雑草と太陽 7
次の日の放課後。
雲1つない、春風の心地良い、まさにスポーツ日和。
それでも、校庭の隅はいつものように、
木の葉の隙間から微かな日差しを受ける程度である。
誰かのせいですっかり色褪せた、淡い2本のコースライン。
そのスタート地点に、2人の選手が並ぶ。
勝者の証人役を買って出た人数は、
前回の15人を遥かに上回り、ほぼクラスの全員。
またかよ、もう私はいいや、なんて言ってた人も、
結局はみんながみんな、この場所に集結している。
その理由は、…分からないわけがない。
嬉しそうにゴール地点に群がる、クラスメイト達。
表面上は、ボランティアとしての参加、と言うことなんだろう。
でも、あえて口にはしないだけで、本当の目的はまるで違う。
それを思うだけで、胸が締め付けられるように痛くなる。
でも僕には、もう、何も出来ない。
「よーし、やるぞ~!」
スターター係が声を張り上げる。
「おおーーー!!!」
「いえーーーい!!!」
大いに盛り上がるゴール付近。
ノリは…、自分を信じきった顔で、
目指す場所だけを、ただじっと見つめている。
50m先のこの場所からでも、それだけはひしひしと伝わってきた。
………。
「位置に着いて~…、」
………っ。
「よーい…、」
…っ。
「ドンッ!!」
一斉にスタートを切る鹿島とノリ。
響く足跡、近づく2つの影。
………。
風のように目の前を通過していく2人。
………。
蓋を開けてみれば、一瞬だった。
……、結果は、
「鹿島の勝ち~~~!!!!」
全員一致、贔屓目一切なしの、その回答。
その通りだった、分かっていた、当然だった。
…でも、どうすることも出来なかった。
「オエーーーーーイ!!」
余裕綽々とばかりに、クラスメイト達に駆け寄る鹿島。
―イエーーーーイ!!
―あ~あ~。
―きゃ~~~~!!!
歓声、どよめき、照れ。
一週間前とは比にならない、異様なムード。
その理由は、"鹿島の勝った"からではなくて、
間違いなく、"ノリが負けた"からなのだろう。
そんな輪の中に、躊躇いながらも、視線を逸らしながらも、
ゆっくりと近づいてくるノリ。
みんなの視線が一斉に、鹿島からノリへと向けられる。
…、…ノリ……。
「ってことで、大野。
約束は守ってもらうぜ。」
嬉しそうに、ノリの肩を組む鹿島。
ノリはただ無抵抗に、拒絶する様子もなく、
目線を何処かへと落とし、動かなくなった。
―マジでやるのかっ!!
―待ってましたぁーーー!!
―きゃーーーーー!!!
周りのみんなが、思い思いに、感情を爆発させる。
ノリの頭から、1滴2滴、汗が流れ始める。
色黒だからよく分からない…、けど、
顔全体が赤らんでいるのが、僕には分かっ…
……、……っ!!!
僕は自分の体の変化に気づき、思わず、股間を手で押さえた。
「こんなもんでいいかな。」
さっきと同じように、コースのスタートラインに立つ鹿島とノリ。
その2人を扇形で囲むように、3列になってみんなが並ぶ。
女子は見やすいように、そんなよく分からない理由から、
1列目には全員女子が配置させられた。
「よっし、じゃあ大野、覚悟はいいか?」
「…………。」
無言を呈するノリ。
「…いいんだな。
よし、じゃあ負けた罰として…、
大野の"素っ裸の刑"、スタートォ!!!」
―イエーーーーイ!!
―パフパフゥ!!
―もーう!!
…っ。
―…ビクンッ。
「よし、じゃあまずは、上脱げ。」
隣りの鹿島が指示をする。
ノリは、小さく深く、1つ深呼吸をする、と、
ザバッと、男らしく、上の衣類全てを一気に脱ぎ、
地面にそれをバサッと落とした。
ノリの小麦色の上裸が、みんなの前で晒される。
―フゥーーーー!!!
―おっとこっまえーー!!
―もううるさーーい。
好き放題に野次が飛ぶ。
…んっ。………。
「なかなかいい体してんな。
乳首とか、結構エロくね?」
鹿島がノリの片方の乳首を、人差し指でつつく。
―ちょっ!!
―あっはははは!!!
……!!なんてことする……!!!
………。
…、ノリは、ただひたすらに、無言で耐えている。
「うっし、じゃあ次は、靴と靴下。
素っ裸だからな、全部脱いでもらうぞ。」
―うっわ。
―やだぁ。
―鬼ー!!
「うっせー、最初にそう言っただろ。」
全く容赦はしてくれないみたいだ。
…。
靴と靴下を両方、ゆっくりと、
言われるがままに脱いでいくノリ。
―フゥーー!!
―野生児~!!!
―………。
脱ぎ、終わる。
素足を地べたに付け、上半身裸で仁王立ちするノリ。
この期に及んで、カッコいいな…、なんて、
思ってしまった、自分が嫌だ。
「よし、後2枚だな。」
後2…、枚……。
「ここまで来ても逃げ出さないってことは、
もう覚悟は出来てるみたいだな。
男らしさは評価するぞ。」
…、ノリは、そんな卑怯な真似、絶対にしない。
「まぁもったいぶっても仕方ない。
とりあえず下脱げ。
あ、まずはハーパンだけな、ちんこはまだ出すなよ。」
―あっはは!
―やだーーー!!
盛り上がる男子に、嫌がる女子。
のくせに、誰もそこから動こうとはしない。
………っ。
―サッ。
そんな周囲になど構うことなく、…
構う素振りなど見せる様子もなく、
下のハーフパンツをスルリ脱いでみせるノリ。
中から現れる、黒いパンツ。ボクサーパンツ。
ノリの…、パンツ、…一丁…、
…んっ……!!!!
―ウッホ!!
―きゃーーー!!!
ノリの残り1枚姿に、大いに沸くクラスメイト達。
んっ…、んん…っ。
「さてさてさて…。」
………、
「ついにラスト1枚となってしまいました。」
ニヤニヤを全開にする鹿島。
ノリは、…駄目だ、顔、見れない…や。
「大野くんはどんな可愛いおちんちんを
しているのかな~?」
再びノリに肩を組み、周りを煽る鹿島。
―ぃやぁ~!!
―ヒューーーーー!!!
…、……んんっ…。
「うっし、んじゃ大野。
自分の好きなタイミングでいいからな。」
それだけ言うと、
「脱ーげ、脱ーげ、脱ーげ。」
手拍子と共に、コールを開始する。
それをみんなの方にも向け、「お前らも。」の合図。
「脱ーげ、脱ーげ、脱ーげ!」
1人、2人、3人、男子がそれに同調する。
「脱ーげ、脱ーげ!脱ーげ!」
目線を落とし、恥じらいながらも、
小さく手首を叩き始める女子。
「脱ーげ!脱ーげ!脱ーげ!」
僕は…、僕……、は……、
…っ、……。
……、………、
ノリがゆっくりと、パンツに手を掛ける。