小説

テイク7 scene17

「あ″ーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 監督のカットの声を同時に聞こえてきたのは 大きな大きな叫び声だった。 野性的で、本能のままに、体中で発しているような声。 誰のなんて、野暮な質問だよ。 全ての演技を終えた、大志の雄たけびだ。 ―パチパチパチパチパチパチ… 気がつくと、スタジオは大きな拍手に包まれていた。 何に対する拍手なのかは、正確には分からない。 ただ、終わったんだ、…全てが、終わったんだ…。 その事実を、誰よりも実感することが出来た瞬間だった。 …いや、誰よりも、なんて言ったら語弊があるよね。 一番そう思っているのは、わたしじゃない。 …今日の、…主役。 その主役に会いに、わたしは少し躊躇いながらも 全てが遂行された浴室、のセットへと ゆっくりと舞い戻る。 いつの間にかその浴室は、スタジオにいた人全員で 集まるようにして囲まれていた。 「あっはっはっはっは!」 凄く満足そうにゲラゲラと笑う監督。 「…んふ。あらららら。」 少し頬を染めながらも、目線はしっかりと 大志のそれを捉えつつ、優雅に笑う渡辺さん。 「………。」 もう…。とでも言いたそうなマネージャーさん。 マネージャーさんも こんなにあからさまに照れること、あるんだ。 「ははは、よくやったよくやった。」 …あれ、玉置さんもいたん…だ。 その他撮影に関わっているスタッフさんが ズラリと円を作るように並んでいる。 その真ん中、…セットの真ん中にいるのが、大志。 その姿に、今日何回目なのか分からない。 飽きもせずに、ドキッとしてしまう。 お風呂場の洗い場、わたしたちが対峙していたその場所に 寝っ転がるようにして倒れている。 仰向けで、顔を両手で隠すようにして 何故か、両足を これでもかと言わんばかりに開脚した状態で まるで、試合後全てをやり尽くしたサッカー選手のように 堂々と、倒れていた。 両手は顔、…もちろん、あそこはオールフリー。 見たきゃ見やがれ!とでも言うかのように開かれた 両太腿に間にしっかりと付いている、大志のおちんちん。 未だに、少し硬そうなまま。 ピクンピクンッて、不規則な周期で動いてる。 見ちゃいけないって分かってる、分かってるけど …大志が目を伏せたこんな状態だから 多分気付かれないだろうって言う欲が働いて これで見納め…の意味を勝手に自分の中で込めて 大志のそれを、まじまじと見てしまう。 …なんで立っているのかは分からない。 でも、大志のおちんちんは、こうなることもあるらしい。 …もう、大志の知らないところなんてない、…かもね。 形や大きさ、…柔らかさや温もりだって もう全部この左手の中に残ってる。…… ………!!! ふと、最後のテイクの自分の暴挙を思い出し どうしようもないくらいに、羞恥が膨れ上がる。 …も、もう!忘れよう! とりあえず、今だけ、でも… だって、全部、終わったんだもん。 …ね、大志。 目の前で横たわるすっぽんぽんの弟に、心で語りかけ その姿に、何故か隠そうとしないその恥ずかしすぎる姿に 心の底から、可愛いなと、思ってしまった。 大志、本当に、…お疲れ様。 …と、よく考えたら、流石にこれは可哀そ過ぎる。 徐々に自分まで恥ずかしくなり始めたから 洗い場にひざまずき、大志の耳元に声を掛ける。 「…た、大志。」 ―ピクンッ。 …返事がない。 「…た、大志ぃ~…。」 ―ピクンピクンッ。 …そんなとこで、返事しないでよ…。 「大志、…お、終わったよ。」 ―……  …ピックンッ。 「…み、みんな見てるよぉ…。」 「…うるっせーなぁ!!」 ようやく体を起こし、顔を上げる大志。 ―お疲れ! ―お疲れ~。 ―お疲れ様。 口ぐちに周りから飛んでくるその台詞に どう対処していいか分からずに、困った様子の大志。 …って言うか、…あやっぱり、…顔真っ赤。 照れ…だけじゃないね。 腫れ…の方が今は大きいかもしれない。 「…ご、ごめん。  …痛かった……、よね……?」 「…………。」 わたしの問いに答えない。 …でもまぁ…痛くなかったはずが…、ない…よね……。 愚問でした、…ごめんなさい。 …に、にしても…とりあえず… 「と、とりあえずさ、隠…そ……」 手にしたタオルを大志に差し出そうとした瞬間 「あ″ーーーーーー。」 かったるそうに、その場で思い切り立ち上がる大志。 ―ビヨヨヨーーーン……。 しゃがむわたしの丁度目の前に 大志の大きく振動するそれが飛びこむ。 「…んっ。」 声にならない声が漏れる。 慣れるなんてない…、やっぱり、ドキドキしてる。 …い、いつまでも見せないでよね…、バカ。 そして、何をするのかと思えば そのまま、何も身に付けていない状態のまま セットの外へと、歩き出してしまった。 産まれたての姿のまま 立派に立てたあそこをビヨンビヨンと揺らしたまま。 「…ちょ、大志、ど、何処行くの~?」 「…知らんっ!!」 大志、…やけくそだ。 「はっはっは。威勢がいいなぁ!」 「あらら…、男の子ねぇ~。」 スタッフさんたちの列を横切って お尻をプリプリさせながら遠ざかっていく。 「…ちょ、ちょっと~!  服ぐらい着なよ~!!」 わたしはマネージャーさんから大志の服一式を預かり 駆け足で大志の背中を追いかける。 「…か、風邪引くよ~?」 「引かねーよ。」 「引くっ。」 「引かない。」 「引くっ。」 「引かない。」 「もう。  …ぱ、パンツくらい履きなよ~!!」 「ションベンッ!!!」 急に立ち止まる大志と同時に、わたしも静止する。 気付くとそこは、男子トイレの前だった。 「…あ。」 「ずっと、…我慢してたんだよっ。」 後ろ姿のまま、自分の前を恥ずかしそうに両手で隠し そのままトイレへと消えていく大志。 「…ごめん。」 聞こえているはずもないけど、小さく呟く。 …でも、ようやく終わったんだな。 魔の【シーン21-6】… 大志の洋服を強く抱きしめながら お疲れ様…と、改めて告げる。 大志の匂い、大志の服…、もちろんパンツも。 …そっか、まだすっぽんぽんなんだ、大志。 …どんな風にトイレから出てくるのかな。 多分、丸出しを貫き通すんだろうな。 目に浮かぶそのシーンに、自然と顔がにやけてしまう。 普通の状態に戻ってるかな、…なんてね。 どうせだし、トイレの前でずっと待っておいてやろう。 わたしだけのための【シーン21-7】 よーい、アクション。 …なんちゃって。
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