小説

気になるあいつ 5

あいつとベンチに2人で座る。 オレも男だからな。 やっぱりちょっと緊張しちゃったぞ。 最初はどうなることかと思ったけど 腹くくって公園来てよかった。 嫌われてもなかったみたいだ。 服を返されたときは どうリアクションしたらいいのか かんなり焦ったけど まぁなんとかうまくごまかして こうして座ってるわけだから 結果オーライってことで。 そうそう 服から石鹸のにおいがしたな。 きっと洗ってくれたんだろうな。 …こいつが洗ったのかな。 …いや変な想像はよくない。 とりあえず…ありがとう。 こころの中でつぶやく。 意外にも結構喋る奴でビックリした。 いろいろ聞かれたな。 学校はどこなの?とか 家はこの辺なの?とか 何年生?とか …まぁその他もろもろ。 オレのを見ちゃったこととか 見た感想とかは 言ってこなかったけどな。 …言われても困るけどな。 でも昨日あの後ちゃんと帰れたかは 聞いてきた。 まぁ大変だったけどな。と伝えると 申し訳なさそうにごめん。って 言ってきた。 不覚にも…その顔が可愛かったな。 いろいろ話して分かったのは あいつはオレと同じ学年ってことと 学校はちょっと離れた場所にある 第2小学校、ちなみにオレは第1ね。 あと家がここから 結構離れてるってこと。 質問ばっかだったから そろそろオレのターンだなと思って いろいろ気になることを聞いてみた。 「なんでいつもここで  本読んでるんだ?」 その質問にちょっと眉をすくめて あいつは答えた。 「…家帰っても誰もいないし。  お母さんもお父さんも働いてるんだ。  だから家いても寂しいだけだから  ここで夕方までいつも本読んでるの。」 寂しそうに答えるあいつに どうしようか迷った。 「…と、友達とかは?  学校とかで遊んだりさ。  放課後に読書するより  みんなと騒いだほうが楽しいぜ。」 「…学校に友達いないんだよね、わたし。  いないと言うか  作ろうとしてないって言った方が正しいかな。  お父さんの仕事の関係で  引っ越しをすることが多いの。  もう小学校に入ったあとだけで数えても  5回かな、引越ししたの。  そのたびに学校も変わるのね。  前は友達たくさん作ろうと思って  頑張っていろんな子と  仲良くしようと思ってたんだけど  やっと仲良くなれたと思ったところで  引越し…。  そんなことが2回くらい続いて  それなら仲良くならないほうが楽なのかなーと  思うようになっちゃったのね。  お別れって辛いし、どうせまたすぐ  引越しちゃうだろうしね。  だから学校では  できるだけ友達作らないようにしてるんだ。」 そう言って寂しそうに笑うあいつ。 こういう大変な奴もいるんだーと 本気でいろいろ考えちまった。 「そっか…いろいろ大変だな。」 それしか言えない自分。 おーい、情けないぞー我ながらぁ…。 「…そんな君は?  いつもこの時間に散歩してるけど  学校帰りの犬の散歩がお好きなの?」 頑張って笑いながら聞いてくる あいつ。 「…んー、んまー…そんなとこかな。」 うそが下手なんだオレ。 明らかに怪しいといった感じで見てくるあいつ。 「…いや実はこの時間帯は  ホントはみんなクラブ活動してるんだ。  4年生になるとみんな何か入らなくちゃいけなくてさ。  でもオレはその、めんどくさいから  上手いこと抜け駆けして帰ってきてるわけ。  でも流石に母ちゃんにはバレててさ。  んでクラブやんないんならせめて  犬の散歩しなさいってことでやらされてるワケ。」 正直に話すオレ。 こいつの前ではなんか嘘はつけない。 なにそれー、と言いながら クスクス笑うあいつ。 「いいじゃんクラブ活動。  絶対楽しいと思うよ。  男の子なら野球とかサッカーとか?  …あ。」 何かに気づいたように 言葉に詰まるあいつ。 「…もしかして、運動音痴だから?」 ちょっと含み笑いしながら 問いかけてくる。 運動音痴なんて言われたことなかったから ちょっと嫌だった。 オレは手に持ったフリスビーを ベンチに座った状態のまま 馬鹿犬のほうへ投げてやった。 まっすぐな軌道を描いたフリスビーは 馬鹿犬の目の前に飛んでいき 馬鹿犬はそれを1歩も動くことのないまま 口でキャッチした。 ちょっとビックリした様子のあいつ。 …見直したかな?へへ。 「放課後までつぶされたくないんだ。  …まぁつまりは、めんどくさいんだ。」 これまた正直に言うオレ。 フフッと笑いオレを見ながら 「そんな感じするなぁ。」と言って 笑うあいつ。 …なんかデートみたいだな。 なんて思ってちょっとドキドキしちまった。 「…でもさぁ。  友達がいないのは寂しくないか?  学校でもいつも1人なのか?」 オレの咄嗟の問いかけに あいつは言葉を詰まらせる。 きっと1人なんだろうな。 そう思った。 「…んまぁオレも  毎日クラスの奴らほとんど全員と喋るけど  ぶっちゃけ特別仲いい奴って  いないんだよな。  なんて言うかな。  そう言う意味では若干浮いてるのかもw」 なんか良く分かんないけど よく1人になると思うことを オレは咄嗟に喋ってた。 こんなこと他の奴には喋れないよな。 友達多いけど 親友と呼べるような奴いるか、と聞かれたら 言葉に詰まってしまう。 別に不幸なことじゃないと思うけどさ。 ちょっと寂しかったかな。 「ふーん…そっかぁ。」 そう言うとあいつは オレの顔を見ながら ちょっと嬉しそうに笑った。
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