小説

夏の大三角 10

『もっと男らしく』

ベガとアルタイルって なんであんなに離れてるんだろう…。 -ピンポーン…。 …それと比べると、デネブはベガと近いトコにいる… -ピンポーン…。 …その3つを線で結んで、夏の大三角。 …なんか、よく考えると、変な感じ。 -ピンポーン…。 …って、あ、そうだったそうだった。 -玄関に向かって小走りで駆けて行く千沙。 ドアを開けると、まるで目線を合わせようとしない 陸が立っていた。 「ありがと。」 「…おぅ。」 最小限の会話をだけを交わし そのままお風呂場の脱衣所へと陸を誘導する千沙。 陸にとっては、何の特別な意味も聞かされていない ただの千沙とのお風呂、と言うことになっている。 無論、千沙にとっては、いつかの日のための 早すぎる予行練習を兼ねている。 -カチャ。 脱衣所という密室で2人きりになる千沙と陸。 いつも通りの千沙に比べ 徐々に額に汗を光らせ、頬を染め始める陸。 女の子と2人でお風呂に入るなどと言う行為は 当たり前ではあるが、陸にとっては初めてだった。 「…で、…でど…」 「ん?」 「いや…、で、どうすればいいんだ…?」 「どうすればいいって、一緒にお風呂に入るんだよ。  そのために来てもらったんじゃん。」 「そ、そりゃ分かってるけど…。」 普通の女の子が男の子に対して頼む要求とは かなりかけ離れているが 陸相手だからこそ、千沙はあまり躊躇いもなく こんなにも恥ずかしい頼みごとをすることができている。 「それじゃ、時間もないし入っちゃおっか。」 お母さんがウォーキングに行っているこの約1時間が 千沙にとっての猶予期間。 なんで男の子とお風呂なんて入ってるの! なんて聞かれては とても面倒くさい。 千沙は軽めの口調でそう言うと 普段自分が入るときのように 靴下からササッと脱ぎ始める。 「なっ…ななっ……!!!」 突然の千沙の行為に流石にたじろぐ陸。 後ろを向いて視界から千沙を消す。 「…何?照れてんの?。」 「…ち、違う!!けど…!!」 「…エロ陸。」 「へ、変なこと言うなっ!!」 「大丈夫、わたしそんなに安い女じゃないから。  ちゃんとタオル巻くよ、ほら。」 その言葉にそっと陸は振り返ると そこにはすでに着替え終わり バスタオルで体を巻いた千沙が立っていた。 「…き、着替えるの早いな。」 「まぁね。  後ろなんか向かなきゃわたしの裸見れたのにね。」 「う、うるさい!!千沙の裸なんか  見たくねぇやぃ!!」 そう言う陸の顔は赤一色に染まり その台詞が嘘だと言うことがすぐにバレてしまう。 照れまくる陸に相変わらず笑みを浮かべる千沙。 「まぁいいや。わたし先入ってるから  陸も後から入ってきてね。  そこにかかってるタオル好きに使っていいから。」 「……わ、分かった。」 -ギィ…、バタン。 そう言ってお風呂場の中に入っていく千沙。 脱衣所に取り残される陸。 …ついにこの時が来た。 心拍数の一気に上がる陸。 濁りガラス越しに 湯船に浸かる千沙の姿がボンヤリと映る。 男らしく…男らしく…心の中で呟く陸。 恥じらいながらも身につけている衣服を脱いでいく。 靴下、Tシャツ、短パン… 短パンがいつもより重く感じたのは 緊張の余り、手に力が入りすぎたせいだろうか。 …無論それは気のせいで ポケットに入った最後の石が原因に過ぎない。 パンツ1枚になりタオル掛けから1枚それを取る。 覚悟は出来ていた。 もう作り慣れた二重の男前モードに顔を切り替え 陸は最後の1枚を脱ぎ捨てた。 -天窓から見える夜空は、今日も綺麗だった。 無数の星の中で、やはりあの三角が、一際輝いて見える。 ベガ…アルタイル…、デ…ネブ。 いつものようにそう呟いていると、お風呂場のドアが開く。 -ギィ。 やっと来た陸、遅かった-。 …!? 目の前に映し出された光景に、千沙は一瞬唖然とする。 まず、当然腰にタオルを巻いて来ると思っていた陸が そのタオルを肩から掛けている。 下半身は…何も身につけていない。 つまり、いつか見たちんちんを丸出しにしながら それをぷらぷらと大袈裟に揺らしながら入ってきたのだ。 揺れる陸の大事なちんちん。 真っ赤に染まる陸の男前な顔。 そして最後のサプライズは… 陸のちんちんに毛が生えていた。 …いや、近づいてきて分かった。 陸のちんちんの上に、マジックで毛が描かれていた。
ページトップへ