雑草と太陽 3
次の日、の放課後。
ホームルームも終わり、先生のいなくなった教室で、
鹿島の登壇によって帰宅を阻まれるクラスメイト達。
―なになに~。
―なんだなんだ。
―早く帰りたいんだけど~。
口々に愚痴が飛ぶ。
そんなみんなをまぁまぁとなだめながら席に着かせ、
教壇の前に立った鹿島、とノリから、コトが説明される。
「今日このあと、俺と大野で50m走をする。」
―え~。
―なんで~?
―昨日やったじゃん。
「俺が鹿島に、再戦してほしいって、
昨日あの後申し込んだんだ。」
―あ~。
―なるほど~。
―男のプライドってやつ?
―男だね~。
「そう言うこった。
んなわけで、俺と大野、本当はどっちが速いか、
みんなに証人として見ててほしいから、
暇な奴は見に来てほしい。場所は昨日と同じ。」
「よろしく頼む。」
―ふ~ん。
―どーせ暇だし、別にいいけど。
―わたしピアノだから無理。
―俺早くゲームしたいし。
「とりあえず、来れる奴は頼む。
以上!」
2人の宣伝が終わり、一旦解散するクラス。
放課後、の、放課後。
昨日と同じ校庭の隅。
結局、何人かは帰ってしまったけれど、
15人くらいは残ってくれた。
方法は昨日と同じ。
ただ、先生はおらず、非公式だからタイマーもなし。
単純に、どちらが速かったかを、
ゴール地点で待機するみんなで判定する。
「ねぇねぇ、どっちが勝つと思う?」
「え~、そりゃあ、鹿島でしょ。」
「だよね~。」
「分かんねーよ、再戦頼んだくらいだもん。
大野の奴、昨日は全然本気出してなかったのかも。」
「え~?ホントに~?」
いろいろな思惑が飛び交う中、
そんなにみんなの時間を割くわけにもいかないので、
「んじゃ始めるぞ~。」
スターター役がみんなに呼びかける。
位置に着く鹿島とノリ。
思わず息を飲むクラスメイト、と、僕。
「位置に着いて、」
…ゴクリ。
「よーい、ドン!」
昨日と同じように、勢いよく踏み出す2人。
―ダッダッダッダッダ。
昨日と同じように、響く音。
―おー!
―頑張れー!
―はやーい!
昨日と同じように、上がる歓声。…そして、
―ダッ…!…ッタッタッタッタ…
昨日と同じように、結果は…
「鹿島の勝ちー!!!」
全員一致で、そう、声を揃える。
僕は、無言を呈してしまった、…けど、
誰が見ても間違いなく、鹿島の勝ちだった。
「っしゃーー!!!」
ガッツポーズを掲げ、
ウイニングランとばかり戻ってくる。
「さっすがーー!!」
「かっこいーー!!!」
「ですよね~。」
そんな鹿島を、盛大に受け入れるクラスメイト。
…一方、ノリは、
ただただ悔しそうに、地面だけを見つめ、
ゆっくりとこちらへと向かってくる。
盛り上がる輪の中に、入ることなんて出来ずに、
ただ一言、鹿島に、
「…対戦ありがとう。」
目も見ずにそう言い、ランドセルも持たずに、
何処へともなくゆっくりと消えてしまった。
「なんでー、変なの。」
「なんつーかまぁ、結局鹿島の圧勝だったな。」
「当たり前だろ。」
「ひっどーい。」
「はは、それ大野に言ったら凹んじまうぞ。」
「あっははは。」
鹿島を囲み、そんな話で盛り上がるみんな。
僕はと言うと、その中に入ることなんで出来るわけもなく、
こっそりと輪を離れ、小走りでアスファルトの段差へ。
自分のとノリのランドセル、2個を抱え、その場を後にする。
「あれ、小池?」
「大野んとこ行くんじゃね。」
「あー。」
「あの2人、仲良いよね~。」
「なんでも、デキてるんじゃねーかって噂だぜ。」
「えっ!?」
「マジかよ。」
「おいおい。」
…っ!?
そんな声が聞こえた気がして、
取り乱して転びそうになるも、グッと態勢を戻し、
何処へともなく向かった。