小説

成長くらべっこ 13

-罰ゲーム 当日-

眠れない夜を過ごし、そのくせ平日よりも早く起き 落ち着かない午前中を家で潰して ようやく、いよいよ近づいてきた運命の時。 バッグに答案用紙5枚をしっかりと詰めて 玄関でいつもの靴を履き、1つ、2つ、3つ、深呼吸をして それでも踏み出せないことに若干の焦りを感じながらも 思い切って立ち上がり、そのドアを開ける。 外はこれ以上ないと言うほどに晴れていて もう春がやってきていることを、私に教えてくれました。 フミちゃんの家までの道のりを、1歩1歩踏みしめていく。 気が付くと、遠い昔のことを思い出していました。 そう言えば 休みの日はやたらとフミちゃんと遊んでいたなぁ。 玄関でいつものスニーカーに足を通して 「フミちゃんチ行ってくる~!」って大声で叫んで この道を、子供ながらに元気よく駆けていた気がする。 きっと速度は、今の私の歩行と、 大して変わらいないんだろうけどね。 この塀も、この電信柱も、あの裏道もあの川も 呆れるくらいあの頃とまるで変わっていないはずなのに 私ばっかり、私たちばっかりがどんどん変化して そのせいで、 あの頃見ていた景色を違うものに見せてしまう。 あんなに大きく感じていた木にも あんなに高く感じていたフェンスにも 今は全然動揺しなくなっている。 全然悪いことじゃないはずなのに、少しだけ切なくなるのは なんでなんだろうね。 長く感じていたこの道も、今では少し短く感じ 背伸びしなければ届かなかったインターフォンも 今では楽に押すことが出来る。 そして、数十秒後に玄関のドアが開き 中から登場する男の子もまた 私と同じように、立派に、成長していました。 「とりあえず座りぃ。」 「うん。」 バッグを下ろし、ゆっくりとその場に腰を下ろす。 冷静を装うけど、緊張しないなんてもう、そんなの無理だよね。 顔には出さないつもりでも、きっと出ちゃっていたと思う。 お菓子とジュースを乗せたお盆を持ってきたフミちゃんが 私とそれを挟むように置き、ゆっくりと座る。 「………。」 「………。」 とても長く感じる静寂が、3秒ほど流れる。 「…ふぅ。」 フミちゃんの大きな溜息。わたしも小さくそれを真似る。 「いよいよやな。」 少し作ったような、でも優しい笑顔で、私にそう言う。 「うん。」 私も無理して笑顔を作って、フミちゃんに応える。 「とりあえず、ジュースでも飲むか。」 「…う、うん。いただきます…。」 2人でジュースを飲む。 …そう言えば今日、ろくにものを喉に通してなかったっけ。 グビグビグビ… 気が付くと私は、注がれていたその全てを飲み干していた。 「……。」 「…あ。」 「………はは。喉乾いてたんやな。  俺のも飲むか?」 「…い、いや。大丈夫……。」 完全に動揺してる。…一気飲みとか…、下品過ぎ…。 「…とりあえず。」 お盆に空のコップを戻すと、ゆっくりとフミちゃんが切り出す。 「今日の流れを最初に決めとこか。」 「…うん、そだね。」 「んまぁ流れ言うても、決まりきったことなんやけどな。  まずは、お互いにテストの答案用紙を見せ合う。  んで、負けた方が罰ゲームを食らう。  …あれ?あ、そんだけか。」 自分で言ったことに自分で面を食らったように 少しあっけらかんとした後に、少しだけ吹き出す。 釣られて私も、少し笑みを漏らす。 「ま、まぁそらそうやわな。」 「うん。…そう、…だね。」 ………、 「じゃあ、…さっそく  …始め……、るか。」 ついに来た開戦宣言に、1つ胸がドキンと跳ね上がる。 …でも、もう…、逃げられるわけない。 「…うん。」 お盆に向け続けていた視線をフミちゃんに移しながら その申し出を受け入れる。 そこで初めて気づいた。 フミちゃんの顔は、まだ始まってもいないのに まっかっかに、まっかっかに、染まり上がっていた。 そっと、点数が見えないように、バッグから答案用紙を取り出す。 フミちゃんも、お盆を勉強机の上へ一時避難させるついでに 引き出しから5枚のそれを取り出し、持ってくる。 部屋の真ん中で、運命を決める紙切れを握りしめ 向かい合う、私とフミちゃん。 「…ふぅ。」 ふぅ。 「…えっと、…1枚…ずつ?」 「んー、そやな…、どしよ…、か。」 どっちでも…、いいけど…、 「…んまぁじらしてもしゃーなしや。  一気に行こか?」 「……う、うん。」 それでいい……、と、思、う…。 「んじゃ、いっせーのせや。」 「うん。」 「いっせーのーせ!、の、せ!で、  お互いひっくり返して点数を見せる。  これでええか?」 「…う、ん、…分かった……。」 来る…、ついに……、この時が…… この…… 「じゃ、じゃあ……、行くぞ……!」 「……う、うん……………!!」 …決まる……!!! 「…いっせーのーせっ!!!!!!」
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