芸術の秋 5
「…ごめんな。
変な邪魔が入った。」
「う、ううん全然!
こっちこそゴメンね。」
「…と、とりあえず
早いとこ描いちまってくれ。」
「…う、うん。」
ちょっと動揺しちゃったけど
竹内くんがそのままのポーズでいてくれたお陰で
すぐにペースを戻すことができました。
そして上半身がようやく描き終わって…
よし、後は下を描くだけ…と思ったとき
わたしの中の
変な美術魂が火をつけちゃったのかな…。
ハーフパンツ姿の男の子って
芸術的にどうなの?
…と思い始めていました。
芸術作品としての絵の中で
ハーフパンツの男の子なんて
見たことない。
…別に上半身だけの絵でも
十分良かったんだけど
画用紙の下の部分開けて描いちゃったし…。
どうしようと思いながらも
わたしはコレで最後だしと思い
究極の注文をすることにしました。
高鳴る心臓を
深呼吸で抑えつつ…
無理なのは承知で
わたしは竹内くんに聞いてみました。
「あの…。」
「ん、終わったか?」
赤くした顔をこっちに向けて
竹内くんは聞いてきました。
汗が止まらないみたいで
頭から流れた汗が体の方まで
滴っていました。
「ううん、違くてね。
…一生のお願い聞いてくれる?」
「…ん。」
ちょっとビックリした様子の竹内くん。
きっと感ずかれてたよね…。
「無理は承知で言うんだけどね…。
その、あのね…。
…下も脱いで欲しい…な。」
ドキドキしながら頼みました。
さっき竹内くんのお母さんに質問されて
否定したばっかりなのにね…。
「え…下って…。
は、ハーパンか?」
流石にうろたえながら
聞き返してくる竹内くん。
「んっとね…その…。
出来れば…パンツも。」
頭から火を噴くかと思うくらい
恥ずかしくなりながらも
わたしは妥協したくないと言う
良く分からない美術魂に負けて
言いました。
「え、で…、でもさ。
ぱ、パンツの下オレ…
な、何も履いてないし…。」
「うん、だからその…つ、つまりね…
す、すっぽんぽんになって欲しいの…!」
いい言葉が見つからなくて
わたしはそう言い放ちました。
流石にビックリして
ポーズを崩しわたしを見てくる竹内くん。
その顔はまっかっかで
頭からは汗が噴出していました。
「で、でもさ…。」
頭を掻きながら狼狽する竹内くん。
「最初からそういうつもりだったワケじゃ
もちろんないの!
今ね…ちょうど上半身を描き終えて
下を描き始めようと思ったんだけど…
その…ひとつの芸術作品としてね。
やっぱりハーフパンツはおかしいかなって。
…別に小学生の作品だし
そんなの気にして馬鹿みたいじゃんって
思うかもしれないけど
なんか…妥協したくなくて。
竹内くんと過ごすのも
きっと卒業するまでだし
せっかくなら納得いく作品を
描いて見せたいなって…。」
必死で説明するわたし。
なんかいろいろ説明したけど
全部本心だけど
結局は脱いでって言ってるんだもんね。
そう思うとやっぱり申し訳なかったし
何より恥ずかしかった。
竹内くんの方が数倍そうだったと
思うけど…。
ちょっと沈黙するわたしと竹内くん。
ちょっと期待してた自分もいたけど
普通に考えて無理だよね…。
もう何言ってるんだわたし…。
「…なんてうそうそ!
冗談だよ冗談、ハハハ…
そんなこと出来るワケないじゃんね…」
わたしが照れ隠しにそう言って
冗談でごまかそうとすると
竹内くんは顔を赤らめたまま
真剣な顔でわたしの方を
見つめてきました。
「…分かった。」
「え?」
その返事にビックリして
思わず聞き返すわたし。
「だから…了解した。
ぬ、脱ぐよ…全部。」
わたしのドキドキは最高潮。
期待していたのは事実だけど
ホントにそれが現実になろうとしてる。
自分で言ったことなのに
いざ決まるとどうしていいか分かんなくなって
ただ呆然と言った感じでした。
「…その代わり
うまく描いてくれないと承知しないからな!」
恥ずかしそうにそう言うと
竹内くんはドアのほうへ歩いていき
鍵をかけました。
流石にさっきみたいなのは
もう笑えないモンね。
この状況も…だけど。
そんなこんなで
わたしのちょっとした向上心のせいで
わたしは初恋の人の
すっぽんぽん姿を
デッサンすることになりました。