小説

曖昧サンドイッチ 3

「えーーーーーー!!!」 「マジかよっ!!!」 久音ヶ崎中学校3年3組。給食の時間。 教室内は何故か、異様な盛り上がりを見せている。 「なんで?別に普通でしょ。」 「普通じゃないよっ。」 「俺ならぜってーあり得んわ。」 「俺も俺も。」 騒ぎの中心にいるのは、3班の愛。 「だって、姉弟だよ?  一緒に入ったって全然おかしくないじゃん。」 「いやいやおかしいよ。」 「さすがにその年で、弟とお風呂は、  信じられない。」 「うんうん。」 「…ってかマジ?…マジで!?」 「マジだって。」 どうやら、どう言う会話の流れか、 福と一緒にお風呂に入った話を、友達にしたらしい。 「でも、さすがに体は隠して、でしょ?」 「あたりめーだろ。」 「え?別に、何も隠してないけど。」 「えっ。」 クラスのみんなが一斉に驚く。 「嘘…、ま、丸出し?」 「うん。」 「弟の前…、なのに?」 「もちろん。」 「マジ…、かよ…。」 「…っあー!!  今浦川、愛の裸想像したでしょ~!!」 「し、してねーしっ!!」 「うわぁ~、…最低。」 「うっは!浦川エッロ!!」 「本日のエロ川いただきましたーーー!!!」 「だからっ!してねぇって!!」 「エーロ川!エーロ川!!」 安定のエロ川コール。 「そ、そんなこと言ったら、滝本なんて、  弟のちんこ見てるわけだろっ!?」 「うん、見てるよ。」 「…っ。」 潔すぎる即答に、一瞬萎縮する。 「…じゃ、じゃあ、  俺なんかより数倍エロいじゃねーか!!  ほらっ!!  エーロ本!エーロ本!!エーロ本!!!」 浦川の煽りも虚しく、 「エーロ本、エーロ…、本…、……ェ…」 誰1人の賛同者も得られず、静かにデクレッシェンド。 …休符。 「でも、弟小6でしょ?  よく一緒に入ってくれるよね。」 「うんうん、恥ずかしくないのかな。」 「別に、だって姉弟だよ?  恥ずかしがる方が、おかしいよ。」 実際福は、少し恥ずかしがっているように見えたけど、 そこはあえて伏せて、盛っておいた。 「そうだ。  浦川だって、小6の妹いるって言ってたじゃん。  一緒に入ったりしないの?」 「し、しねーよ!  するわけないだろ、あり得ん、あり得んあり得ん。  ないないないない。」 大げさなジェスチャー付きで、ないないないない。 「いや、浦川とは入らんだろ、さすがに。」 「あぁ!?」 「確かに。」 「うんうん。」 「絶対無理。」 「あり得ないね。」 「…………。」 浦川、悲しみフルボッコ。 「…んま、実際は小6なんて、まだガキだしな。  見られても大して恥ずかしくないって考えも、  分からなくはねぇかな。」 急に無理をして、今度は愛側に付こうとする浦川。 …と、 「でも、うちの弟の、  浦川のよりは大きかったよ。」 そんなことを、悪戯な笑顔で言い放つ愛。 一瞬、固まる教室。 なんでそんなことが言えるのか。それは、 先日のプールの授業で、浦川が、 水中で海パンが脱げたことに気が付かずに、 悠々とプールサイドに浮上し、 クラス全員の前でご開チンしてしまったという、 何とも情けない珍事件があったのだ。 クスクスクス…。 あれは…(笑) やだぁもう…。 例のアレか、そりゃそうだよな、と、 思い出し、吹き出し、恥じらい、やっぱり吹き出し、 思い思いに、静かにザワザワするクラスメイトたち。 浦川は、ただ1人、孤立無援、四面楚歌、顔面真赤。 「………っ!!  ああーーーもうっ!!!」 おもむろに立ち上がる浦川。 「余ったプリン、俺がもらうからなっ!!!」 そう吐き捨て、給食台のある廊下へ駆けていく。 「あーーー!!!ずりぃぞチン川っ!!!」 「じゃんけんだぞっ!!!」 「おいっ、粗チン川待てっ!!!!」 「うるっせーーー!!!!!」 プリン目当ての男子が、続々と浦川に続いていく。 給食のプリンは、いつの時代も貴重だ。 「まーた始まった。」 「男子はこれだから…。」 残った女子が、やれやれと見下す。 「でもさ、」 男子がいないのをいいことに、 「あれはやっぱりちっちゃかったよね。」 あの珍事件をぶり返す。 「まぁ、生えてただけましじゃない?」 「やだぁ。」 「さすが愛、敵わないわ。」 くすくすくすと、笑いが漏れる。
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