大丈夫大丈夫、きっと大丈夫。 自分に言い聞かせながら、学校へ向かう。 ホントはさ、ホントは、無理してるんだよね。 足はガクガクしているし、心臓は信じられないくらいドキドキしてる。 それでも、なんとか自分を奮い立たせて、今、歩いてる。 僕ってこんなに、強い子だったかな。 自分でもさ、ちょっとビックリしてるんだ。 弱虫で、泣き虫で、怖がりなのが、僕の不治の性格だったはずなのに。 ノリと会うこと、ノリと話すこと、悲しいけど、ホントに怖い。 でも、ノリとの関係がこのままであることの方が、 怖くて、悲しくて、仕方なかったんだ。 震える足を叱咤しながら、恐る恐る入った教室の中は、 明らかに昨日の雰囲気とは何かが違って、 簡単に言うと、何かがおかしかった。 男子は大半の顔がなんだかニヤついているし、 女子は誰一人として席にも付かずにザワついている。 昨日の夜にどうしても想像してしまった、次の日の教室の様子。 それが今僕がいるここに、そっくりそのまま反映されている。 胸が、キリキリと痛い。 そして、僕の予想が正しければきっと、…うん。 ただ一人、無表情で、黙りこくったまま、席に座る影。 みんなの視線のほぼ全てが、そこに集中しているように感じる。 もしかしたら、休むんじゃないのかな。とも思った。 あんなことがあったんだ。僕だったら、絶対に無理だよ。 でも、絶対に来るだろうな、とも思った。 だってノリだもん。逃げたりなんて絶対にしない男だ。 顔を隠したりする素振りもせず、何処か一点をジッと見つめながら、 ただただ沈黙を貫いている。 ノリの強さや男らしさは、誰よりも分かっているつもりだけど、 ノリだって一人の人間だ。きっと、必死に耐えているんだろう。 …ダメだ。 僕はこれ以上、その場にいることが出来なくて、 ランドセルを無造作にロッカーに押し込み、 足早にトイレに駆け込んだ。 その日はずっと、そんな感じだった。 唯一心が休まるのが授業中で、 休み時間になれば、誰からでもなくザワザワし始める。 ノリは何処へ逃げるでもなく、ジッと椅子に座っているだけで。 結局僕がそれに耐えられなくなって、逃げるように教室を出て。 トイレに行ったり、用もないのに向かいの校舎まで行って、 廊下をブラブラしたり、理科室に隠れたり。 本当に僕は弱い人間だな、本当に情けなくなった。 本当に辛いのは、どう考えてもノリの方なのに。 あいつにもあいつにも、あの子にも、…あの子にも、 ノリは昨日、全部を、見られちゃったんだよね。 クラスの全員が、ノリのあそこを、見たんだよね。 クラスの全員に、ノリはあそこを、見られたんだよね。 …、ごめんねノリ。またタっちゃった。 良く考えたら、とんでもないことだよね。 僕がノリだったら、恥ずかし過ぎて、もう学校に来れないかもしれない。 僕が強くなれば、ノリを守ってあげられるのかな。 いや、そうじゃないだろ。 僕以外、誰がノリを守ってあげられるんだよ。 守ってあげたことなんて一回もないけど、 いつも守ってもらってばかりだけど、…気のせいかもしれないけど、 きっとそれは、僕にしか出来ないことだ。 でも、やっぱり、怖い。ノリが、怖い。 ノリが怖い、そんな自分が、凄く、嫌だ。…キライだ。 だから、また逃げるの? ノリは何からも逃げずに、耐えているのに? 違うだろ。そうじゃないだろ。そうじゃないんだよ。 そうだろ。そうだろ。そうだろ。…、 そうだろ。 …でも、 そんなことを考えていたら、あっという間に時間が過ぎていて、 気がつけば今日の学校も終わり、放課後。 増していくドキドキを出来るだけ無視しながら、 ノリに向かう時期を窺う。 先生の話が終わって、みんなで「さようなら。」を合唱したら解散。 ノリはきっと、一目散に教室を出て行くだろう。 もしかしたら、先生より先に出て行くくらいの素早さかもしれない。 決して見失ってはいけない。 意地でも追いかけるんだ。 周りになんて思われようと、結果傷ついたとしても、 絶対に逃げてはいけない。 誤解を晴らすために、そして何より、ノリを守るために。 「それでは、さようなら~。」 「さようなら~。」 バラバラのユニゾンが響き、僕はノリに焦点を合わせる。 急げ…! 床を強く踏み締め、駆け寄るためのエネルギーを溜める。 …と、 思わず、力が抜けてしまう。 ノリが、予想に反し、動かない。 ランドセルも背負わず、直立不動のまま、黒板にガンを飛ばしている。 …? 先生がいつものように、ゆっくりと教室を出て行く。 どうしたの…? 力なく、僕がゆっくりとノリに近づこうとする…と、 ―ガシッ。 おもむろにノリの肩に腕を回す、……、…鹿島。 ―ドクンッ。 心臓が、大きく跳ねる。 そのまま、嬉しそうなニヤけ顔を携えて、ゆっくりと教壇に向かう。 ノリは、抵抗することもなく、奴隷のように、鹿島に連れられていく。 ザワめく、教室。 これは…。 「はいちゅーもーーーーーく!!!」 …っ!! 何故か見慣れた光景に、頭が痛くなる。 なんだよ、なんでだよ…。
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