小説

気になるあの子 5

学校が終わると いつものようにわたしは いつもの公園に向かいました。 学校なんていつも 授業中は授業を聞いて 休み時間は寝た振りして過ごして 気づいたら帰る時間になってて… そんな感じでした。 でも今日は 昨日のことが頭から離れなくて 授業も終始うわの空。 休み時間も 寝たふりなんか出来ない。 …ランドセルに入ったズボンとパンツ。 こんなものが誰かに見つかったりしたら クラス中の笑い者だよ。 まぁ友達なんていなかったから ちょっかい出される心配なんて なかったんだけどね。 それでも万が一ってこともあるし。 ずっと神経を尖らせてました。 行くべきか凄く迷った。 合わせる顔がないし 会ってもきっと動揺して 何も出来なくなっちゃう。 でも行かないワケには行かなかった。 返さなきゃ…って言うのも もちろんあるけど それ以上に会いたい自分がいた。 このまま二度と会えなくなるのは 絶対に嫌だった。 だってわたしの1日の 唯一の楽しみだったんだもん。 公園に着く。 もちろんまだ誰もいない。 ドキドキは隠せない。 落ち着け落ち着け… 本を出そう、読んでないと怪しまれちゃうし… …アレ。 ないよ。 …いつもここに入れてるはずなんだけど…。 昨日ここで読んだよね…。 ランドセルに仕舞った記憶は… ない。 落としちゃったのかな。 …ベンチの下を覗いても何もない。 誰かに拾われちゃったのかな。 まだ途中だったのに。。。 そんなことより何読めばいいんだろ!? ボーっと座ってたら 怪しまれるよね。 教科書でも読む? ガリ勉な奴だと思われちゃうかな。 ランドセルを開けると 目に飛び込んでくるズボンとパンツ。 頭に浮かぶ おちんちん丸出しの男の子。 昨日のことが 走馬灯のようにフラッシュバックして 更にわたしを焦らせる。 どうしよう何しようと 頭を沸騰させていると 聞いたことある犬の声が 聞こえてきました。 視線を公園の出口に向けると あの男の子とワンちゃんが 公園に入ってくるところでした。 男の子はいつもの様に フリスビーを持ってきていて 下は昨日と違う短パンを 履いていました。 捕まってなかったんだ… ちょっと安心。 一瞬わたしと目が合うと 顔を赤らめたのが分かりました。 すぐに目をそらすと ワンちゃんをいつのも場所にお座りさせて その場で静止しました。 …自分から声かけるべきかな。 心臓はもうドキドキ。 きっと顔も真っ赤だったと思う。 ちょっとすると 男の子がフリスビーを持って こっちに向かってきました。 フリスビー投げる場所に 歩いてきてるのかな…と思ったけど そのままわたしのベンチに 向かってきました。 男の子はわたしの目の前で止まると フリスビーの裏に隠し持っていたものを 無言でわたしに突きつけてきました。 何かと思ったけど それはわたしの失くした小説でした。 「あ…」 わたしが声を漏らすと 男の子は真っ赤な顔をして わたしの方を細めた目で見つめながら 「き、昨日、落としてっただろ。  容疑者エックスのけんしん。」 おかしなイントネーションで 本のタイトルまで告げてくれました。 ちょっと間が空いて 「…あ、あ!  そ、そっか昨日ここに落としてっちゃったんだ。  道理でないはずだよねー。  わ、わざわざ拾ってくれたんだ。  あ、ありがと!」 動揺しながらそう言うと 男の子は鼻を指で掻きながら 無言でコクリとうなずくと ワンちゃんの方へ戻っていきました。 遠くなる背中を見つめながら このタイミングしかない!と思い 「あ、あの!」 と男の子を呼び止めました。 動きを止めちょっと停止したあと 男の子はためらいながらもわたしの方を向きました。 「これ…。」 男の子に近づきながら わたしは昨日のズボンとパンツを 彼に差し出しました。 目をおろおろさせながら 口をすぼめて ただ自分の衣類2着を見つめる 男の子。 わたしと一緒で 恥ずかしさマックスといった感じでした。 「あ、あの…  昨日は本当にごめんね!  その、なんていうか…  いきなりビックリなことが起きちゃったから…  気が動転して…  気づいたらその…走り出してたって言うか…」 なんとか分かってもらおうと 必死で説明するわたし。 …言い訳にも聞こえちゃうけどね。 男の子はズボンとパンツを受けとると そんなわたしを見つめながら 「オレのほうこそ…ゴメン。」 と続けました。 「…え?」 「いやだから、ヤなもん…見せちまったから。  その…あの馬鹿犬に免じて  許してくれ。すまん。」 そう言って赤らめた顔で 頭を掻きながら 謝ってきました。 悪いのは100%わたしの方なのにね。 なんか凄い申し訳なかったな。 …まぁ一番悪いのは ワンちゃんだけどね。 ワンちゃんに責任転嫁するほど わたし子供じゃないよ。 その後 わたしのほうこそゴメン。 いやオレのほうこそゴメンと ワケの分からない謝り合戦が 30秒くらい続いて 流石におかしくなってきて 2人して初めて 笑い合いました。 ちょっと沈黙。 …いろいろ聞きたいこととかもあったし ちょっとベンチで話さない?と わたしは自分らしくないほどの 積極的な姿勢で男の子を誘うと そうだな、と乗ってきてくれました。
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