小説

夏の大三角 7

『男らしく』

-ピンポーン。 ベガ、アルタイル、…で、ネブ。 -ピンポーン、ピンポーン。 あれがあたしで、あれがぁ…和兄。 …であれが… -ピンポンピンポンピンポン…!!! んもう!!うるさいなぁ!! …ってそうか、お母さん今出掛けてるんだ。 重い腰を上げ玄関に向かう千沙。 誰ぇ?と頭の中でボヤきながら 開けたドアの向こうには いつものスタイルの陸が神妙な面持ちで立っていた。 「…よぉ。」 -「…石。」 陸は真剣な顔つきでそう告げる。 あぁ、いつもの石ね。 千沙はそういつものように解釈し 「どうぞ。」と一言呟いて、部屋に陸を通した。 部屋に入ると陸は 奇妙なほど無口のまま、スタスタと千沙の机に近づき 例のアルミ箱の中に ポケットから取り出した丸い石を投入する。 …何かおかしいな。千沙はそう思った。 そしてその疑問は、さほど考えることもなく 明らかになる。 陸の顔が、異常なくらいずっと真剣なんだ。 …もっと言えば、ずっと二重。 無理して作ってるんじゃないかと思ってしまうくらい キリッとした眼差しがキープされていた。 …そして無言。 いつもの「千沙ぁ!千沙ぁ!!」と 嫌味なくらいに年上の千沙を呼び捨てにする陸は 今ここにはいなく そう言えばと思って考えてみると 今日陸が発した言葉は「…よぉ。」と「…石。」 だけだと言う事に千沙は気がつく。 アルミの箱に入った石を 指さしながら無言で数える陸。 その顔を見て千沙は、最後の違和感、と言うか アンバランスさを発見する。 無言で、作られたような凛々しい表情なのに …顔色がまっかっかなのだ。 そのあまりにも不釣合いな要素の集まりに 千沙は、ははーんと頷く。 -ちょうど1週間前のこと。 ちょっとしたハプニングのおかげで 千沙は陸のちんちんを間近で見てしまった。 千沙の目の前で元気一杯に飛び出したそれは 小学校低学年でも全然通用するくらいの 小さくて可愛いものだった。 それから1週間ぶりの今日。 そうか、陸なりの照れ隠しなんだな。 千沙はそう合点する。 千沙にとっては、陸の可愛いちんちんが見れて 優越感に浸れたような、得したような出来事だったけど 陸にとっては とんでもないところを見られてしまったような 大事件だったのかもしれない。 …そう思うと、少し申し訳なくもなり 可愛いとこあるジャン、と 心の中で笑って見せたりもした。 「…じゃ。」 顔つき、顔色もそのままに 陸はやることはやったから帰る、との意味を込めて 千沙に顔を向けることもなくそう呟く。 そう言えば今日、千沙は陸と まだ1回も視線をぶつけていない。 入室時と同じ様に スタスタと部屋のドアに向かう陸。 「あ、待って!!」 その後ろ姿に、千沙は咄嗟に声をかけていた。 …別に特別する会話もないけど 前のこともあるし このまま帰すのもどうかと思ったのだ。 そう言えば、陸に頼みたいこともある。 千沙の呼び止めに、陸はドアノブを握る直前で静止する。 そしてその場で千沙に振り返る。 「…何だよ。」 その顔が強烈な赤に染まっていることに改めて気づき 千沙は思わず吹き出してしまいそうになる。 なんとか堪えたが、口から出た一言は 「あんた、顔真っ赤だよ。」 にやけながらの、その言葉だった。 千沙のその発言に 完全に動揺したようにたじろぐ陸。 あーあ、凛々しい顔が崩れていく。 口をすぼめて、どうしたらいいのか分からないような 森で迷子になったリスのような仕草。 …やっぱ、可愛いとこあるじゃん。千沙は思う。 「…ちょ、ちょっと顔ぶつけただけだっ!!」 頬に手を当てながら いつもの顔に戻る陸がそう千沙に向かって叫ぶ。 今日初めて、2人の目が合う。 「ふーん。」 意味ありげに、嬉しそうににやける千沙。 陸は、どうしていいか分からず、その場で立ち往生。 ただ、恥ずかしいと言う感情は 体中から滲み出てしまっている。 そんな陸の姿に 罪悪感が少なからず生じたのだろう。 千沙がこう続ける。 「この前は、ごめんね。」 千沙のそれに、少し驚いた表情になる陸。 すぐにそれも元に戻り 「…な、何が。」 きっと分かっていながらも、聞き返す陸。 「だから、この前見ちゃったじゃん。  陸の…」 流石の千沙も少し恥らいながらそう言う。 その先の単語も、流石に言うのは控えた。 でも、その視線は 確実に陸のそれに向けられていた。 あからさまな千沙の態度に 陸もきっと、1週間前のハプニングを 思い出してしまったのだろう。 小さな手を自分の股間に近づけ こそばゆいような仕草をしてみせる。 でもそこは男の子、ここで動揺を見せるわけにもいかない。 「…べ、別に謝らなくてもいい!!  あれは…事故、だから。」 恥ずかしさを堪えて、千沙には非がないことを あれを許すことを告げる陸。 そんなに気には留めていなかったものの 少なからず千沙は安心をする。 「そうだよね、事故だよね、あれは。」 「…そ、そうだ、事故だ。」 「そうそう、事故事故。」 …事故事故言いながら まだ目に焼きついている陸のちんちんと 今目の前にいる陸とを重ね合わせて 少しドキドキしている千沙もいた。 「…じゃ、じゃあな。」 流石にもう所在なさ過ぎるし 早く部屋を出たいといった様子で そう千沙に告げる陸。 その顔が、最初の二重作り顔に戻っていたことに 再び吹き出しそうになってしまいながらも 千沙は再び、そんな陸を呼び止める。 「あ!ちょっと!!!」 二度目の引き止めに、戸惑いながらも まだ収まらない動揺の色を千沙に振り向ける陸。 そんな陸に千沙は 陸にとっては耳を疑いたくなるような要求を サラッと言ってのけた。 「今度、わたしと一緒に、お風呂入って。」 少し照れながらも、笑顔の千沙。 汗を噴き出す陸。 窓に映るは、綺麗な星のトライアングル…。
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