曖昧サンドイッチ 2
「ふぅ。」
今日の稽古はなかなかハードだった。
ドッと疲れが溜まった体を、お風呂で癒す。
…と、
―ガララッ。
!?
「ちょっ。」
突然のことに驚く福。
思わず浴槽内で体を滑らせ、壁に頭をぶつける。
「な、何してんだよっ!」
「いいじゃん、久しぶりに。」
反射的に、湯船の中で大事な部分を隠す福。
愛が、断りもなく、浴室の中に入ってきたのだ。
ただ、別に覗きに来たわけではなく、久々に一緒に入ろう、
そう言うことのようだ。
その証拠に、愛も素っ裸だ。
「か、隠せよっ!!」
「なんで?いいジャン別に、姉弟なんだから。」
恥ずかしがる様子もなく、裸体を弟の前で晒す愛。
「どう?なかなかナイスバディ―でしょ?」
その場で得意げにポージング。
「ば、バーカッ!」
目のやり場に困り、壁に視線を逃がす。
久々に見た、すっかり大人な姉の裸に、少し動揺する福。
でも、さすがにそこは姉。
ドキドキ興奮してヤバい、と言うことではないようだ。
そのまま洗い場で、いつものように体を洗い始める愛。
目線は壁に固定の福。
「どう?空手は楽しい?」
体を洗いながら、愛が聞いてくる。
「え?…あぁ、まぁ。」
「そっか、もう結構長いよね。4年?」
「5年。」
「もう5年か。こんな続くとは思ってなかったな。
正直。」
「…姉ちゃんこそ、ソフトボールすぐ辞めると思ってた。」
「ふん、可愛くない奴。」
嬉しそうな姉と、そっけない弟の、他愛もない会話。
体を洗い終え、浴槽に入る愛。
福と向かい合うように、ゆっくりと腰を下ろす。
「はぁ~…。」
極楽極楽…、と言う、心の声が聞こえる。
警戒心なんて一切ない、隠そうとする素振りもまるでない。
福に、上へも下も、すっかりオープンに公開している。
姉が堂々としているのに、弟が恥ずかしがっているなんて、
そんなカッコ悪いことはない。
少し躊躇いながらも、仕方なくといった様子で、
ゆっくりと福が、下半身から手を離す。
その動作を、愛が見逃すはずもなく、
すかさず、弟の下を、チラッと一瞥。
「ふふ。」
意味深な笑い。
「…な、なんだよ。」
気になり、問う。
「アンタ、まだ生えてないんだ。」
!?
まさかの回答に、一気に頭に血が上る。
「…う、うるっさいなぁ!」
気にしていたことを指摘され、照れる福。
体を無理矢理よじらせて、愛の視界からそれを消す。
気にしていたこと、と言うよりも、
気になっていたことだ。
いつ頃生えるものなのか、生えるべきものなのか、
福には全くの未知のことだった。
「でもやっぱり、体出来てきてるね。」
懲りることもなく、福の体を観察する愛。
「…そ、そりゃあ毎日、筋トレしてるもん。」
そこは自信があるとばかりに、しっかりアピールをする福。
今日も、たくさんの人に褒められてきたところだ。
「腹筋触らせてよ。」
「えー。」
「いいジャン別に、ほら、グッてして。」
「…はぁ。」
またかよ、と内心思いつつも、
正直、褒められることが分かっている手前、悪い気はしない。
腹に力をグッと入れ、顎を上げ、いつでも来いのポーズ。
どれどれ…。
「…かったーい!!」
「……。」
鋼のように鍛えられた弟の腹筋に、素直に感動する愛。
目を瞑りながらも、少し口元を緩ませる福。
「でもこっちは~?」
何をするのかと思うと、おもむろに、その下に揺れる"福の福"を、
右手でガシッと鷲掴みにする。
「!?」
愛の手を思いっきり振り払う福。
「な、なにすんだよっ!!」
「ま、柔らかいよね~。」
嬉しそうに、感触を思い出すように、
無邪気に、右手を開いて閉じてする。
「…………。」
怒ったって、姉弟だしで済まされるくらい分かっている。
あえてそれ以上、何も言わない。
「アンタ、髪の毛まだ洗ってないの?」
福の乾いた髪に、愛が気づく。
「…え?うん、…まだ。」
「体は?」
「…え、いや、…、さっき、洗った。」
「…、絶対嘘だね~、洗ってないでしょ。」
「べ、別にいいじゃん。」
「だーめ!汗いっぱいかいて汚いんだから。
ちゃんと教えたでしょ、お風呂入る前に体洗いなさいって。
その調子だと、普段から洗ってないでしょ~。
もう。」
「…………。」
姉からのマシンガン駄目だしと図星に、反論出来ない福。
「…今から洗おうと思ってたんだよ!
うるせぇなぁいちいち!!」
ザバーーンと豪快に立ち上がり、洗い場に出る。
「まったく。」
呆れた様子の愛。…と、
「そうだ、お姉ちゃんが洗ってあげる。」
続くように愛も、浴槽から出る。
「い、いいよ!」
「なーに恥ずかしがってんの。別にいいでしょ。」
姉弟なんだから。それに、
「今まで体洗ってなかった罰!」
何も言い返せない福。
ゆっくりと腰を下ろし、背面を姉に託す。
―ゴシゴシゴシ。
愛に頭を洗ってもらう。
小6にもなって、姉に頭を洗ってもらう男。
こんな恥ずかしい姿、誰かに見られたら一溜まりもない。
誰かに見られているなんて、あるはずはないけれど、
ついつい左右を、チラチラと確認してしまう。
―ゴシゴシゴシ。
続いて、背中。
「大きくなったね~。」
しみじみ、弟の背中を目の前にして一言。
「いつだっけ、私の身長追い越したの。」
「…小5、…の、秋、頃。」
「そうだっけか。
結構クラスでも大きい方なんじゃないの?」
「2番目…、かな。」
「へぇ、福より大きい子いるんだ。」
「あだ名、巨人。」
「え~、可哀そう。」
何処からどう見ても、微笑まし過ぎる、姉弟の光景。
「…姉ちゃん。」
「ん?」
今度は福から、何か質問をする様子。
「いつ…生えた?」
恥ずかしそうに、小さな声で、後ろの姉に聞く。
ふっ。
思わずにやける愛。
「ん?何が?」
意地悪にも、聞き返す。
「だ、だから…、
…アソコ…、の、毛。」
躊躇いながらも、ボソボソと聞いてくる福に、
やっぱり可愛いな、なんて、思ってしまう。
「気にしてたんだ。」
「…い、いつだよっ。」
背中からでも、福の照れた顔が想像できる。
「私は、小6の4月とかだったかなぁ~、確か。」
「小6の…、4月…。」
自分にとってそれは、もう過去である時期。
人知れず、落胆する福。
「あ、でも、女の子は男の子より成長早いって言うし。
気にすることないんじゃない?」
「…………。」
そんなこと言ったって、気にしてしまう。
「ってか、クラスの友達とかと、そう言う話しないわけ?」
「…全然、しない。」
「修学旅行…、はまだか。
林間学校のお風呂とかで、見せ合ったりとかは?」
「そんなんするわけない。
みんな隠してるし、俺も隠してる。」
「え~なんで~?
女の子は、だ~れも隠したりしないのに。」
「えっ、マジで…。」
「変なの。
別にブラブラさせとけばいいのにね。
せっかく福、いいもの持ってるのに。」
「恥ずかしいこと言うなっ。」
思わず自分のをいじる福。
「…あ、でも私、
見れば大体いつごろ生えてくるかって、分かるんだよね。」
「嘘付け。」
「ホントだよ~。」
「…………。」
70%疑いながらも、30%気になる福。
「ほら、お姉ちゃんに見せてみなさい。」
「…ホントだろうな。」
「ホントだって、お姉ちゃんを信じなさいっ。」
「…………。」
少し迷いながらも、気になる気持ちには勝てずに、
ゆっくりと体を、愛の方へと向ける。
…近い。
反射的に、アソコを隠してしまう福。
「見せなさいっ。」
照れる福などお構いなしに、
両手で両膝を掴み、グイッと開脚させる愛。
―ポロロンッ。
勢い良く、福のものが飛び出す。
足の角度、約135度。
全部丸出し、大サービス。
まだ大人ではないけれど、なかなか立派な代物だ。
じ~っ……。
愛からの猛烈な視線。
見たところ、まだまだ生えてくることはなさそう。
いくら姉弟とはいえ、さすがにこれは恥ずかしい。
股間がチクチク、とてもこそばゆい。
じ~っ………。
でも、知るために、姉の答えを聞くために、
目を瞑って我慢する。
……、…と、
「ふふっ。」
愛から漏れる、笑い声。
「ど、どうなんだよ。」
きっと、答えが出たんだ。
ドキドキする気持ちを抑え、意を決して、訊く。
「…いや、おっきくなったなぁ~って。」
!?
予想外の回答に、拍子抜けする。
同時に、全てを見られていた事実に、急に恥ずかしくなる。
「ば、ばかやろーーー!!!」
もう、ぶっきらぼうに罵倒することしか出来ず、そう叫び、
ザバーーンと豪快に掛け湯し、浴室から出ていく福。
「ちょっと~。
まだ答え言ってないよ~?」
「もういいっ!どうせ嘘だしっ!!」
「ふふっ。」
「…っ!!!」
姉ちゃんのバカ、バカ野郎。
…いや、バカみたいに訊いた俺もバカだった。
素直に見せた俺もバカ過ぎた。
バカバカバカ、バカばっかりだ。
タオルを取り、がむしゃらに頭を拭く。
ふふっ。
そんな姿を、嬉しそうに浴室から眺める姉。
大きくなったなぁ~。
体を拭く弟を見ながら、改めて、そう思った。
「ソコもちゃんと拭いた?」
「拭いたっ!」