小説

気になるあいつ 3

小走りでかけていくあいつ。 …ちょ、ちょっと待て! せめて短パンとパンツだけでも 置いていけよ! …短パンだけでも最悪良いからさ。 オレは自分の下半身を 確認する。 …信じたくなかったけどこれが現実。 もちろんフルチンだった。 気になる奴に、名前も知らない奴に 自分のフルチン姿を見られてしまった。 それだけでもオレとしては 恥ずかしいなんてモンじゃないほどの 大事件なんだけど… 今はそれよりも この状況をなんとかしなくちゃいけない。 恥ずかしさでどうにかなりそうな頭を 精一杯フル回転させて どうしようかを考えた。 今は夕方。 あたりが真っ暗になるまで 多分後1時間はかかるだろ。 それまでここで待ってるような 大冒険はオレにはできない…。 とにかく誰にも見られないように 家まで帰らなきゃ…。 家までは歩いて10分。 犬を飼ってるくらいだから 一応1軒屋。 マンションの8階とかだったら はっきりいって終わってたよな…。 …まぁこの状況も 十分に終わってるワケだが。 いろいろ考えた。 犬にまたがって ちんこ隠しながら帰る? …流石に目立つよな。 どこの猛獣使いだよ。 道路の端っこ通りながら この馬鹿犬を盾にして あたかも何もないように 家まで帰る? …後ろから見たらケツ丸出しジャン。 と言うか前から見たらちんこ丸見え。 大体10分も俺の精神が もつとは残念ながら思えない。 絶望的だった。 何でこんなことに…。 どんな方法取ったって ハイリスクノーリターン。 …こんな言葉あったよな確か。 まぁ報われないってことだ。 いろいろ考えた結果 猛ダッシュで帰るのが 一番いいと思った。 …いいとは思えなかったけどな。 一番短時間で済む方法。 オレはジョンを見た。 この馬鹿犬のせいで… 怒りがこみ上げてきたけど そんなことお構いなしといった様子の馬鹿犬。 …今はこんなことしてる場合じゃない。 「ジョン!ゴーホーム!」 オレがそう言うと ジョンは一目散に家に帰っていった。 馬鹿犬のくせに ゴーホームって言うと 何故かちゃんと家に1人で帰れるんだ。 うーん良く分からん。 ゴーホームの意味も良く分からんが。 …さて、ここからだ。 前を隠せるものといえば フリスビーくらいか。 この大きさなら前を隠すには十分だ。 …あいにくそんな立派なモンは 持ってないからな…。 前は良いとして後ろはどうする。 …パッと目に入ったのは ベンチの下に落ちていた あいつが読んでた小説。 『容疑者Xの…なんとか』 読めない。 どうしようか迷ったけど ここに置いていくわけにもいかないし 持って帰るのは確定事項。 ならフリスビーでケツかくして この小説でちんこ隠したほうが 安全というか安心だよな。 小説でも十分隠れる大きさだったし。 …あいにく立派なモンは… …何度も言わせるな。 考えてる余裕はない。 名も知らないあいつに 心の中で『すまん…。』とつぶやき オレは小説でちんこを隠し フリスビーでケツを隠して 猛ダッシュで家に急いだ。 飛ばしまくれば 3分でつけるはずだ。 何も考えるな…無心だ。 途中何人かにすれ違った。 悲鳴みたいのが聞こえた気もする。 そんなこと気にしてる場合か。 とにかく走れ! そんなこんなで無事たどり着いた我が家。 急いで庭に隠れると 馬鹿犬が幸せそうに 小屋で寝てやがった。 こいつ…いつか復讐してやる…。 この状態のまま玄関のドア開けたら 母親ぶったまげるよな。 なんとしてでもそれは避けたい。 一番良いのは誰にも気づかれずに 風呂場に駆け込んじまうのだよな。 まさに完全犯罪。 風呂場は玄関入ってちょっと行ったとこを 右に曲がればすぐある。 玄関から入るのが 一番の得策だよな。 「よし!」意を決して 玄関の扉を思いっきり開ける! 「ただいまーーー!」 大声で叫びながら 風呂場に駆け込むオレ。 母親の声が聞こえないうちに もう湯船に浸かってた。 …ふぅ、助かったぁぁ…。 やっと落ち着けた瞬間。 湯船に浸かりながら 今日あったこといろいろ考えてた。 一番の事件はやっぱり 気になってるあいつに ちんこを見られちゃったって ことだよな…。 良く覚えてないけど あいつガン見してたよな…確か。 オレちんこなんて母親くらいにしか 見られたことなかったのに。 嫌われたかな…。 オレちんこにあんま自信ないんだ。 いつか大きくなるはず、と思って 毎日たくさん牛乳飲んでるんだけど なかなか上手くいってくれなくて… 他の部分ならまだ良いよ… なんでよりにもよって ちんこ見られちゃったかなー…。 あいつの笑った表情や 顔を真っ赤にして驚いた表情を思い出して オレは恥ずかしさが一気にこみ上げてきてた。 「…あの馬鹿犬がぁ!」 オレは大声で叫んでいた。
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