雑草と太陽 4
何処行ったんだろう。
…なんて、探すこともなく、ノリを見つける。
体育館裏の階段。
そこにノリは、項垂れながら座っていた。
知っていたわけじゃない、けど、
なんとなくここにいるんじゃないかなって、思ったんだ。
声を掛ける、こともなく、
ただ無言で、ノリの横に座る。
顔を腕の中にうずめている。
僕のことは見えていないだろうけど、
気配で気づいてはいるはずだ。
………。
こんな時、なんて言葉を掛けてあげればいいんだろう。
バカだから、どうすればいいか分からない。
…とりあえず、
「お疲れ様。」
そう一言。…まぁ、とりあえず、は。
…、返事はもちろん、ない。
うーん、どうしようどうしよう…。
…どうしよう。…と、
「…バカにしてたか?」
姿勢はそのままに、ノリがそう訊いてくる。
「え?」
な、…にが?
「だから、俺のことバカにしてたかって。
…みんな。」
あ、あぁ…、いや、それは、…
「そんなわけないでしょ。」
バカには、していなかった。…うん。絶対。
「…まぁ、バカにして当然だよな。
だっせーよな、俺。」
そう言いながら、ゆっくりと顔を上げる。
寂しそうな横顔、前方をジッと見つめている。
僕まで、胸がギュ~っと痛くなる。
そんな顔、しないでほしい。
「だ、だから…、さ。」
「いいんだ、負けたし、実際。」
…そ、そっか。
………。
「…でも、やっぱ悔しいな。」
「うん。」
僕も、悔しい。
「なんでだろうな。」
「ん?」
「なんで負けたんだろ。」
「………。」
それは、…
「走る直前はさ、勝てる気しかしないんだよ。」
「うん。」
スタート地点のノリは、昨日も今日も、
凄く凛々しくて、カッコ良くて、
自分を信じきった顔をしていて、
負けるはずない、僕にだって、そう思わせてくれた。
「勝てる気しかしないのにさ、
なんで負けるんだろうな、変だよな。」
「それは…、」
それは、…どうだろう。
「う~ん…。」
頭を抱えるノリ。
「…う~ん。」
僕も一緒になって悩む、フリをする。
………。
「やっぱ、こんなのおかしい。」
…え。
徐にその場に立ち上がるノリ。
「まだ鹿島の奴、いるかな。」
「…え、わ、分かんない…けど、
…なんで?」
「もっかい再戦、申し込んでくる。」
…え。
「む…、っ…。」
「ん?」
そんな自信に満ちた顔で見つめられたら、
無理だよ、なんて言えない。
「…や、めときなよ。」
「なんでだ?悔しいじゃん。
男なら、目指すのは1番のみだ。」
そう、…なのかしれないけど、…
これ以上、あんまり…、その…
「それに、次は絶対に勝てる。
だから問題ない。」
「………。」
決意は固いみたいだ、僕が何を言っても無駄だろう。
「…と、善は急げだな。
俺ちょっと鹿島探してくる。」
「あっ…。」
自分のランドセルを手に取り、
そのまま校庭の方へと、風のように消えていってしまった。
「…あー……。」
…行っちゃった。
……。
…、はぁ。
なんだかなぁ。
つくづく、負けず嫌いと言うか、なんと言うか。
この前のサッカーの授業でやったリフティング。
回数を競うやつで、ノリが2位になって、
その日の放課後、1位の記録抜くまで、
遅くまで残ってたっけ。
結果、その記録を塗り替えたんだから、
さすがノリだなって思ったけど。
その前はバスケの連続シュート回数で2位になって、
それも遅くまで残って記録を更新したり、
その前は二十跳びの連続回数で、なんてのもあった。
まぁ、僕しか証人はいないんだけどさ。
と言うか、それに全部付き合ってる、
僕も僕だよね。ホントお互い、懲りないよね。
勉強とかに関しては、
一切そう言うこだわりはないみたいなんだけどさ。
ホント、プライドが高いと言うか、バカ真面目と言うか。
…でも、そんなノリの性格が、僕は大好きで、憧れで。
ほら、今思い出しただけでにやけてる。
応援したくなるんだよね、頑張れーって。
…でも、
今回ばかりは相手が悪い。
正直、相手の鹿島、信じられないくらい速い。
いくらノリでも、無理だと思う。…、
いや、言い切りたくはないけどさ、…でも……
今頃、2回目の再戦を頼んでるのかな。
…呆れられてないかな、バカにされてないかな。
……、不安…、だな。
…、どうしよう。
何も言われなくたって、いつもなら待っていたけれど、
どんな顔で迎えればいいか分からない。
ほら、僕、バカだから。
………、
…帰ろう。
ランドセルを背負って、ゆっくりと腰を上げる。
ふぅ、なんだか凄く疲れた。
1人で帰るのなんて、凄く久しぶりだ。
…でもまぁ、しょうがない。
鹿島はまた、引き受けるのかな。
何回やっても同じだって、突き放すのかな。
もしノリだったら、それでも引き下がらないだろうな。
……、まぁ、いいや。
もしノリがまた頑張るんなら、
僕はただ応援するだけだ。それだけだ。