小説

胴上げトラジディ

ピッピッピーーーーーー……!!!! 「試合終了ーーー!!!」 「っしゃーーー!!!」 中学校生活最後の試合。 それほど強くなかった俺たちサッカー部だけど こうして最後の最後は、有終の美を飾ることができた。 …といっても、公式試合でもなんでもない ただの他校との練習試合なんだけどな。 …でもそんなの今は関係ない。 それを気にしている奴だっていない。 それを証拠に、馬鹿みたいにみんなで喜んで 馬鹿みたいに泣きながら、抱き合ってる。 「3対2で、北中の勝ちです。お疲れ様でした!」 「お疲れっしたーーー!!!」 満面の笑みで勝利を喜ぶ俺たち。 ま、強くはなかったけどさ。すげー楽しかったよ。 「…よし、胴上げすっぞ胴上げ!!」 同じ3年の奴がみんなにそう呼びかける。 はは、そんな大それた勝利でもねぇのに… までも、卒業っぽくていいかな。 …そか、もう卒業なんだな。 「…誰を胴上げする?」 「んなん決まってるっしょ。」 そう言ってそいつは1人に視線を向ける。 連鎖的に皆がその1人を方を向く。 その1人とは、言うまでもない俺だった。 「…え、い、いいよ俺は。」 「何言ってんだよ~、部長さんよぉ。」 「そうっすよ~、部長しかいないっしょ。」 …部長なんてホント名ばかりだったんだけどな。 まぁ、部長って呼ばれることに いやな思いをしたこととかはないけどさ。 「…よし!じゃあお前ら!胴上げだ!!捕らえろっ!!」 「おう!!」 「はいっ!!!」 「ちょ、ちょ待てって…!!!」 俺のうろたえにも容赦なく 部員全員が俺に寄ってたかってくる。 四方八方から近づいてくる皆に 俺は逃げ道を見つけることなど出来るはずもなく 気づくと、体はフワリと地面から浮き上がり 視界には真っ青な空が広がっていた。 「よしいくぞ!!せーのっ!!!!」 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! 試合相手のチームは唖然としてただろうな。 周囲の目も気にせず、大声で叫びながら 俺を天に飛ばすみんな。 「やめろってーー!!」 そんなこと叫んでたけど 実際はかなり嬉しかったりしたんだ。 それこそ涙を浮かべてさ。 バレないように、目を拭ってたりしてたんだぜ。 上下する体を完全にみんなに預けながら この3年間あったことを、いろいろ思い出していた。 雑魚だった1年、死ぬ気で練習した2年。 まさかの部長任命で人知れず嬉し泣きした3年。 …それと、結局告白できなかった女子マネ…。 「あははっ。」 ふと耳をかすめるのは、まさにその女子マネの声。 …俺を見ながら笑ってるのか、そうか。 1人、そんな感傷に浸っていると 少しずつ俺は、自分の体に異変を感じ始める。 …なんだ、何て言うか…その…。 …ん?腰が…ゆるい…。 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! 止め処なく続く胴上げの主役を続けながら 俺は自分の下半身をチラリと確認する。 …なるほど、短パンのヒモが解けちまったんだな。 こいつら好き放題胴上げするもんだから 誰かの手が引っかかって解けちまったんだな。 まったく…、まぁ嬉しいけどさ。 …そろそろいいぞ。もう十分思い出もらった。 そろそろ下ろして… -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! そんな俺の小さな願いは皆の耳に届きはせずに 胴上げは加速の一歩を辿る。 …いやホントもうそろそろ…、ってか …ちょ!!! ヒモが解けた短パンを誰かが引っ張ったのだろうか。 どうも身動きが取りづらくなったと思ったら 俺の短パンが足元あたりにくるまっているのが分かった。 「ちょ、ちょっとお前らっ!!!」 さすがに俺は少し声を張り上げる。 そりゃそうだろ、俺今、トランクス丸出しだ。 「ははっ!!部長セクシー!!」 「くく、それもっと高くいくぞー!!」 「こ、こらって!!!」 さすがに焦り始めるも、空中に放り投げている故 抵抗という抵抗をするチャンスが皆無に等しい。 気づくと足元から短パンは消えていて なんともみっともないトランクス姿にさせられていた。 …加えて、気づくと女子マネの笑い声も消えていた。 焦りが冷や汗を促し なんとか胴上げの波から抜けようと試みるも 何十人もの男に一斉に捕まれては さすがに太刀打ちなど出来ない、されるがままだ。 …いやな予感がするぞ、いや いやな予感しかしないぞ…。 …そのいやな予感とやらは、悲しいかな見事に的中する。 「それーーーー!!!」 「へーーーいっ!!!!」 気づくと俺は、わけの分からないほど器用な部員のお陰か 自分でも気づかないうちに 上半身までもを裸にさせられていた。 トランクス1丁に靴下と靴と言う 恥ずかしすぎる姿にさせられたまま尚 天へを舞い上げられ続ける俺。 「おいっ!!もういいってっ!!  もう十分だって!!下ろしてくれよもうっ!!!」 せっかくやってもらってることに 口出ししたくはなかったけど さすがにちょっとこれはやり過ぎだ。 俺は少し怒りの感情を加えて、下のみんなに叫ぶ。 …も空しく、聞こえてくるのはみんなの笑い声のみ。 完全にかき消されてしまった。 ヤバイ、ヤバイぞ、このままだと次は… 脳裏に恥ずかしすぎる自分の姿が浮かんだのとほぼ同時に 俺の下半身にいやな感触が伝わる。 下に着くときに、何回か俺のケツを トランクスの中に手を入れて じかに触ってきてる奴がいる。 やめろ、やめてくれっ…、間違いが起きるぞ…!! その悪戯は徐々にエスカレートしていき ついには俺の股間を直で触る輩まで現れた。 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! 「…こ、こらっ!!ふざけんなっ!!!」 「くひひ。」 「部長エロかっこいいっすー!!!」 「よし、ラストスパート行くぞぉ!!!」 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! …頼む、このまま終わってくれ…!!! でもまぁ、さすがにそんな非常識な真似する奴いないよな。 …さすがにな…。 …そんな思い空しく、俺の耳に部員の叫びが届く。 「…っしゃ!!もう今日は無礼講だっ!!」 「え、マジすか!?w」 「きひひ。」 「ちょ、お、お前らっ!!」 ま、まさかな…。 「せーーーのっ!!!!!!」 -ズリリッッッッッ!!!!!!! 勢い良くズラされたのは、言うまでもない 俺のトランクスだった。 そして驚くほど器用に、俺のトランクスは 足を抜け靴を抜け パラリ、地面へと落ちた。 「出たーーーー!!!」 「きひひひひ。」 全裸に靴下と靴。変態過ぎる姿にさせられた俺は 穴があったら入りたいとは正にこのことだ、と 言わざるを得ないほどの羞恥に襲われていたが 悲しいかな、完全に身動きは封じられ その姿のまま、続けざまに 空に放られ下でキャッチされを繰り返される。 見なくても分かるが…、ブルンブルン。 俺のアソコは好き放題に空高く暴れている。 「キャーーーーー!!やーだぁ!!!」 ふと聞こえてきたのは、間違いなく女子マネの悲鳴。 …ちょ、ちょま…!!!! 一気に頭に血が上る。 俺…、全裸…、女子マネのあいつ…、俺の…、見た…。 胴上げされ過ぎて、若干意識も朦朧とし始めていた。 …俺の全裸体を、疲れることも飽きることを知らずに 空に放り投げ続けるみんな。 背中、ケツ、太もも、ふくらはぎ。 体中に伝わる皆の手の感触が、もの凄くくすぐったい。 …でももう、抵抗する気力もなくなってきている。 -ブルンブルン。 「部長ちんちんでけぇなぁ!!」 「ってかよう、女子マネ見てたよな!!」 「くふふ、成功でーす。」 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! …こいつら、知っててわざと…? …ちくしょー、もうどうにでもしてくれっ。 目に映るは、真っ青な空。 その下で、元気いっぱい暴れまわる、俺の息子。 今日でサッカー部ともお別れ、皆ともお別れ。 女子マネとも…、あいつともお別れ…。 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!! あいつに…見られた… 最後の最後で、俺の全部…、見られた。 “キャーーーー、やーだぁ!!”だってさ。はは。 …ん。 -ワーーーッショイ!!ワーーッショイ!!!… 「…お?」 「…ちょ!!部長のっ!!!」
-おしまい-
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