小説

イカサマG@ME 7

震える手で、トランプの箱を受け取る。 他3人の視線は、自然とわたしの手元に集中していた。 もうどうすることもできない。 いやもしかしたらどうすることもできたかもしれないけど どうすればいいんだろうと わたしの心が今の今まで迷い葛藤している時点で きっともうどうすることもできないんだろう…。 「やっぱり止めよう。」の一言を口に出せないまま わたしの手はゆっくりとトランプの箱を空け 中からその束を取り出し ジョーカーを探し始めていた。 どうしよう…絶対ではないけど勇気がないから 最後のきっとフェアゲームは、もう取り消しが効かない。 だとしたら、今この瞬間に 何か新たにトラップを考えるしかない。 …なんて考えても、思いつくはずもなく。 ただでさえ混乱してるのに それを抑えて一瞬で名案をひらめくことなんて 笑う天使を探すというインチキを 考えることくらいしかできなかったわたしには 不可能なんだと ジョーカーを見つけたあたりでわたしの脳が結論を出す。 同様に三浦たちだってそう。 マジックショップに頼っていた者同士 きっともう策なんてありはしない。 だから、最後のこれは間違いなく “ただの”ババ抜きであるんだと わたしは何の疑いもなく信用することが出来ていた。 その状況が一番、怖いんだけどね…。 見つけたジョーカーを1枚抜き、除ける。 53枚になった紙の束を わたしは全く違うことに考えをフル回転させながら 切っていた。 何かいい方法はない…? 俯きながら救いを求めるようにチラリと千佳の方を見ると 千佳はわたしの数十倍くらい救いを求めるような 不安に満ちた顔でわたしを見つめていて わたしはすぐさま視線をトランプに戻してしまった。 ごめん…「ごめん。」としか言いようがない。 絶対大丈夫!とか言っちゃった自分がもの凄く恥ずかしい。 わたしの頭の中のシナリオは 天使を見つけていくだけで 男子がすっぽんぽんになるって言う ただそれだけの 分岐点などない一本道で構成されてしまっていたから 全く反例などに気を置くことすらしていなかった。 ただのご都合主義って言われればそれまでだけど それに絶対の自信を持ってしまっていた自分も なんとも幼稚だよね。 千佳はわたしの案に賛成してくれていたけど 心の何処かで こんな展開を想像していたのかもしれない…よね。 ほぼ半強制的に付き合わせちゃった感じが否めないもん。 今後は千佳の意見もちゃんと尊重しよう…。 なんて、何の策も脳もなく 普通のトランプを切りながら思っても 時すでに遅すぎなんだけどさ…。 ふと三浦に目をやると 策尽きた感丸出しの落ち着かない様子で モジモジモジモジと体を揺すっていた。 こんな奴におっぱい見られてたまるか…。 同じく策尽きているにも関わらず決意表明だけは一人前に わたしは吹けば消えてしまいそうなほどの闘志を燃やす。 森くんはさすが落ち着いている… フリをしているだけなんだろうな。 最初にやった ゴチャゴチャに4人でカードを混ぜる工程を 何の許可もなく省いたのに 全く気づいていないみたいだもんね。 …なんて、今この瞬間にそういえば忘れた…と そのことに気づいたわたしが言うのもなんだけど。 …きっとポーカーフェイスを装う裏で 自分が素っ裸になってしまう未来と わたしたちのおっぱいを見る未来の両方を 同じくらいの比率で、シミュレートしてるんだろう。 恥ずかしいことに、かく言うわたしもだけど…。 などと考えているうちに トランプ側からすれば これ以上切られては困るくらいに切り終わり わたしは無言のままそれを配り始めていた。 あーあ…、もう取り返しつかないよ。 何してるのわたしの手… 全部放棄しちゃえば終わることなのに。 そんな簡単なこともできなかったのは 何度も言うように勇気がなかったからだけど それ以外にも、やっぱり 三浦たちのを諦めきらなかったからってのもあるんだろうな。 もう、見れるモンだとばっかり思っちゃってたもんね。 …全てを配り終え それを手元に手繰り寄せるわたしたち4人。 とりあえずわたしには、ジョーカーはないみたい…。 …なんて、安心できる要素なんて1つもないけどね。 揃っているペアを祈るような気持ちで探し カップリングされたもの同士を中央に送り出す。 「…よし、じゃあ最終決戦、スタートだ。」 気がつけば いつもなよなよして弱々しいイメージのある森くんが この場を仕切っていると言う なんとも不思議なことになっていた。 そこにあまり違和感を感じなくなっていたのは きっとそれくらい動揺してたってことなんだろうけどね。 みんなもおそらくそんな感じ。 重い空気で始まったただの普通のババ抜き。 沈黙の続く中、数秒考えた後 自分からのスタートだったと慌てて気づき 三浦の方に気持ち体を向ける。 ありもしない希望にすがる思いで 三浦のカードを裏から目でなぞる。 怪しまれること覚悟で 他の2人のカードにも同様の処置をしたけど あり得ないことは、やっぱりあり得ないみたいね。 …わたしの周りを取り囲む2次元の天使たちは 全員同じ顔、冷酷な瞳をして、佇んでいた。 …まるで やらかしてしまったわたしを、非難するかのように。
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