小説

イカサマG@ME 9

ただでさえ静かだったのに いよいよのクライマックスを向かえ さらに重い沈黙となる。 残された2人が向かい合うように体勢を直す。 決まるんだよね…そろそろ決まっちゃうんだよね。 どっちが…恥ずかしい目に遭うか。 わたしはその場に居合わせながら その瞬間に立ち会うのが怖くて 思わず2人から少し遠ざかり 体育座りをしながら祈り始める。 そんなわたしを見た三浦も、居心地が悪くなったのか 2人から意図的に距離を置き さも冷静さを失っていないかのような態度で ズッシリと胡坐をかいた。 あいつなりに緊張してるのね…。 そりゃあね、もし森くんが負けたらすっぽんぽんだもんね。 男子までイカサマをしてたって言う わたしの計画が崩壊するまさかの事態に愕然としたけど それは三浦だって一緒だったのかもしれないよね。 むしろ三浦の場合、森くんのネタばらしって言う 言わば仲間の裏切りのせいで今に至ってるわけだし。 しかも負けたらすっぽんぽん…になるだけじゃなくて わたしたちの言うことを 何でも1つ聞かなくちゃいけないって言う オプション付き。 何をお願いしようかなんて、全く考える余裕ないけど…さ。 納得のいかなさで言ったら わたしよりも数倍上をいってるのかもね。 …なんて 正直そんな比率なんて知ったこっちゃないけどさ。 恥ずかしいのはわたしたちだって一緒だもん。 そうだよ…そんな三浦なんかより… カード1枚を握り締め、森くんと対峙する千佳。 ウルウルした瞳でわたしの方をチラッと見る。 ごめん…!! わたしはその意味を込めて無言で頭だけを下げる。 今千佳は何を思ってるんだろう…。 …前言撤回、一番の被害者はやっぱり千佳だよね。 馬鹿なわたしのせいで、こんな状況になって もし負けたらその豊満な胸を 男共に晒さなければならない。 しかもこの状況… 100%わたしのせいで作り上げられた舞台だけど 自分のせいで わたしまでおっぱいを出さなきゃいけなくなったと 情報を全て上書きして 全部自分のせいだと責任を感じちゃうかもしれない。 ただでさえ心配性な千佳だもん。 …そのウルウルから 雫が零れ落ちることだけは避けたい…。 とか願いつつも わたし自身今出来ることなんて何もないんだけどさ…。 本当は、数分後に控える未来の自分のことで頭が一杯。 とにかく…頑張って千佳…!!!お願い…!!! それしかもう…わたしに出来ること…ない……!!! 視線をわたしからゆっくりと外し 森くんの方を見つめる千佳。 もしここで千佳がジョーカーを引いても まだ負けが決定したわけじゃないけど そのあとのことを考えたら わたしの精神が持つかどうか見当も付かない…。 …って、自分のことで精一杯だったけど 良く考えたら今この状況は 男子にとって絶望的な局面なんだよね。 森くんは冷静を装いながら 千佳の方を見てカードを突き出しているけど 内心はきっとバクバクなんだろうな。 クールキャラと言うか 普段感情を表に出さないような人って 大変だな…とか 何の根拠もなく、気晴らし程度に考えてみたりもした。 ふと三浦の方を見ると 自分のズボンのゴムを少し引っ張って 誰にも気づかれないように その中身を確認している最中だった。 慌てて視線を逸らし、俯くわたし。 …な、なーにやってんだかね。もう負ける気満々って感じ? だらしなーい…。 …とか言いつつも 少しドキドキしてしまった自分も嘘じゃなくて…。 …い、今はそんなこと気にしてる場合じゃなくて…!!! 恐々と、再び千佳たちに視線を戻す。 …当然のごとく訪れる、今日1番の重い沈黙。 もう早く終わって…!! いや…終わってくれても困る気もする…けど…!! とにかく…!!!!! …そんなわたしのパニック寸前の感情に終止符を打ったのは 千佳だった。 ウルウルした瞳をゆっくりと閉じ ほんの数秒そのまま静止し、再び目を開く。 その瞳の千佳らしからぬ鋭さに わたしは一瞬ドキッとする。 そしてそのまま躊躇うこともなく まるで自分の引くべきカードを知っているかのように 森くんの持つカードの1枚をサッと引き抜き 自分の手元にサッと引き寄せる。 …ど、どうだったの…!? あまりにも迷いのない千佳の行動に 若干の不安と違和感を感じながらも 思うことはただ1つ、心の中で叫ぶその台詞。 …そんなわたしの疑問が頭の中を巡り終わるその前に 目の前から千佳の顔がなくなっていた。 え…?状況を追おうと顔を動かし視線を乱雑に移動させ 斜め上の方でそれを固めると ようやく千佳を捕らえることに成功する。 この間約0.5秒(推測)。 …千佳は、その場で立ち上がっていた。 普段見せることのないような俊敏さで。 そしてすぐさま聞こえてきたのは 「やったーーーーーーーー!!!!!!!!」 と言う、千佳の大きな声だった。 それも普段聞くことが出来ないような大きな大きな歓声。 一瞬、突然のそれに驚いたものの わたしは、その常軌を逸する喜びに わたしたちの勝利以外の 他の何がしを見出すことはなかったから 衝動的に、千佳と同様に思いっきりその場に立ち上がる。 そしてそのまま、千佳の元に小走りで駆けていき はしゃぐ千佳にギューーーッと抱きついた。 「良かったーーーーーー!!!!  良かったよぉぉぉおお!!!」 「うん、良かったぁぁああ~。」 まるで世界卓球で優勝を勝ち取ったダブルスペアのように オーバーに喜びを分かち合う2人。 馬鹿みたいだと思うかもだけどさ、それくらいわたしたち 切羽詰ってたってことなんだよ。 一時はどうなることかと思ったけど 最後の最後に やっぱり天使はわたしたちに微笑んでくれたんだよね。 はぁぁあああ~、ホントに良かったぁぁ~…。 …ふと、森くんに目をやり、見下ろすと 喜びを爆発させるわたしたちを 呆然とした顔で見つめていた。 そして少しすると、ふぅっと大きく息をついて 負けを認めるように吹っ切れたように小さく笑い ジョーカーであろう手元に残った1枚を 感慨深げに眺めてから 目の前にそれを、静かに置いた。 そして視線をわたしたちからずらす。 …その先にいたのは、…三浦だった。 「あぁぁーーーーーー!!!!!!  まぁじぃかぁよぉぉぉおおおおお!!!」 そう叫びながら、部屋の隅で大きく足を開き 顔を手で隠しながらドスンと仰向けになる。 その姿を見て、改めてわたしは全てを理解する。 わたしたちは勝ったんだ…そして…!!!! 三浦たちはこの後わたしたちの前で… すっぽんぽんに…なるんだ……。
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