小説

卓未くん鑑賞会

わたしは今、卓未くんの家にいます。 お母さんと一緒にお呼ばれしたんです。 理由はね、今日この後すぐ始まる民放の番組 『かがやけ!きっずたち』に、卓未くんが出るらしく その観賞会と言うか どうせだから一緒に見ようよ!ってことで 卓未くんのお母さんが わたしのお母さんに声を掛けたみたい。 きっと卓未くんのお母さんが盛り上がって 勝手に観賞会なんてものを開催したんだろうな。 今日の主役のはずの卓未くんは 自分のTV出演を見られるのが恥ずかしいのか 照れた様子でテレビ前でうずくまってました。 今この卓未くんの家のテレビのある部屋にいるのは わたしとわたしのお母さん 卓未くんと卓未くんのお母さん。 それに噂を聞きつけたのか、勝手にやってきたらしい 卓未くんとわたしのクラスメイトでもある 翔くんと真一くんと正広くんの計7人。 翔くんや正広くんがクラスで 今日卓未くんがTVに出ることを みんなに伝えていたから きっとみんなそれぞれの家で、卓未くんの姿を 心待ちにしているんだろうな。 そんなことを思っているうちに、いよいよ時間になり そのTV番組が始まりました。 毎週、わたしたちの県で暮らしている 頑張る子供たちを追っているこの番組。 今回は『野球少年奮闘記』とサブタイトルを付けて 少年野球チームの奮闘振りを カメラで追うという企画らしいんだけど その少年野球チームに 見事卓未くんの所属するチームが大抜擢。 晴れて卓未くんの初TV出演が決まった… と言う流れみたいでした。 「始まったわよ~!卓未~!!」 番組が始まると同時に 卓未くんのお母さんのテンションは急上昇。 それに対して卓未くんは、いつもの元気な様子とは一転 反比例するようにモジモジしながら照れていました。 そんな姿を見て、つい可笑しくて笑ってしまいました。 「あ!卓未映ったぁ!!」 「ホントだ!すげーー!!!」 始まってすぐ、卓未くんがTV画面に映りこみました。 それもそのはず 卓未くんはその少年野球チームのキャプテンを務めていて 監督の紹介のあとに、名前のテロップつきで 単独インタビューみたいな感じで質問に答えてました。 「すごーい、卓未くんTV出てる~!!」 わたしもそんな声を出しながら 単純に知り合いの男の子のTV出演に感動していました。 わたしたちが反応するたびに 恥ずかしそうに照れる卓未くんが なんとなく可愛く思えたりもしました。 そんな、卓未くんが画面に出るたびに いちいち大盛り上がりするわたしたちをよそに 番組はチームメイト紹介、練習風景など 普段わたしが見たことのないような 卓未くんの真剣な姿や、カッコいい姿を次々と映していき その度にわたしは、これが隣りにいる卓未くんなんだぁ…と 感心したり、ちょっとドキドキしたりもしていました。 そして、30分枠であるこの番組も 早いもので半分くらいが経ったと思われる頃… わたしの心臓がドキッと大きく反応する言葉が 耳に飛び込んできました。 それは、ナレーションの人の声で… -厳しい練習を終えたキッズたち一同は  疲れを癒すために銭湯へ…。 …え? 声に出したか、心の中で呟いたか 自分でも良く覚えていないけど とにかく急にドキドキし始めたのは確かでした。 だって… 卓未くんを含む男の子たちが次々と銭湯に入っていって… 当たり前だけど、どこまで映しちゃうの…? 同年代の男の子たちが、一斉に服を脱ぎ始めるシーンが TV画面に映し出され始めました。 「わ!…わわ…!!!」 突然のお風呂シーンの突入に きっと一番動揺したのは卓未くん。 今まで恥ずかしそうに黙り込んでいたのが豹変し TV画面に乗り出すように慌て始めました。 一瞬にして顔中に汗を垂らして 小動物のようにオロオロする卓未くん。 一方で、嬉しそうにカメラにピースをしながら 汚れたユニフォームを脱ぎ始めるTVの中の卓未くん。 そんな2人の同一人物をドキドキしながら交互に見ていると TV画面は次のカットへと移り… …そこには、全てのユニフォームと衣服を脱ぎ終わり 丸出しのお尻をカメラに向けながら タオル片手に湯船へと向かうすっぽんぽんの卓未くんが 画面いっぱいに映し出されていました。 「わぁーーーーーーー!!!!!!」 真っ先に大声を出したのはもちろん、TVの外の卓未くん。 そしてそのまま立ち上がり TVの前に立ち画面を隠しました。 顔はまっかっか、お猿さんみたい。 「あっはっはっはっは!!!!  卓未のケツTVに写った~!!」 「ははは!!すげー!!!」 はやし立てるように笑う男の子3人組。 うん…映ってたよね。 卓未くんのお尻…こんな形で見ることになるなんて…。 「こら卓未!!何してるの!!  せっかくのTVなのに見れないじゃないっ!!」 卓未くんの画面隠しを注意する卓未くんのお母さん。 「…だ、だって!!  こんなとこ放送されるなんて  オレ聞いてねぇもん!!!」 「別にいいじゃない!!裸くらい。  それに他の子だってみんなハダカンボなんだから。」 「で、でも…!!!」 「ほら、恥ずかしがってると  美香ちゃんに嫌われるわよ!」 「…む、むぐぅ…。」 有無を言わせない卓未くんのお母さんからの指摘に 恥ずかしながらも観念をして、TV画面を開放する卓未くん。 …って言うか、わたしの名前出されても… なんかわたしまで恥ずかしくなっちゃう。 実際すでに、ドキドキだけど…。 再び露になったTV画面には すでに湯船に浸かった卓未くんたち、 少年野球チームの男の子たちが 映し出されていました。 湯船に浸かっているから良く見えないけど… お湯の波が収まってしまったら 確実に大事な部分が見えてしまうような 容赦のないカメラさんのフレームさばきが 続いていました。 そんな映像をハラハラドキドキしながら見るわたし… もしかしたら… そんなことを期待してしまうのも無理はない…よね。 でも、卓未くんはわたしなんかよりずっと ハラハラしているんだろうな。 顔を真っ赤にして、細い目をして TV画面に喰いついていました。 そんな卓未くん…とわたしをよそに 他人事といった様子で笑い続ける翔くんたち と、わたしのお母さん。 卓未くんのお母さんは、裸とかは関係なしに ただただ息子のTV出演に満足しているように 嬉しそうに笑ってました。 そして、銭湯風景の全体的な撮影が終わり 湯船に浸かっているすっぽんぽんの男の子たちへの インタビューシーンへと映って… 標的になったのはチームのキャプテン、そう、卓未くん。 再び画面いっぱいに、髪を濡らして 気持ち良さそうにお風呂を満喫する卓未くんが 映し出されました。 「お!卓未よ~!!」 「う…。」 -野球好き? -「うん、そりゃ好きっすよ!!」 ユラユラ揺れる水面…ユラユラ揺れる卓未くんの肌色… -どんなところが好きなの? -「…うーん、楽しい!やってて気持ちいい!!」 …見えそうで…見えない…!! -どんな瞬間が一番楽しいなって思う? -「そりゃあ、…ホームラン打ったとき!!!」 「…や、やば…!!」 TVの中の卓未くんが、嬉しそうにそうカメラに告げ すぐそこにいる卓未くんが、TVの中のその自分の姿を見て 何を思ったか、慌ててそう声を漏らした次の瞬間…! -ザバァッ!!! TVの中の卓未くんが、思いっきり湯船から立ち上がって… -ちょろん。 …え!? 「わぁーーーー!!!!!」 -ぷちゅん。 卓未くんの手によって消されたTV画面。 …え?一瞬… ホントに一瞬だったから良く分からなかったけど… …うん…一瞬…、見えたような気がした… ちっちゃな…ゾウさんみたいな…モノ…? 「…こら!卓未っ!!恥ずかしい子だねもう…!!  何をさっきから1人ではしゃいでるのよっ!!」 そう言って呆れたようにTVのスイッチを入れ直す 卓未くんのお母さん。 -ぷちゅん。 三度映し出されたTV画面には 嬉しそうに湯船から立ち上がり カメラに向かって素振りをしてみせる卓未くんの姿が 映っていました。 カメラのフレームは卓未くんの上半身だけを捉えていて もう大事な部分は映ってはいなかった…けど… …って言うか、さっきの一瞬映ってたのって ホントに卓未くんの…お、おちんちん…だったのかな…? ドキドキが止まらない…、見ちゃったかもしれないことに… しかももしかしたら、TVで卓未くんのおちんちんが 放映されちゃったことに… 「…み、見えてた?」 「何が?」 「…だ、だから…その、…オレの…」 「もういちいち恥ずかしい子なんだから…。  大体映ってたとしても  そんなこと誰も気にして見てないわよ。」 「…そ、そんな…。」 卓未くんのお母さんに心配そうにそう聞く卓未くん。 「…何も見てないわよねぇ?」 「えっ!?」 ニコニコしながらわたしに振って来る卓未くんのお母さん。 「…え、あ、はいっ…、何も…はは。」 きっと動揺丸出しで、そう対応するわたし。 …そんなわたしの顔を まっかっかの顔で見つめて来る卓未くん。 何も見てないよ…、そんなメッセージを目で送ると すぐさま目線を逸らしていたけど ちょっとだけ安心しているようにも見えました。 他の男の子3人組は そんな動揺丸出しの卓未くんに終始笑いっぱなし。 わたしのお母さんもニコニコ笑ったまま。 …そんな姿を見ていると 何も映ってなかったような錯覚に陥りそうだけど …でも、絶対映ってたよ。 ホントに一瞬ですぐに消えちゃったから 良く分からなかったけど …ちっちゃなゾウさんみたいなものが、見えた…気がした。 …そんなことばかり考えていたら 30分のこの番組も、いつの間にか終わりを迎えていました。 あのお風呂のシーン以降のところ、全然覚えてないや…。 「卓未映ってたな!!すげーな!!」 「映ってた映ってた!!  セクシーショット満載だったな!!」 「…う、うるせー!!!」 「でも良かったじゃない、いい記念になるわよ!!」 「うー…。」 「か、かっこ良かったよ!!卓未くん!!」 「う…お、…あぁ。」 卓未くんにとっては恥ずかしいシーン満載だっただろうけど 最終的には、照れてたけど、卓未くんも嬉しそうでした。 そんなこんなで 卓未くん初TV出演観賞会はお開きになりました。 -その帰り道。 「お母さん。」 「ん?」 「さっきのTV番組、ウチで録画予約してたよね?」 「…うん、卓未くんのお母さんに頼まれちゃって。  ほら、うち地デジだからさ、高画質じゃない?  だからダビングして~って言われちゃってさ。」 「そっか…、地デジ…か。」 「…なんで?」 「ううん、なんでもない。」 「そう。  あ、そうだ、これからお母さん買い物行くけど…  アンタも来る?」 「んー、…わたしはいいや、帰ってる。」 「そ、…じゃーはい、カギ。」 「うん、ありがと。」 家の手前の角で、スーパーに向かうお母さんと別れて… わたしは一目散に家に向かって走り出しました。 確認しなきゃ。 TVに映っちゃったかもしれない 卓未くんのおちんちんを… もしかしたら いつでも好きなときに見れるようになるかもしれない 卓未くんのおちんちんを… クラスのみんなが見ちゃったかもしれない 卓未くんのおちんちんを… 1人になって急激にエスカレートするドキドキを抑えながら わたしは玄関のドアを開けました。
-おしまい-
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