曖昧サンドイッチ 12
(2012年1月31日 06:01)
次の日の夜。
滝本家、リビング、ご飯の時間。
福、愛、お母さんの3人。
………。
「ごちそうさま。」
何1つ会話もなく、そそくさと部屋に戻っていく愛。
……、重い沈黙。…と、
「舞には、上手く誤魔化しておいたから大丈夫よ。」
「え?」
「妹じゃないなんて言ったのは、
合宿で疲れてただけだって。一応ね。
まだそういうこと言うの、早いと思うし。」
「あぁ、…ありがとう、ごめん。」
「福ちゃんのせいじゃないわよ、ごめんね。」
「…………。」
誰が悪いのかと言われると、誰でもないとしか言えない。
こうなるべくして、こうなってしまったのだろう。
滝本家は、少し複雑な家庭事情を抱えていた。
遡ること約15年前。
父親と母親の間に、愛が生まれた。
3人家族、ごく一般的な幸せな家庭だった。
その約1年後、両親が離婚した。
愛もまだ小さかったから、鮮明には覚えていない。
大泣きしたのだけは、微かに覚えている。
結局親権は母親に委ねられ、母子2人の生活が始まった。
愛が3歳になりたての頃、母親が今の父親と再婚をした。
名字が、滝本になった。
初めは戸惑っていたが、お母さん子であった愛は、
お母さんがいればわたしはいい、と、
幼いながらに母親をなだめ、2人の結婚が決まった。
間もなく、福が生まれた。
初めての弟に、最初愛は、警戒心剥き出しだったものの、
すぐに慣れ、福を誰よりも可愛がる、
いいお姉ちゃんになった。
福が2歳の頃、母親が死んだ。事故死だった。
福は詳しくは覚えていないが、
愛と一緒に、大泣きしたことを微かに覚えている。
お母さん子だった愛にとっては、
大事件だったに違いない。
元々、継父にそれほど懐いていなかった愛は、
それ以来、あまり父に心を開かなくなっていった。
その1年後、父親が今の母親と結婚した。
愛は聞く耳を持たなかった。
そんな姉を尻目に福は、お父さんがいいならと承諾し、
2人の結婚が成立した。
新しい母親に、福は割とすぐに懐いたが、
元々継父との関係も良好ではなかった愛が、
継母といい関係を築けるはずもなく、
愛の心の拠り所は、福しかいなくなってしまった。
そして、舞が生まれた。
福は、初めての妹に、初めは警戒心剥き出しだったものの、
すぐに慣れ、舞を誰よりも可愛がった。
愛は、可愛がることなど、出来るはずがなかった。
あれから数年、今現在に至るまで、
家族間の関係は改善されないまま、平衡状態が続いてる。
部屋は、愛と福で1つ。母親と舞で1つ。
父親は現在、海外に出張中。
食事は、基本的にはリビングだが、
愛がいるときは、舞は部屋に籠っているし、
舞がいるときは、愛はいなくなるまで我慢する。
家族全員での団欒と言うものを、もう何年も見ていない。
「…はぁ。」
疲れ切った継母の顔。最近グッと老けた。
そりゃあ、そうだろう。
姉ちゃんの気持ちも十分に分かる。
実の父親と実の母親が自分の元からいなくなり、
血の繋がっていない親に育てられている違和感。
―「私の妹じゃないもんっ!!!」
厳密にはその通り、でも、家族は家族だ。
きっと、唯一血の繋がっている、福と言う存在が、
家の中での、たった1つのオアシスなのだろう。
舞に関しては、こんな複雑な経緯、ほとんど知らない。
ただ、お姉ちゃんであるはずの愛が、
自分に対して、何故か冷たく接してくることを、
幼心に察知して、無理に気を遣って合わせているのだろう。
でも、そんなの駄目だ。
小学校2年生の女の子が、空気を読むなんて、
そんな悲しいことはない。
好きなときに笑って、好きなときに泣いて、
好きなようにしていればいい。
ここは家なのだから。
家族にとって家は、何処であれ、
居心地のいい場所であるべきなのだ。
…でも、どうすればいいのだろう。
昨日のような安易な作戦では、上手くいくことはないらしい。
血の繋がらない姉妹に板挟みにされた、
2人の血を半分ずつ持つ自分。
解決策はまだ分からない。でも、
自分がどうにかしなければならない、それだけは分かる。
―タッタッタ……。
愛がいなくなったのを確認してか、
リビングに舞が、そ~っと現れる。
福と目が合うも、何を話せばよいのか分からず、
結局、不自然に目線を逸らしたまま、席に着く。
胸が痛い。
見ると、目が赤く腫れている。
相当、ショックだったのだろう。
こんな状況、これ以上長く続けていてはいけない。
…待ってろ、舞。
兄ちゃんが、なんとかするから。
心に誓い、味噌汁を口へ流し込む。
2011年2月1日 00:50
ショタすごい複雑ミ