曖昧サンドイッチ 7
「ホントにー?」
「どーなんだ?福。」
「こーたーえーなーさいっ!!」
久音ヶ丘北小学校。
6年3組、給食の時間。
「ち、ちげーよっ。
あれは、勝手に、姉ちゃんが入ってきただけで、…
別に、一緒に入ってるってわけじゃ…。」
「えーーーー!!!
やっぱ入ってんじゃねーかーーーー!!!」
「えー、信じらんなーい…。」
「すっげーーー!!」
みんなの視線を独り占めにするのは、3班の福。
何処からともなく、滝本家のお風呂事情が、
3組の誰かの耳に届き、それが広まってしまったらしい。
「やっぱ、姉ちゃんの裸とかも、
見れちゃったりしちゃったりするわけ?」
「あ、あれはっ、
姉ちゃんが隠そうとしないから…、
…あっ。」
「うっは!!やっぱ見てんだ!!」
「やだ~~~~っ!!」
「ち、ちがっ…!!」
大勢に注目されることが、あまり得意ではない。
とても居心地が悪そうである。
「福の姉ちゃんって、結構美人だよな?」
「確かに。やっぱ、
姉ちゃんの裸でも、興奮したりするわけ?」
「しねーよっ!!!」
「もうっ!!」
「男子エローーーイッ!!」
からかわれ放題の福。
「はいはーーい!!
俺もう1つ情報持ってまーす!!!」
「……?」
「なになに?」
「えっと、なんと、
小2の妹とも、お風呂入ってるらしいでーす!!!」
「っ!?」
「えーーーーーー!!!!」
「うっそーーーー!!!」
「ロリッ!?」
「ちっげーよっ!!!
あれも、妹が勝手に…!!…あっ。」
「やっぱ入ってんだ!!」
「すっげーーー!!!」
「…………(唖然の女子)。」
次々と暴露される噂を、不本意にも全て肯定してしまう福。
「さらに、それだけじゃありませーん。」
「なんだよっ、も、もういいだろっ!!」
「なになになになに。」
「もったいぶんなって。」
「はよ。」
「なんと福、妹の目の前で、
ちんこぶらぶらさせて、
見せびらかしてるらしいでーーす!!!」
「!?」
「えぇーーーーーーー!!!!!」
「あっははははははは!!!!!!」
「エッローーーーーーー!!!!」
「やぁだぁーーーーーー!!!!」
「違うっ!!あ、あれはっ!!!
妹が、やってって言うから…!、やってる、…だけ、で…、
…あっ。」
「やっぱやってんじゃねーか!!」
「マジなんかーいっ!!!」
「やるな~福!」
「うっそ~……(唖然の女子)。」
上手く誤魔化すのが苦手な福。
もの凄く、顔が熱い。もう、何も言えない。
「まぁ、福、妹思いだもんな。
妹に頼まれちゃったら、揺らしてやるしかないよな。」
「…うるっせー。」
何のフォローにもならない。
恥ずかしいことに、何も変わりはない。
「ちなみに、福の妹曰く、
福のはなかなかおっきくて立派とのこと。」
「やぁーだぁー!!!」
「あっはは!まぁ確かに、
けっこうモッコリしてるもんな、福。」
「やーめろっ!!!」
「あ。あと、
ちんこ揺らすときのセリフは、
『ち~んち~んぶ~らぶ~らソーセージ~。』
だそうです、以上っ!!」
「っ!?」
「あっはははは!!!」
「もーーーーーう!!!!」
「最後に爆弾キターーーーー!!!」
「ソーwwwセーwwwジwww」
「…………っ!!」
反論しようにも、驚くくらいに、全てが事実。
最悪だ。
こんなに恥ずかしいことはない。
「まぁまぁいーじゃねーか。」
慰めているのか、からかっているのか、
福の肩や頭をポンポンと叩いて喜ぶ男子。
信じらんなーい…、あの滝本君が…。
意外過ぎる衝撃の事実に、ただただ唖然呆然の女子。
しかも、ちんちんぶらぶらソーセージ…。
妹のためにそれを披露する福の姿を勝手に想像して、
人知れず頬を染める子も、数名、いや、多数、いた。
なんでこんな恥ずかしい情報が、出回っているのか。
しかも、こんなにも詳しく、こんなにも正確に。
その疑問の答えとして、思い当たる節が、福にはあった。
思い当たるというか、それしか考えられないと言う、
それなりの確信もある。
あまり周りに見られたくない、
真っ赤に染まってしまった顔を少しだけ上げ、
ある場所へと視線を向ける。
その先にいたのは、浦川さん。もとい、今回の犯人。
決めつけは良くないが、でも、それしか考えられない。
その証拠に、福が視線をぶつけた途端に、
目をキョロキョロと泳がせた挙句、
プイッと、明後日の方向を向いてしまった。
はぁ。なんてことしてくれたんだ。
別に恨んだりはしないけど、やっぱり、恥ずかしい。
でも、あの浦川が、…か。
どういう言葉で、誰にあんなことを伝えたのか、
少しだけ、気になったりもした。
「なぁなぁ福、ソーセージやってよ!」
「はぁ!?」
少しもしない内に、無理難題が飛んでくる。
「いーねいーね!!やってやって!!」
「無理に決まってるだろっ!!」
「いや出さなくていいからさ。
エアーで、なっ。いいじゃんいいじゃん。」
「なんでだよっ…!」
「なぁ、女子を見たいよなっ!?」
「もーーーーう!!!」
「やだぁーーーー!!!!」
「もうっ!!!」
しかし、否定する者はいない。
「ほれっ、早く早くっ!!」
「…っ!」
「ソーセージ!ソーセージ!!」
「ソーセージ!ソーセージ!!」
「ソーセージ!ソーセージ!!」
いつの間にか、男子全員でのソーセージコール。
もーう、やだぁ、の二点張りの女子。
とか言いつつ、福の決断に、みんな興味津々の様子。
空気が読める福、周りの期待を緊々と感じる。
なんでこんなことに…、でも、この状況。
……っ!!!
―ギギギッ…!!!
その場で勢いよく立ち上がる福。
「えー!!逃げんのかよー!?」
ちげーよ。腰に手を当てて…、
「ちんちんぶらぶらソーセージっ!!」
少し速めの言い回しと、少し速めの腰の回転。
でもそれは紛れもなく、
"ちんちんぶらぶらソーセージ"だった。
「あっはははははは!!!」
「さっすがーーーーー!!!!」
「福サイコーーーーーー!!!!!」
「いやーーーーだーーーー!!!」
「もーーーーう!!!」
最高潮に盛り上がる教室。
校内放送が、完全にかき消されている。
予想通りのみんなの反応に、羞恥度はもうマックス。
紅潮しきった顔を伏せながら、
そそくさと教室を出ていく。
「何処行くんだー?」
「トイレだよっ!!」
「あっ。俺も行くっ!!」
「俺も俺も。」
「じゃあ俺もっ!!!」
ぞろぞろと、福についていく男子。
あの福の、恥ずかし過ぎる勇敢な行動に、
顔を真っ赤にして照れる女子。
「あ~、あっついあっつい。」
「もうやだぁ~…。」
なんだかんだ、
福の女子人気が急上昇した事件だった。