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あらすじ

いじめられた少女と、記憶を失くした少年のお話。
少しアダルトなCFNM、およびNFNM物語。

表紙

冒頭サンプル

その日最後の学校のチャイムが鳴った。 今日も1日終わった。 今週も1週間終わった。 束縛から解放されて 周りのみんなの顔に笑顔が灯る。 部活のために着替えを始めるクラスメイトたちや 他愛もない話をする彼らを横目に わたしは1人、窓から外を眺めた。 高校2年生の秋。 秋だって言うのに最近梅雨時みたいに 毎日雨が降ってる。 雨の日を嫌う人って多いけど わたしはその逆で結構好きだったりする。 良く分かんないけどさ。 わたしの気持ちを代弁してくれてるみたいで。 1人じゃないんだー…って、思えるんだよね。 …なーんて、ただの気休め。 ホームルームも終わって わたしは1人教室を出る。 当然のごとくわたしに声をかけてくる友達なんていない。 別にいじめだとか思ったことはない。 いじめなのかもしれないけど、そんな風に思いたくなかった。 わたしは何も悪くないし、何でこんなことされるのかも全然納得いかない。 みんな誤解をしている、わたしを誰も信じてくれないだけ。 みんながどんな誤解をしていてどんな目でわたしを見て その上でこういった今の状況があること。 わたしは全て分かっているし、みんなの気持ちも理解できる。 だからあえて誰も憎んだりしないようにはしてる。 …でも、もう誰も信じない。 憎むとすれば、誰かに操られているかのような運命と あまりにも不運な境遇くらい。 …1人ぼっちは、もう慣れたよ。 足早に教室を出て、まだ誰もいない廊下を歩く。 教室から聞こえてくる笑い声が、今日は一段と胸に突き刺さる。 歩く歩幅を大きくする。 自然とスピードも上がり、その勢いのまま階段を駆け下りる。 下駄箱に着く頃には少し息が上がっていた。 はは、何やってんだろわたし…。 ちょっと自己嫌悪に陥りながら 上履きを靴入れにしまい、外履きの靴を取り出し それを床にサッと落とす。 …パーン。 静寂の中で、靴が床を叩くその音だけが やけに大きく響いた。 その後ろで雨の低音が絶え間なく鳴り響く。 悔しいなぁ。 家に帰るまでは 我慢するって決めてたのに。 わたしの目から零れ落ちたそれは 靴の中に音もなく消えた。 誰でもない誰かに言いたい。 今日はわたしの 17歳の誕生日なんだ。 雨の帰り道。 今日は本当に雨足が強くて 傘を差しているのに 制服はすでにびちょびちょ。 1着しかないのに、どうしてくれるのよ。 こんなに見事にわたしの感情を表現してくれるなら 突き抜けるくらい晴れた日は わたしの気持ちも、晴れやかとは言わないまでも 穏やかくらいにはしてくれればいいのに。 …とか、馬鹿みたいなことを 本気でちょっと願ったりしてみるわたし。 今日初めての笑いは そんな子供っぽい発想をしている自分に対しての 苦笑いだった。 そんなことを考えているうちに 気がつけばもう、家の近くまで来ていた。 まだ高校生だって言うのに わたしは一丁前に1人暮らしをしている。 親がいないとか、そう言うわけじゃない。 いろいろあって親元を離れ 自分の意志で1人暮らしと言う選択肢を選んだ。 生活費は毎月親から送られてくる仕送りと 週3でやっているコンビニのバイトで賄っていた。 高1から始めた1人暮らし。 最初は分からないことだらけで大変だったけど 今でも何とか続いているんだから うまくいっていると言っていいと思う。 学校でもあんなんで、家でもこうだから 本当に1日中1人って感じ。 もう慣れたって言ったけど やっぱり1人が無性に寂しくなるときがある。 今日なんて特に…ね。 家のアパートの前に着く。 家に帰っても宿題やるくらいだよね。 そんなこと思うとちょっと虚しくなって 自然と、部屋に向かう足が止まった。 はぁ。 大きなため息を1つ吐き アパートを囲う柵の間から 102号室の自分の部屋のドアを見た。 …ん? なんだかおかしい。 雨のせいでよく見えないけど ドアに付いたポスト入れのすぐ下に 誰かの頭が見える…気がする。 …誰かがわたしの部屋の前で 座っている…? でも一体誰が…こんな雨の日に…。 ちょっと家に帰る前に 駅前にでも行ってブラブラしようかと思ってたけど とりあえず気になって仕方なかったので 変に高鳴る胸を押さえつつ わたしは自分の部屋に恐る恐る向かっていった。 雨で濡れた白い柵状の外扉を開けて 102号室に足を急がせる。 10mくらい手前で、わたしは足を止めた。 やっぱり誰かが わたしの部屋の前で座ってる。 髪や服装からして男の人かな。 年齢はちょっと分からない。 顔を下に向けて両足を伸ばし手をダランとさせている。 髪や着ているものが びちょびちょに濡れているのがこの距離からでも分かった。 何をしているんだろう…? 疑問とちょっとした恐怖に包まれながらも わたしは歩を進める。 2mくらいの距離まで近づいても その人はまったく姿勢を変えようとはしなかった。 気づいてないだけなのかな…。 ここまで来て分かったけど 体格とかからしてみても、男の人…みたい。 更に言うと服装が半袖Tシャツにハーフパンツという この季節にしていたら明らかに寒そうな服装だった。 もっと言うと驚いたことに、裸足だった。 どうしようかな… そっとしておこうかな…とか思ったけど この人がここにいる限り わたしは中には入れない。 「…あ、あのぉ…」 意を決して話しかけてみた。 …返事はない。何の反応もない。 もうなんなのよ一体。 なんなのよ…この誕生日…。 流れ落ちそうになる涙を必死でこらえて わたしは半ばやけになって 目の前の謎の男との接触を図った。 「あの!すみません!  そこにいられると、わたし入れないんですけど!」 たぶん今日一番だと思われる大声で わたしは言い放った。 やっぱり無言。 …もしかして寝ちゃってるの? ほんっと信じらんない。 手に持っていた傘を壁に立てかけ その男の横にしゃがみこんで 「あの!」と言いながら 大きく彼の体を揺らした。 そこで初めて気づいた。 すごく息が荒い。 触れた体から普通の人より早い鼓動が ドクンドクンと伝わってきた。 「ど、どうしたんですか!?」 なんかただごとじゃないような感覚に襲われて わたしはとにかく声をかけた。 ようやくわたしの声が届いたらしく その顔が上がる。 たぶんわたしと同じくらいの年の男の子といった感じ。 でもわたしを見つめてくる細い目や 完全に疲れきった表情が わたしより5歳ほど年上であるような 老けた印象を与えた。 どうしようかと無言で迷っていると その男の人がボソッと一言呟いた。 「…み、水…。」 「…え?」 「み、水を飲ませてください…。」 すがる様な目でわたしを見ながら 彼はそう言った。 …のどが渇いているんだな。 水くらい全然いいけど そこにいられると中にも入れないよ…。 でも、ほっとくわけにもいかないし。 「…立てますか?」 とりあえずわたしはそう聞くと 男の人は小さく頷きヨロヨロと立ち上がった。 175cmくらいかな。 わたしより身長は遥かに高いはず。 更に明らかにおかしな服装をしていて、しかも裸足。 どういうことなんだろう? 疑問は積もるばかりだった。 部屋の鍵を開ける。 わたしが中に入って水を汲んで持ってきて それを渡せばそれで終わりだったんだけど ここに1人で待たせているのも なんだか不安と言うか、なんかマズい気がしたので わたしは彼に肩を貸して 一緒に部屋に入っていった。 とりあえず玄関のところで ドアに向かい様な形で座ってもらった。 「水を…」と喋ってからそれ以後 彼はまだ何も発言していない。 そんな人を家に入れて大丈夫なのかと さすがにちょっと思ったりもしたけど 何故かこの人からは そう言った危険な印象は全く受けなかった。 だからこうして現に玄関まで上がらせている。 急いで蛇口をひねり水を注ぐ。 「はい、どうぞ。」 誰かも分からないその人にコップを差し出すと 目を見開き、手を震わせながらそれを受け取ると 注がれた水を本当に一気に飲み干した。 「はぁー、生き返ったぁ…。」 ようやく笑顔になってそう言う彼。 用が済んだんなら、もう帰ってくださいと 言おうとした次の瞬間 その男の人がその場にゴロンと 寝転がってしまった。 びっくりして唖然とするわたし。 ちょ、ちょっと!と声をかけようと息を吸い込んだときにはもう 彼の気持ち良さそうないびきが聞こえてきていた。 もう、なんなのよ一体…。 玄関で幸せそうに眠る彼の寝顔を見ながら わたしはただ呆然としていた。 それと同時に心臓がドキドキしているのに ようやく気づいた。 …ど、どうしよう………。 これが彼との 最初の出会いだった。

作品情報

発行日 2008/11/03
形式 小説
ページ数 126P
媒体 データ版

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