雑草と太陽 8
焦らしたり、躊躇ったり、
そんな素振りは一切なかった。
"男らしく"、そんな言葉がぴったりだった。
ノリは、みんなが見守る中、一気にパンツを下ろす。
そして脱いだそれを、足から完全に抜き去り、
静かに地面に投げ捨てた。
……っ。
「きゃーーーーーーー!!!!」
「うっは!!!!」
「マジでやりやがった!!!!」
顔を覆い叫ぶ女子、大喜びする男子。
顔を俯かせ、逃げる女子、指差し笑う男子。
前が騒がしく動くため、良く見えない。
仕方なく、立ち位置を少しずらす。
……、…ノ…、リ……。
そこには、生まれたままの姿で仁王立ちする、
ノリの姿があった。
ごめんっ…、いけないと思いながらも、
どうしても探して、焦点を合わせてしまう、ノリの、そこ。
それは…、
「自黒なんだな、ちんこも結構黒いんだな。」
恥ずかしげもなく、そんなことを言う鹿島。
………っ!!!
「くっはは、マジだ。」
「やぁーーーだぁーーー!!」
「マジで出しちまったな。」
………っ。
「ってか、思ってたより小さいな。」
「ちょっ、ひっでぇ。」
「確かに、これじゃ大野じゃなくて、小野だな。」
「うっは!!」
「ちょっとぉ!!!!」
…っ。
「小野勝徳だな。」
「うん、…いや、小野負けのりじゃね?」
「あー、負けたもんな、ひっでぇ。」
「もうっ!!!」
好き放題言いやがる、クラスメイト達。
の、ノリ…、ノリは……、
…ノリは、ただ何も言わずに、
俯くこともせず、ただ何処か遠く前方を見つめたまま、
石のように固まっていた。
意外にも、顔はいつものようにハンサムで、
でも、顔全体が余すところなく真っ赤で、汗は噴き出し、
歯を食いしばっているのも分かって、
どう考えても、余裕なく、必死で耐えている、のが…、
………っ!!!
……、
………。
「…っと、まだ終わらせねーぜ。」
鹿島は、適当なサイズの木の枝を拾い、
ノリの隣りに屈む。
「女子ちゅーもーく。
これが小野のおちんちんでーす。」
その枝で、ノリのそれをつつく。
「やぁだぁ!!」
「あっははは!!!」
「で、これがおちんちんの、裏側でーす。」
ノリのそれを、持ち上げる。
「……!!…、き、きゃーーあ!!」
「おいおいっ。」
ノリのお腹が、小刻みに動いてる。
必死で、耐えている。
「んでこれが玉袋。
1個、2個、ちゃんと入ってますな。」
それも、つつく。
「…………。」
「お前ら、見すぎ。」
「…み、見てないっ!!!」
僕は、自分のそこを、必死で押さえることしか出来ない。
「ついでに、ぷるぷるぷるぷるぷる~。」
ノリのそれを、枝で弄ぶ。
「もうやぁだぁ!!」
「はっはははははは!!!」
「おい鹿島、さすがにその辺にしとけよ。」
「…ん、あぁ、ま、そうだな。」
誰かの一言で、鹿島はようやくそれを止め、
その場で腰を上げる。
「よし、もういいぜ、大野。
…あ、小野か。」
………っ。
とにかく、ようやくその合図で、ノリが解放される。
急いで服を着るのかと思ったけど、
もう吹っ切れたのか、それとも、…分からないけれど、
みんなが見ている前で、ゆっくりと、
衣類を身に着けていくノリ。
パンツを履き終え、ようやくすっぽんぽんではなくなるノリ。
それを横目で確認したかと思うと、
鹿島が、悪ふざけとばかりに、
手に持った木の枝の先端を嗅ぐ。
「うは、くっせぇ。」
悪びれる様子もなく、そんなことを言い、
手に持つそれを、女子の輪の中に放る。
「きゃーーーー!!!!」
今日一番の悲鳴、分散する女子。
誰もいなくなったそこに、ポトリと落ちる枝。
そんな光景を、気にする様子もなく、
黙々と自分のペースで、脱いだそれを着ていくノリ。
…、ようやく、元のノリに戻った。
トントン。
両方の靴も履き終えると、ノリは、
誰かに何を言うこともなく、口をつぐんだまま、
ゆっくりと、何処へともなく、歩いて行く。
しばし無言で、そんなノリの背中を見つめるみんな。
…と、
「おい、さすがにやり過ぎたんじゃね?」
誰かが鹿島にそう言う。
「え?…いや、でも、
大野も負けたらそうするって、俺に言い切ったし、
一応合意の上だぞ。」
「まぁ、そうだけど。
…そうなんだよな。」
「おう。」
そう、だけど、そうなんだろう…、けど…
「そうだ、小池、慰めてきてやれよ。」
…へっ!?
「そうだな、それがいい。
小池頼むわ。」
急な名指しと、一斉に向けられる慣れない視線に、
僕は思わず狼狽えてしまう。
「ってか、何ちんこ触ってんだよ。」
!?
「…あ、まさか、
大野の素っ裸見て興奮しちゃったんじゃね。」
!?
「なんだ、ダーリンのおちんちん見るの、
初めてだったのか。」
「あらま~、勃っちゃったか、乙女だね~。」
…っ!!!
「え、なになにどう言うこと?」
「いや、なんかね噂だと…」
ざわつき始める周囲。
……っ、うっ、僕…、どうすれば……、
の、…ノリ……ッ!!!
僕は、この場にいることだけは出来ず、
顔を伏せ、アソコを押さえながら、アスファルトの段差へ。
ランドセルを、ノリのも合わせて2つ掴んで、
逃げるようにその場を離れる。
「うっそぉーー。」
「あっはははは。」
「頼んだぞ~!」
背中に、視線と笑いと驚きを無数に感じながら、
僕は、ノリのいる何処かへ向かって、走った。