小説

イカサマG@ME 8

迎えたエキストラ最終決戦。もとい、フェアゲーム。 なんでこんなことしてんのわたし… なんて言ったって、発案者がわたしなんだから 救いようがなかったりするんだけどね…。 三浦のカードに視線を移す。 どのカードを見ても違いはない、全て同じカード。 奇跡でも起こって、ジョーカーの天使さん 笑ってくださいよぉ…! それを本気で願うくらい今、余裕がないわたし。 …ふと、既視感に襲われる。 三浦のカードの端から2番目のカードが あからさまに突出しているのが分かる。 これもまた…裏の裏をかいた、低脳な三浦の作戦なの? さっきは見えていたからの翻弄ぶりだったけど 今はそんな余裕など何処吹く風。 ジョーカーの在り処の分からないババ抜きが こんなに怖いものだったなんて… ババ抜きを発明した故人を 100%の責任転嫁だと自覚の上で恨んだよね。 …わたし的見解に寄れば さっき三浦は裏の裏をかいて ジョーカーを敢えて目立つ場所へとセットした。 それがジョーカーだと知りながら 展開上の必須選択であるため 自分の手元にそれを引き寄せたわたし。 あのときの三浦の顔…今思い出しても腹が立つ。 そりゃあ、あんなあからさまな笑みも浮かべるよね。 あっちからしてみても わたしたちにジョーカーが渡った時点で 勝ちが確定してたんだから。 ホントに改めて、THE 茶番だったよね。 そんなことよりも… これ以上吟味に時間をかけていては流石に 躊躇いすぎ、優柔不断すぎと言うレッテルを 貼られかねない。 ここはまた、裏の裏の裏をかいて 突出したカードをを引く? それともさらに裏の裏の裏の裏をかいて それ以外のカードをを引く? …それとも裏の裏の裏の裏の裏をかいてそれを…? それとも…? …もう分かんない!!! わたしは 馬鹿な奴は敢えて同じことを仕掛けてきたりはしないという たった今立案した、わたし的ババ抜き法案に基づき 裏の裏の裏の裏の裏の裏のさらに裏をかいて 頭1つ出たそれをおもむろに引き抜いた。 -そのカードを裏返し、愕然とする。 ジョーカーだった。 …まさか最初の1手でジョーカーを引くなんて… 別に負けたわけじゃないけど いろんな意味で既に負けた気分…。 いろんな思考回路があっての選択だったけど 傍から見たらきっと 同じ罠に引っかかった、学習レベル0の能無し少女… でしょ。 引かれた側の三浦はと言うと 一瞬わたしと目が合うかと思うと 目だけで少しドヤ顔を作り それを周囲に気づかれまいと すぐさまわたしから目線を外す。 そして 冷静を保ったまま、千佳の方へと体勢を傾けていた。 なにその…慣れているわけもないような大人な対応…!! めっっっっっっちゃ腹立つっ!!!! …かと言って笑われたら笑われたで 腹立つんだろうけどね。 結局のところわたしは 最初っから外れくじを引いてしまったことで 縁起が悪いような気がしてならなくて…単純に焦っていた。 その後、ジョーカーはわたしの手元に身を据えたまま 4人のカードは着々とペアを完成させていく。 カードを引く音と ペアを捨てる音くらいしか物音がしない。 こんな状況でババ抜きを楽しめって言う方がおかしいけど これじゃゲームじゃなくて儀式だよ。 異常に物静かな空間が、なんとも不気味で怖い…。 もし負けたら…ふとそんな嫌な結末が頭をよぎる。 わたしと千佳…2人一斉にブラを外す。 露になる、わたしたち2人の上半身。 森くん…はいいとして、いや良くないけど それよりも何よりも、三浦の細くした嫌らしい瞳が わたしたちの胸元に集中する情景を 容易に想像できてしまう。 しかもわたしと千佳だったら… 悔しいけどどう贔屓目に見たって 千佳の方が巨乳だよね…。 交互にわたしたちのおっぱいを観察して 「…大したことねぇな。」とか 満更でもないような顔して抜かすんだろうな…。 …嫌っ!!! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぜっっっっったいに嫌ぁっ!!! そんなことにだけは絶対にさせない。 絶対にさせたくない… … …でも…… 何にもいい案が思いつかないよ。 情けないけど、神頼み… これくらいしか今のわたしにできることってない。 天使さま…もう1度だけ、もう1度だけでいいから わたしたち女子に、微笑んでください…!!! … 「…やま、丸山…?」 その声に我に帰るわたし。 隣りの森くんからの声、 …デジャヴとしか言いようがない…よね。 落ち着こう落ち着こう…。 「…ご、ごめん。」 そう言って、森くんの方に向き直し、カードを差し出す。 ………。 …え? 邪念だらけの心でプレイしていたせいか 全く試合の流れを無視していたわたし。 自分の持ち札が残り2枚になっていることに今更驚愕し 試合が終盤戦に向かっていることに、ようやく気づく。 …うち1枚は 冷酷な天使を背負った忌々しいジョーカー殿…。 他のみんなを見ると 三浦2枚、千佳2枚、森くん1枚…。 終盤戦も何も あと1周で終わるかもしれない状況じゃない…! しかも近年稀に見るような接戦中の接戦…。 いつの間にこんな…!って わたしが動揺し過ぎてただけなんだよね。 考えることが多すぎて 試合展開から完全に意識を飛ばしてた。 …ってか森くんあと1枚ってことは わたしのジョーカーじゃない方のカードを もし引いたとしたら 1抜けしちゃう可能性があるってことだよね。 気軽に「丸山。」なんて声掛けられたけど ここってかなり重要な局面じゃん。 しかも今のわたしは 不幸にもおババ様所持者なワケだし…。 わたしはカードを差し出す手を一旦引き 森くんに見えないように 裏返しのまま2枚しかないカードを グルグルと混ぜてみせる。 …目の前には、微かに笑う森くんの顔。 …自分でやって気づいたけど こんなことする人って ババ持ってる人意外にいないよね普通。 きっと全員にバレたことを みんなの視線で肌で感じながら 引き返すことなど出来るはずもなく そのパフォーマンスを続ける。 この間に、何かいい案でも思いつかないかな…なんて ちょっと自分のポテンシャルに期待してた自分がいたけど 結局何もひらめいたりすることもなく わたしは2枚を制止させ、改めて森くんに差し出す。 … ……ジョーカーの方だけ、少し上に突出させて。 …やってて自分でも恥ずかしかったけど なんで三浦と同じことしてんだろわたしって 恥ずかしくなったけど どうにか少しでも 細工を施しておかなくちゃって思った結果 瞬時に思いついたのが 左隣にいるアホ猿の案と一緒だったわけで…。 …必死で言い訳を見つけようと努力してみたけど 自分のこの行為に 上手でスタイリッシュな意味合いを持たせることなど 出来なくて。 どうせならジョーカーじゃない方を目立たせれば良かった。 なんなら元の配列に戻そうかとも考えたけど そんなことしても情けなさが増すだけのように思えたし そんなこと思ってる内に 森くんの手がわたしのカードに伸びてきて… …少し迷った挙句 裏の裏のどれくらい裏をかいたのかは知らないけど ジョーカーの方を静かに 音も立てずに森くんは持っていった。 …成功しちゃった。 目線を森くんに向けると、一瞬目が合う。 すぐさま目線を逸らし、周りに気づかれまいと 三浦の方に向く。 我ながら見事な大人な対応。…無論、ホントは三浦参照。 結局恥ずかしくなるわたしは、感情が表に出ないように その勢いのまま アホ猿テキスト(不本意)のカードに手を伸ばし 適当に、何も考えずに1枚引き抜く。 手元に残る1枚と、手元に降り立つ1枚。 その2枚を交互に確かめるように見つめ その数字が、マークは違えど同じであることを頭が理解し ゆっくりとそれを真ん中へと送り出す。 手持ちの札は…0。 「…あがった。」 小さく声を漏らす。 わたしのその姿に、まだ結果は分かってはいないものの 「マジかー…」と悔しそうに わたしと同じ様に漏らす三浦。 千佳と森くんは…良く覚えてない。 とにかく… あがった…!!やった!! …なんて一瞬舞い上がったけど、安心できるワケじゃない。 わたしがあがって、千佳もあがって 初めてわたしたちの勝利が確定するんだから。 まだまだわたしたち2人がポロリしちゃう可能性は… 十分にある。 「…田嶋。」 「…う、うん。」 わたしの一瞬の感情の起伏をよそに、続きを再開する三浦。 思えばわたしにカードを引かれ、三浦の持ち札も残り1枚。 2枚となった千佳のカードの片割れを 三浦がきっと何を考えるでもなく引いて… …嫌な予感はしてた。 三浦は2枚になった自分のカードを眺め、少し溜息をつき それらを真ん中へ放る。 「…あがり。」 全く嬉しくなさそうに、そう呟く三浦。 …自分が勝ってもチームの勝利と言うワケではないことを きっと理解してたからの反応だよ…ね。 …心の中とはいえ、1秒ほど浮かれてしまったわたしが 何とも悲しい。 …と、そんなことはどうでも良くて…!! 緊迫した空気が、更に緊迫する。 …ババ抜き最終決戦は 千佳と森くんの一騎打ちになった。
ページトップへ