小説

正義のヒーロー 3

次の日。 10時頃に起き ボーっとしているうちに 時計の針は12時を指し いつものようにテレビをつけ ヒーローものの再放送を 見始めました。 ちょっとすると病室の扉が開き 目を向けると それは病院の服を着た石橋くんでした。 「よう。」 昨日と同じように 声をかけてくる石橋くん。 「おはよー。」 「おっはよう。」 とりあえず挨拶。 「いやー終わったよ。」 「え?もう終わったの?」 「うん、午前中にやっちまった。  一応今日1日は安静にしてろって  言われてんだけど  もう全然痛くもないし  暇だから来ちまった。」 そう笑いながら話しかけてくれる石橋くん。 盲腸の手術って 恥ずかしいのが一番イヤだけど 痛さの面での怖さも もちろんあった。 でも今の石橋くんを見ると ちょっと自分は怖がりすぎてるのかな って思えてきました。 「…ど、どうだった?」 恐る恐る聞くわたし。 「うーん、まぁ痛さは全くなかったよ。  麻酔もしてたしな。  気づいたら終わってたって感じ。」 「そうなんだー…。」 「でも…」 ちょっと赤らめた顔で 話を続ける石橋くん。 「看護婦さんにパンツ脱がされたときは  流石に恥ずかしかったけどな。」 「え、脱がされちゃうんだ…。」 「うん、覚悟はしてたけどなー。  でもホント一瞬だったよ。  ベッドの上に寝て30秒くらいで  看護婦さんが「ごめんねー。」って言いながら  オレのパンツ一気にスルッって  脱がせちまった。  気づいたらフルチンだったって感じ。  看護婦さん2人に見られてるって思うと  やっぱ恥ずかしかったけどな。  しかもあの看護婦さん確実にオレのちんこ見て  フフッって笑ってやがったんだぜ。  ちくしょーって思ったけど  隠すのも男らしくないし  宣言どおり、見せ付けてやったよ。」 そう言って恥ずかしそうに語る石橋くん。 やだーと言ってそのシーンを想像して 勝手に恥ずかしがるわたし。 石橋くんも恥ずかしかったんだよね。 ましてや異性2人に そんな姿見られちゃうなんて わたしだったら絶対恥ずかしくて泣いてる。 「桜木もそんな恥ずかしがることねぇよ。  相手は看護婦さんだぞ?  オレのがよっぽど恥ずかしいっつうの。」 頭を掻きながらさっきのことを思い出してか また顔を赤らめる石橋くん。 わたしもそろそろ 決心つけないとなぁ…。 でもどうしてもその1歩が 踏み出せない。 きっと石橋くんも わたしに手術を受けてもらいたくて こうやって自分のことを笑い話にして 話しに来てくれてるんだよね。 そう思うと 凄いなんか情けなかった。 「まだ悩んでんのか?」 「…うーん。なんかね。  決心がつかないの。  ホント駄目だね、わたしって。」 その言葉にうーんと唸る石橋くん。 すると付いていたテレビに気づいたらしく 「なんだ、桜木こう言うの好きなのか。  確か昨日も見てたよな、これ。」 写っていたのは大好きなヒーローもの。 みんなのヒーロー『銀河マン』が 悪者の怪獣を倒しているシーンでした。 「あ…違うのこれは…。」 女の子がヒーローもの好きなんていったら きっと笑いものだよね。 なんとかごまかさなきゃって思ったけど どうしようかオロオロしていると 「はは、実はオレも好きなんだよな、コレ。」 そう言って石橋くんは照れながら笑いました。 「3年にもなって見てるなんて言えないけどさ。   オレ結構朝学校来る前とか見てるぜ。  昼に再放送やってるのは知らなかったけどな。」 「ホントに!?  実はわたしも好きなんだー…。  朝にやってるのをいつも見てたんだけど  昼に1回と夕方に1回  再放送やってるみたい。  入院して初めて知ったんだけどね。  …女なのにやっぱ変だよね…。」 「…変じゃねーよ。  銀河マンはみんなのヒーローだぜ?」 そう言って2人で笑い合いました。 「なんか正義のヒーローってかっこいいよね。  悪者を倒してくれるとか  あこがれちゃう。」 「オレもそうだな。  クラスじゃこんな話絶対出来ないけどな。」 わたしと一緒の人がいたんだーって なんかすっごい嬉しくなっちゃいましたね。 なんか舞い上がっちゃって わたしは咄嗟に馬鹿みたいな言葉を 漏らしていました。 「もし正義のヒーローに  手術受けなさい!って頼まれたら  即OKしちゃうんだけどなー。」 冗談交じりでつぶやいた言葉。 その言葉を聞き マジマジとわたしの顔を見てくる石橋くん。 「…それ、本当か?」 変にまじめな顔で見つめられたので ビックリと言うかドキドキと言うか… 「じょ、冗談だよ!  それに正義のヒーローが病院になんて  来る訳ないじゃん!」 その場の空気を変えようと 急に現実味のある話に シフトさせてしまったわたし。 「そ、そうだよなー。」 そう言ってちょっと考え込んだ様子を見せた後 石橋くんはいつものように笑いかけてくれました。 そんなこんなで たわいもない話を小1時間…。 最近学校の子達と話してなかったから すっごく新鮮に感じました。 「よし、じゃあ戻るわ。」 「うん。」 そう言って腰を上げる石橋くん。 「退院はいつ?」 「とりあえず明日は安静にしとけって言われた。  だからおそらく明後日かな。」 「そっか…。」 「桜木も早く  手術受けちまえよ。  みんな心配してるからな。」 「う、うん…。」 細々と返事をするわたし。 そんなわたしを ジーーーーっと見つめる石橋くん。 ちょっとしてわたしが顔を上げると 目が合ってお互いしどろもどろ。 すぐに石橋くんが目をそらし 「ん、んじゃ、また明日な。」 そう言って病室を出て行きました。
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