曖昧サンドイッチ 5
「ふぅ。」
滝本家、風呂場。
肩まで浸かり、一日の疲れをゆっくりと落とす福。
体は、入浴する前に洗い終えた。
愛に忠告されたあの日以来、とりあえずは今日まで、
その約束を守り続けている。
…と、
今日は火曜日。と言うと、
愛の所属するソフトボール部の、
週に一度の強化練習日。
この日に限り、愛の帰りは、夜9時近くなってしまう。
今この瞬間も、汗水垂らして、絶賛練習中だろう。
ご苦労なこって。
割と他人事のように、軽く敬意を示す。
「…と、」
と言うことは、
―ガラガラガラッッ。
―タッタッタッ…。
―ザブゥーーーーンッ!!!
目にも止まらぬ速さで、何かが浴室に侵入。
息つく暇もなく、目の前に上がる水しぶき。
…………。
ゆっくりと目を開けると、満面の笑みの女の子が1人。
舞だ。
「こーら。
ゆっくり入れって、いつも言ってるだろ。」
「いひひ、ごめんなさーい。」
きっと反省はしていない、ただただ嬉しそうな舞。
週に1度、火曜日、福の入浴中に、
いつも無断で、お風呂に入ってくる舞。
福はそれに関しては、何も注意しないし、
実際、別に、絶対に嫌と言うわけでもないから、
いつも、黙認してやっている。…と、
「こら舞、まだ体洗ってないだろ。」
「へ?後で洗うんだよ。」
「だーめ。
お湯に浸かる前に体は洗わなくちゃいけないんだ。
いっぱい汗かいて、汚れてるんだから。」
「へぇ~、そうだったんだ!」
「そうだ。」
この前、愛に指摘されたばかりのそれを、
今度は舞に伝授する福。
「でも、いつも福兄ちゃんも、
舞が入ってきた後に体洗ってないっけ?」
あれれ?少し疑問に思う舞。
…う。
痛いところを突かれた。
それじゃあ、辻褄が合わない。…、
「に、兄ちゃんは、
入る前に1回体を洗って、その後に念のためもう1回、
体を洗ってるんだ。」
「へ~!!すごーい!!
さすが福兄ちゃんっ!!!」
「まぁな。」
無理矢理のこじ付けで、お兄ちゃんぶる福。
しかし、少し面倒なことになった。
これから火曜日は、
2回体を洗わなくてはいけなくなってしまった。
「なんで今まで教えてくれなかったの~?」
またまた痛いところを。
「ん?あ、あぁ。
いや、別に、ちょっと忘れてただけだ。
…と、とにかくっ。
今後はちゃんと、入る前に洗うようにな。」
「はーーーーーい!!!」
両手を上げて、素直に了解する舞。
ふぅ、なんとか誤魔化せた。…と、
「ほら、兄ちゃんが洗ってやるから、
1回上がれ。」
「ホントッ!?」
「ほんと。」
「わーーーーい!!!!」
2人で仲良く、洗い場に出る。
―ゴシゴシゴシ…。
「髪伸びたな。」
「うん、でもそろそろ切るよ。」
「その方がいいな。」
兄に頭を洗ってもらい、至極幸せそうな妹。
「福兄ちゃん福兄ちゃん。」
「ん?」
目を閉じながら、背後の福に訊く。
「福兄ちゃんてさ、おちんちんおっきいよね!」
「!?」
妹の突然の感想に、一瞬狼狽してしまう。
「な、なーに変なこと言ってんだよ。」
冷静を装いながらも、片手で少し、自分のをいじる福。
「今日クラスの男の子の見たんだけどね。
やっぱり福兄ちゃんの方が全然おっきかった!!」
まるで自分が勝ったかのように、嬉しそうに喋る舞。
「そ、そりゃあ、兄ちゃんだからな。」
「うん!!」
恥ずかしい感想に、恥ずかしい答えで返す。
続いて背中、足と、洗っていく。
「って言うか、舞。
女の子は、"おちんちん"なんて言う言葉、
言っちゃいけないんだぞ。」
「え?なんで?」
泡まみれの頭で、目を瞑ったまま振り向く舞。
「なんでって…、」
そりゃあ…、
「女の子らしくないからだ。」
「へ~、そうなんだ。」
「そうだ。」
そりゃそうだ。
「じゃあ、なんて言えばいいの?」
「え?」
それは…、
「言わなきゃいいだけだ。
"ちんちん"なんて、言う必要なんてないだろ。」
そうだそうだ。
「…そっか!」
「そうだ。」
頭を頷かせながら、兄の忠告を頭に刻み込む舞。
「…でも、
いつ見たんだ?友達のなんて。」
「今日のプールの授業の後の、着替えの時間にね!
みんなに見せびらかしてる子がいて、
で、見た!!」
「うげぇ、そんな奴がいるのか。」
「浦川くん!!」
「へぇ、…浦川。
…浦川の弟…、かな。」
「あ、お姉ちゃんとお兄ちゃんいるって言ってたよ!」
「そっか。」
にしても、クラス全員の前でフルチンとは、
…考えられん。
勝手に想像して、1人赤面する福。
「かっこいいなぁ~、福兄ちゃん。
おっきいなぁ~、、福兄ちゃんのおちん…、あっ!」
「はいはい。」
自分のものを絶賛され、さすがに照れ始める福。
照れ隠しも込めて、洗面器でお湯をすくう。
そんなに見られてたのか…、まぁ、
そりゃそうだよな。
「ほら、流すぞ。」
「はーい!」
指で両耳に栓をし、目を大きく瞑る舞。
泡まみれの妹の体に、優しくお湯をかけていく福。
「ぷはぁっ!!」
幸せ満開の笑顔で、目を開ける舞。
「よし、OK。」
「じゃあ今度は、舞は福兄ちゃん洗う番!!」
「え?」
あ、あぁ、…そうか。そうだったな。
「おう、頼む。」
「はーい!!」
何も疑うことなく、福の大きな体をゴシゴシ洗い始める。
…まぁ、仕方ない。
「ねぇねぇ、ソーセージやってっ!!」
洗い終わり、また一段と綺麗になった福に、
1つ、お願いをする舞。
「えー。」
「ソーセージ!ソーセージ!!」
無邪気に懇願する妹。
「…ったく。」
ゆっくり立ち上がり、一肌脱ぐ兄。
「ち~んち~んぶ~らぶ~ら
ソーセージ~。」
両手を添えた腰を、思うままに動かし、
舞の目の前で、自分のそれをブランブラン揺らしてやる福。
「あっははははは!!!」
指を差して、大喜びする舞。
「ち~んち~んぶ~らぶ~ら
ソーセージ~。」
いくら妹とはいえ、さすがに頬を赤らめる福。
でも、妹のために、頑張る。
「ほら、もういいだろ。
もう1回肩まで浸かって、100数えて出るぞ。」
「はーーーーい!!!」
福兄ちゃんの言うことは絶対。
素直に従う舞。
「いくぞ。」
「うんっ。」
「イーチ、ニーイ、サーン……、」
幸せいっぱいに見える、兄妹の風景。
舞の笑顔は、決して絶えることはない。