曖昧サンドイッチ 4
―ワイワイワイ…。
―ガヤガヤガヤ…。
久音ヶ丘北小学校、2年3組の教室。
只今、2時間目のプールの授業を終えた後の休み時間。
「男子~、早く着替えないと、
先生来ちゃうよ~!!」
小学校低学年の生徒たちは、プールの着替えを、
教室に戻ってきてからすることになっている。
次の授業が始まるまで、あと5分ほど。
なのに、まだ海水パンツ姿の男の子が数名残っている。
「なぁなぁ浦川。またあれやってよ。」
「はは、いいぜぇ別に。」
女子の忠告などには全く聞く耳を持たずに、
ひそひそと何やら企てる、スカートタオルの上裸集団。
…と、
「…いくぜ?
いっせーの!!」
―ストーーーーン…!!
全く躊躇う様子もなく、腰巻いたスカートタオルを、
勢い良く下に落とす1人の男の子。もとい、浦川くん。
下の海水パンツは、もう脱ぎ終わっている。
しかし、まだパンツは履き終えていない。故に、
当然のごとく、男の子の象徴が元気良く飛び出す。
「きゃーーーーーーー!!!!」
「もーーーーーーう!!!!」
女の子たちの甲高い声が、教室内を包む。
「へへーーん。」
得意気に、自分のものをプルプルと揺らし、
そのまま、女子たちの輪の中へ突っ込んでいく浦川くん。
「きゃーーーーーー!!!!」
「さいてーーーーーー!!!!」
「浦川くんパンツ履いてよーーー!!!!」
追いかけてくるすっぽんぽんの男の子に、
面白いように、一塊になって逃げ惑う女の子。
背を向け、顔を手で覆い、"私見てない"のアクション。
実際は、滅多に見ることのできない、
自分たちには付いていないそれを、
定期的に、チラチラと、確認しているようだ。
「きゃーーーーーーー!!!!」
「やだぁーーーーーーー!!!!」
飽きることもなく、嫌がる演技で、
浦川くんから逃げる女子達。
「あっはははははは!!!!」
「浦川ばっかでぇーーー!!!」
対照的に、教室内のお祭り騒ぎに、
ただただ大喜びの男子達。
そんな男子の輪に混じる、女の子が1人。
「あっははははは!!!」
可愛らしい無邪気な笑顔で、
素っ裸で奔走する浦川くんを、指差し笑っている。
滝本家次女、滝本舞。
滝本家末っ子の女の子だ。
「何やってんの舞ちゃんっ!!
一緒に逃げようよぉ!!」
「なんで~?
あっはははは!!おちんちん揺れてる~!!!」
「もーうっ!!」
「こらー!!何騒いでるのっ!?」
教室のドアがガララッと開き、先生が登場。
―キーンコーンカーンコーン…。
一瞬静止する教室に、チャイムの音が響く。
「…!!!…コッ、
コラッ!!浦川くんっ!!!」
騒ぎの元凶であるであろう、すっぽんぽんの浦川くんを、
すぐさま見つけ、指摘する。
「やっべ!!」
浦川くんのそれを合図に、
ドタバタと自分の席に戻り始める子供たち。
「へい浦川っ!!パンツッ!!」
「サンキュー!!」
巧みなチームワークで、ものの20秒足らず、
全員服を着て、席に着く状態が完成する。
―くすくすくす…。
―もうありえなーい…。
―くくく…。
形は整えど、コソコソ話はなかなか消えない。
「全くもう…。」
なんだか顔が赤い。
どうやら、一番動揺しているのは、
この新米の先生のようだ。
「…ぷぷぷっ。」
可笑しくてたまらない。
笑いが漏れる教室内で、
舞の笑顔が、一際、はじけて見えた。