小説

雑草と太陽 2

放課後、今日の授業も無事に終了。 体育の後の授業の気だるさと言ったら…、 とりあえず、お疲れ様でした。 …ふぅ。 結局あれ以来、ノリと話をしていないけど、 さすがにもうほとぼりも冷めただろう。 いつものように、「一緒に帰ろう。」を言いに、ノリの元へと向かう。 …と、 ノリの席に、もうノリはおらず。 もう帰ったの?と、慌てて周りを見回す、と、 あ。 すぐさまその姿を、割と簡単に見つけることが出来る。 ホッ。…と、安堵するのもつかの間、 どうやら誰かの席の前にいる様子。…ん?…、鹿島? どうやらノリの方から声を掛けたらしい。 …なんだろう。気になって、そっと近づく。…と、 「え?再戦?」 「おう。」 戸惑う鹿島と、真剣に訴えるノリ。 再戦?…それって、 「なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ。」 「別にいいだろ、すぐ終わる。」 「いや、そういう問題じゃなくて。」 「頼む。」 頭にハテナの鹿島に、真顔のまま懇願するノリ。 確信はないけれど、きっと話の流れ的に、 今日の50m走のリベンジをさせてくれ、そう言うことだろう。 「…、でも今日もう疲れてるし。」 「今日じゃなくてもいい。明日の放課後でもいい。」 「………。」 「頼む。」 「…、……分かった、…よ。」 「サンキュー、恩に着る。」 鹿島の合意を確認すると、顔に笑みを浮かべるでもなく、 その顔つきのまま、歩幅大きく教室を出ていく。 「…なんだぁ?あいつ。」 「変なの。」 訝しげに首を傾げる鹿島グループのメンバー。 …うーん。……。…と、あっ、 「ちょ、待ってよノリ~!!」 僕も小走りで、教室を飛び出す。 放課後、の、さらに放課後。 いつものようにノリと2人で帰る、…と思いきや、 ノリが向かった先は校庭の隅、もとい、 今日50m走の測定を行ったあの場所。 僕も後を追うように、その場所へと足を運ぶ。 アスファルトの段差に、 ノリのの隣りに並べるようにランドセルを置く。 何をするんだろう、…なんて、野暮な疑問。 当然、 ―ダッダッダッダッダ…。 誰の合図があるわけでもなく、 既に少し消えかけた白線に沿って、走り出すノリ。 やれやれ…、僕はゆっくりと、そこに腰を下ろす。 ―ダッダッダッダッダ…。 ただただ無言のまま、50m走のインターバルをこなすノリ。 よくやるなぁもう…。…と、 「…ん。なんだユキ、いたのか。」 「は~あ?ひっど。」 ようやく僕の存在に気付いたのか、そんなことを言う。 酷いと思いながらも、それだけ集中していたんだろう。 汗まみれの顔を見ると、何も言えない。 「そうだ、暇ならよーいドン言ってくれよ。」 「えーえ?」 「別にいいだろ。」 「はいはい。」 まぁ、ノリが納得いくまでは暇だろうからね。 僕はその場に座ったまま、合図係を引き受けることに。 あぁ、そうそう、ユキって言うのは僕のこと。 小池幸生。だから、名前の最初を取ってユキ。 まぁ、ノリにしかそう呼ばれてないんだけどね。 なんだか女子みたいだけどさ、不思議と嫌じゃないんだ。 「よ~い、ドン!」 ノリのために、ちょっと苦手な大声で、それを送る。 その度に、全力で駆けていくノリ。 走り終え、腰に手を当て戻ってくる。 スタート地点まで来たら、少しだけ休憩を挟み、 ノリからの「もういいぞ。」を感じたら、また「よーい、ドン!」 その繰り返し。 単調な動作の連続だけどさ、 これまた不思議と、嫌ではないんだな。 そんなこんなで、計何セット? 20往復くらいはしたと思う。 汗だくになったノリが、ようやく僕の方へと近づいてくる。 「お疲れ様。」 「おう。」 隣りに座るノリに、とりあえず、そう言う。 「ふぅ~。」 どうやら文字通り、かなりお疲れ様の様子。 まぁ、そりゃあそうだよね。 …と、どうしても気になることが。…、 「…なんで再戦なんか申し込んだの?」 聞かないわけにはいかない。 「なんでって、…悔しいだろ。」 疲れた顔が、悔しい顔へと瞬時に変化する。 「でも、ノリだって十分速かったよ。」 間違いなく学年では2番目だ。 「1番じゃなきゃ、意味ないだろ。」 何言ってんだとばかりに、そう言う。 「男なら、一番上になりたいだろ。絶対。」 「ん、…う~ん。」 そう言うもの…、なのかな。 僕には、良く分かんないや。 「とにかく、明日おれが鹿島に勝つ。  それで万事解決、そんだけだ。」 「…そっか。」 「ん?なんだよ。」 「え?いや、別に。  …、頑張って。」 「おう。」 「…うん。」 ありきたりの言葉で、激励する。 頑張ってる人を、落胆させる権利なんて、 僕には、いや誰にだって、ない。 「…よし。」 一言そう言うと、ランドセル片手に立ち上がるノリ。 それを担ぎ、一呼吸。…と、 そうだとばかりに僕を見て、 「俺、もう帰るけど、ユキは?」 ちょ。 「帰るに決まってるでしょ。」 当たり前でしょ。 「そうか、じゃあ、帰るか。」 当たり前でしょ。 「うん。」 待っててあげたんだから、手伝ってあげたんだから、 感謝の1つくらいあってもいいだろ。 …って思ったけど、口にはせずに、ただノリに従う。 まぁ、もう慣れたし。 いつものように、2人で下校する。
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