雑草と太陽 5
次の日。
教室内には、ノリをバカにしたような空気は流れておらず、
とりあえず安心する。
ノリとも、普段通り、
いつもと変わりなく、接することが出来た。
…はずだ。
再戦を申し込めたかどうかは、言ってこなかった。
言ってこなかったから、訊くこともしなかった。
気になるけど、これはノリの問題だし。…うん。
そして、放課後。
昨日と同じく、先生が教室を出て行った後、
鹿島、とノリが、みんなを引き止める光景。
…やっぱり、来た。
―なにまた~?
―なんだよなんだよ。
―今日は帰るよ~。
2日連続での居残りは、さすがにみんな嫌な様子。
そりゃあ、そうだよね。
「まぁまぁまぁ、落ち着けって。」
鹿島がそれを上手くなだめ、全員を席へと着かせる。
なんだか鹿島、やけに嬉しそうに見える。
なんでだろう、…まぁ、いいや。
「みんなの知っての通り、
昨日大野に50m走の再戦を申し込まれて、引き受けた。
その結果、俺がまた勝利した。」
―知ってる知ってる。
―見てた見てた。
―聞いたよ~。
「んで、あの後、
また大野から、再戦を申し込まれた。」
―えぇー!?
―またぁ~!?
―もういいっしょ~。
―何回やっても同じじゃね。
―…うん。
―私はもういいや。
……。
みんなの冷たい反応、でも、正直予想通りの反応に、
胸が痛くなる。
「まぁまぁまぁ、落ち着けって。」
そのまま鹿島は続ける。
ノリはただ、鹿島の隣りでだんまりしている。
「俺だって、勝ってるのに、
大野の勝手で駆り出されちゃあ、正直納得いかない。」
―…まぁ。
―だろうな。
―うん。
…、…うん。
「だから今回は、俺も納得いくように、
証人になるみんなも納得いくように、ある条件を付けた。」
―え?
―なに?
―なになに?
…、…なに。
「次、もしも大野が負けたら、」
徐に鹿島は、ノリに肩を組み、
「来てくれた奴ら全員の前で、素っ裸になるってよ。」
至極嬉しそうに、そう言い放つ。
―…え?
………。
…え。
―ぇ。
―…え。
―……えぇぇぇぇえええええええええ!?
エーイングに包まれる教室内。
………っ!
心臓が大きく跳ねる。ドキドキが増していく。
手の震えが、止まらない。
す……、ぱだ…、……か…。
―マジで素っ裸?
―全裸?
―嘘だろ?
「嘘じゃねーよ。
フルチンだよフルチン。な?大野。」
―やだぁ~!
―マジかよっ。
―これは…。
ざわめく教室、鹿島の問いに、
ただ無言に徹し、遠方を見つめ続けるノリ。
…どうやら、間違いないらしい。
ノ、ノリ…。
「決戦は一週間後の今日な。
大野も、強化する時間が欲しいだろうしな。」
―あ、一週間後なんか。
―一週間後…か。
―おう、ぜってー空けとくわ。
一週間後…。
「そう言うわけだから、
大野の可愛いおちんちんを見たいって奴は、
是非是非空けとけよな~!」
そう言って、やたら嬉しそうに、
ノリのそこを指差し笑う鹿島。
―やだもーーう!!
―あっはは!こりゃ行くしかねーな!
―楽しみにしとくぜっ。
―もーう!!
「ま、負けねえからっ!!」
ようやく口を開いたノリ。
「あ、あぁー、そうかそうか。
そうだったな、すまんすまん。」
完全にバカにした、鹿島の対応。
………っ。
「ってことで、以上!!
よろしく~!!ってことで、解散っ!!」
鹿島のその合図で、各々に行動を開始する、
クラスメイト達。
ノリは…、鹿島の腕の中をスルリと抜けて、
自分の席に戻り、ランドセルを片肩で担ぎ、
教室の外へ… …と、
「ノリっ!!!」
どうしていいか分からず、とにかく駆け足で近寄る。
「………。」
ノリ……っ。
「…なんだよ。」
僕の方を怪訝そうに向く。
その顔は、いつもの焼けた鋭い顔、でも、
少しだけ赤らんでいるのが分かって、しまった。
「…………。」
何も言えずに、ただ立ち尽くす僕。
「俺、練習しなきゃだから。」
それだけ言うと、そそくさと校庭へと行ってしまった。
………。
…。
―ねぇねぇ、どうする?
―え、別に私は、そんな…。
―大野くんの…、…でしょ?
―…まぁ、興味ないって言ったら、嘘になる…かな?
―何言ってんのも~う!!
―やだぁ~!!
―クスクス…
………!!!!
ドキドキが、加速していく。
顔が、焼けるように熱い。
……、…僕は、
僕は、どうすればいいのだろう。