雑草と太陽 14
(2012年7月19日 22:00)
ずっとノリを見てきた、僕の分析。
ノリの鹿島との違い。
もちろん、僕なんか比にならないくらいに速いんだけど、
鹿島と比べると、良い部分もあるんだけど、
劣る部分もやっぱりあって。
まずはスタート。
これに関してはノリは鹿島に勝っている、と思う。
最初の5Mくらいは、いつもノリが前にいるんだ。
勝利への執着の違いかな?出だしはホントに完璧なんだ。
次にスピード。
これは鹿島の勝ち、そりゃそうだよね。
最後はいつも、鹿島が勝つんだから。
細かい部分を見ていく。
まず腕の振り。
鹿島大きくまっすぐ振るのに対して、
ノリは若干小さく、思うが侭に振ってしまっている印象。
風の抵抗?良く分からないけど、
なんとなく鹿島のの方が、速く走れるような気がする。
次に歩幅。
身長の差もあるけど、鹿島の方が1歩がデカい。
直せるかは分からないけど、まだ余裕があるように見えたから、
改善の余地あり。
軸。
鹿島はラインの真ん中に沿って、まっすぐ綺麗に走るのに対して、
ノリはドタドタとライン内なら何処でもと言ったように、
不安定に走っているように見える。
目線は常に前だし、ゴールしか見ていないんだろうけど、
無我夢中に、とにかく前へと走り過ぎて、
自分の今いる位置の認識が飛んじゃってるんだと思う。
何処か1点を意識して見て走るだけでも、
ちょっとは良くなるんじゃないかな…、と思ってる。
…なんだか負けてるところばっかで嫌だけど、
でも、確実にノリが鹿島に勝っているところがあるんだよ。
それはね、足の回転の速さ。
もうね、鹿島が2歩進む間に、
ノリは3歩進んでるんじゃないかってくらいに速いんだ。
いやさすがにそれは言い過ぎだとは思うけど、
でも本当にそれくらい、残像が目で追えないくらいに、
次から次へと、後ろから前へ、足が出てくるんだ。
いつも思ってた。
こんなに速いのに、なんで負けちゃうんだろうって。
その理由を探っていたら、
やっぱりいろいろ粗が見えてきたわけだけど。
でも逆に、これだけの足を持っているんだもん。
いけないところを直していけば、勝てる見込みは十分にある。
絶対なんて言葉、僕には言う権利ないけど、
でもノリ次第で、絶対に勝てる気がしてる。
たくさんの期待と願望を込めて。
休憩も挟まずに、一気に話した僕の見解を、
真剣に、真面目に、時折眉間に皺を作りながらも、
約束どおり怒ったりせず、怖くしたりせずに、
最後まで聞いてくれたノリ。
話が終わることを確認すると、一言、
「ふむ。」
そして、
「良く、分からん。」
え。
「でも、」
ん。
「ユキの言うとおりにすれば、勝てるんだろ?」
…う、そう言い切れる自信は、絶対勝てると言う確証は、
さっきも言ったはずだけど、ない…、んだけど、
でも、僕が弱気になってどうする。
逃げないって決めたんだろ。そうだろ。だったら、
「きっと勝てる。」
僕が言えるギリギリの言葉を選んで、
自信たっぷりに、ノリにそれを授けた。
「よし。」
それを、力強く受け止めるノリ。
久々に見た、僕の大好きな、あのカッコいい眼差しで、
やっぱりドキドキ、してしまった。
「じゃあユキ、コーチ、頼んだぞ。」
「え。」
急な就任命令に、一瞬すくんでしまったけど、
大丈夫、もちろん、そのつもりだったさ。
「おう、任せろ!」
弱気な僕だけど、頑張って強気で答えてみた。
凄くドキドキしてたけど、
凄く晴れやかな顔をしていたはずだ。
その日から、1週間後の決戦の日に向けて、
ノリと僕の猛特訓が始まった。
期間は1週間しかないけど、やれることは全部やろう。
僕の提案に、ノリはもちろんと頷いてくれた。
放課後の練習に加え、土日も当然のように駆り出されたけど、
それが苦だなんて、思うはずなかった。
以下、1週間のトレーニングメニュー。
腕のフォームの克服のため、
鹿島に近い形、鹿島よりも良いと思う形を意識して、
毎日腕振り50回の3セットを、時間を開けて3回。
近所の中等部の陸上部員が、こんな練習をしてた気がしたんだ。
意味があるかは分からないけど、やって損はないはずだ。
真面目にやるとこれだけでも体に来るはずだけど、
ノリは弱音など一切吐かずにこなしてくれた。
歩幅の克服のため、
練習の最初に股割りのメニューを入れた。
もともとそこまで体が柔らかいわけじゃない。
けど、痛いはずのところまで来ても、ノリは絶対に痛いと言わず、
代わりに僕に、もっと押せと言った。
走るときのストロークも、少しずつ、
意識して大きくしていくように言った。
それだけでも全然違くて、みるみる走りが変わっていった。
軸の克服のため、
視線を一点に集中させて走るように心掛けようと言った。
ノリは「良く、分からん。」と言って、
その言葉どおり、あまり改善が見られなかったから、
ちょうど正面の先に立つ桜の木の枝に、白いハンカチを巻きつけて、
ここだけを見て走ってと言ったら、
面白いようにまっすぐに、体の軸もほとんどぶれなくなった。
前のノリがどんな走り方だったのか、正直思い出せない。
きっとそれだけ、いい走りになったってことだろう。
タイマーとか、時間を計るものを持っていないから、
どれくらい速くなっているのか、実際本当に速くなっているのかも、
本当は分からないけれど、
ずっと見てきた僕が、贔屓目なしに、凄く手ごたえを感じてる。
そこに自信を持ったって、誰にも怒られないはずだ。
当の本人は、何が変わったのか分からないようだったけど、
「全然違う、凄い凄い!」と、僕が賞賛すると、
「そーか。」と、気持ち満足そうに答えていた。
うん、本当に凄いよ、ノリ。
「これなら勝てるよ!」なんて、
なんだか軽く聞こえる気がするから言えないけど、
でも本当に、今は心の底から、そう思っているよ。
うん、…きっと。
2012年7月20日 03:29
ショタユキの分析凄い
何となくだがユキとノリの姿が想像できた気がする