小説

テイク7 scene3

-わたしの部屋。 「ふー、終わった~!!  疲れた~。」 疲れたって…、わたしの写しただけじゃんね。 「サンキュー、理奈。  助かった。」 「いいよ別に。そのかわり  明日絶対NG出さないでよ。」 「ぐへー、そりゃまたきついご要望で…。」 「冗談だよ。」 そんなの、わたしだって言われたら きついもん。 「…ん?何読んでるんだ?  …あー、明日の台本か、21話の。」 「え、あ、うん…。」 「もう予習とか偉いな~。」 「い、いや。」 大志が写してる間 やることなくて暇だっただけだよ。 …それに…さ。 ちょっと台本見てて 気になったことが1つあったりして… 「ん?なんか面白いシーンでも  あったのか?」 「え、な、なんで?」 「いや、なんかずーっと同じページ見てるから。」 「え、い、いやそうじゃなくて…さ。」 「なんだよ、気になるじゃん。  どこどこ、何ページ?」 勉強道具をランドセルにしまい 自分用の台本を取り出す大志。 「…え、えっと…その  12ページの、シーン21-5から21-6のところ…。」 …ちょっと躊躇いながらも そのページを大志に教える。 「ん、どれどれ…」 わたしが気になったのは 次のシーン―。 【シーン21-5】 自分の部屋にある引き出しを なんとなしに開けるカズミ。 引き出しの中身を見て、カズミ、驚いた顔をする。 (カメラ)引き出しの中身を映す。 そこには、カズミの大事にしていたビー玉が。 しかし、7色で7コあるはずのビー玉が 2コ足りない。 (カメラ)カズミの顔を映す。 カズミ「あの野郎~…!!」(静かに怒る感じで。) 一点を見つめ、眉を寄せた表情で怒るカズミ。 そのまま部屋を飛び出す。 【シーン21-6】 駆け足で浴槽へと向かうカズミ。 バーンと、思い切り浴槽のドアを開ける。 カズミ「ミノル~!!!」(怒鳴ったような張った声で。) 浴槽に浸かるミノル。 突然の姉の侵入に驚きながらも すぐに平常心を取り戻した表情へと変わる。 ミノル「…なんだよ。」(ぶっきら棒に。) カズミ「アンタ、わたしのビー玉どこやったのよっ!?」     (睨みつける感じで。) ミノル「…はぁ?…知らねぇし。」     (本当は知っているけど、それを隠す感じで。) カズミ「アンタしかいないでしょ!?」     (風呂の中に1歩歩み寄りながら。) ミノル「……。」 (2秒くらいの沈黙。) ミノル「…うるっせーなぁ。」 ミノル、浴槽から徐に立ち上がる。 (前などは隠さずに、そのまま立ち上がる感じで。) (カメラ)ミノルの背後から     ミノルの裸ごしにカズミを映す感じで。 ミノル、そのままカズミの目の前まで歩み寄る。 ミノル「…これのことかよ?」     (嬉しそうに、子供らしい弟らしい満面の笑みで。) ミノル、カズミの左手首を右手で徐に掴む。 (カメラ)カズミの驚いた顔を映す。 ミノル、掴んだカズミの左手を そのまま自分の股間(袋)へ押しつける。 プニっと、2つのそれの感触を確かめた後 (カメラ)カズミの目をマン丸くした顔を映す。 カズミ「…バカッ!!」     (弟と言えど、少し照れたような顔と口調で。) カズミ、ミノルに握られた左手を振りほどき その手でそのままミノルの頬をビンタ。 (強さはお任せします。) カズミ、そのまま浴室を飛び出す。 (カメラ)ミノルの顔を映す。 ミノル、叩かれた頬を右手で押さえながら。 ミノル「…いってー。」(口をすぼめながら。) (カメラ)ミノルのバックショットを2秒ほどキープ。 【シーン21-7】 ……。 これが問題のシーン。 …もう1度読み終えてみて… やっぱり気になってしまう。 …って言うか…これ… …徐々に、自分の顔が赤くなっていくのが分かる。 気になって、同じく台本に目を通す 大志の顔を覗くと… …見たこともないくらいに 顔を真っ赤にしてた。 きっと、最後まで読んだんだろう…。 「…ぇ。」 声にならない声を漏らす大志。 わたしも、急に恥ずかしくなりだして 何も言えずに、無言で対応する。 「…ちょ、いや…き、聞いて…  オレ、何にも聞いてないし…。」 完全に困り果てたような顔になり わたしの顔を見てくる。 お猿さんのような、目をクリクリさせた まっかっかの顔。 「…で、でも、台本に書いてあるよ…?」 「いや、そ、そうだけど…さ。」 頭をポリポリと掻く。 演技中間違えちゃったときでも こんなに動揺した大志、見たことない。 「……。」 「……。」 重い沈黙…。え、えっと… 「…ん、んでも流石にさっ。  下半身映したりはしないっしょっ!!」 自分に言い聞かせるように わたしにそう同意を求めてくる大志。 「…ん、うん…。」 曖昧なわたしの返事に 大志は少しだけ見せた余裕を すぐさま曇らせる。 頭をさらに掻き回しながら 口をすぼめ、顔を更に紅潮させていく大志。 テレビに自分の裸が映ってしまうかもしれない… その事実と、闘っているんだろう。 「…で、でもさっ。  流石にテレビで全部映したりはしないよきっと!  特に…、前…とか…は…」 「あったりまえだろっ!!!」 何言ってんだよっ!と言わんばかりに 怒鳴ってくる大志。 そりゃそうだよね… そこまで求められるわけないよね… でも、わたしが想像しているのは そう言うことじゃなくて… これを読む限りだと わたしのカズミ役としてのポジションからすると… その…大志の…、その… 「…さ、流石に水着着用だよな?な?」 わたしの内心を読み取ったかのように うんと言ってくれ…!!とでも言うかのように 懇願の眼差しをわたしに向けてくる。 …多分そう…、だけど、どうなんだろう。 分かんない…けど、もしそうじゃなかったら わたし…は… 「……。」 「………。」 沈黙。 「…。」 「…やめた。」 「え?」 急に開き直る大志。 「こんな悩んだって、時間の無駄ってこと。  素っ裸で撮影なんてするわけないじゃん。  アホらしアホらし…。」 そう言って、台本をランドセルに 素早くしまう大志。 そうだよね…、と同意する裏腹 大志の顔色の赤が全く抜けていかない事実に やはりわたしも、大志の想像するもしかしたらを 想像してしまう。 「帰るわ。」 精一杯の苦笑いで、そう告げる大志。 「…う、うん。」 「んじゃ、また明日…な。」 「うん、…また明日…。」 そう言って大志は、きっと後味悪く わたしの部屋を出ていった。 最後まで、…赤いままだった。 1人になった部屋で わたしはもう1度台本を読み直す。 ……… …ヤバイ。 …… なんか、…ドキドキしてきた。
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