小説

成長くらべっこ 16

「じゃー次は、上か、下、やな。  さぁ小春、チョイスや!」 恥じらいを隠しているつもりなのかな。 顔には完全に出てしまっているけど ノリは一貫して最初のまま、自分の役の全うを続けるフミちゃん。 「……え、…えっと………」 いや、それは普通の流れで言って… 「…う、上……、かな……。」 「…上な。  上だけ残すなんて言う、変態的な発想は  なかったわけやな。」 依然として言葉攻撃だけは達者なフミちゃん。 …そんなこと考えるわけ…、ないじゃ……ん…… 「…え。  あったんかいな。」 ……!!! 「…な、ないよっ……!!!」 「ははっ、その動揺こそ小春やな。」 …し、知らないよっ……。 「…と、まぁ、じゃあ、上、やな。」 そう言って、パーカーの前チャックを右手でそっとつまみ ゆっくりと、私にお尻を向けるように180度回転する。 「…あ、先に言っとくけど  このパーカーん中は、何も着てへんからな。」 「……へ。」 「まぁ要するに、裸パーカーや。エロいやろ?」 裸……、パー、…カー……… 気持ちの整理がつく間もなく 「…タ~ラ~ラ~ラ~ラ~ラ~……。」 再び、軽快に流れ始める怪しい歌声と共に ―…ジーーーーーッ………。 私の視界の届かないところで、チャックの下される音がする。 ―チャッ。 チャックとチャックが完全に離れる音がしたかと思うと 後ろから見ても分かるように、パーカーの前部分が ―ハラッ… と、垂れる。 そして、掴めるようになったであろうパーカーの右部分左部分を 右手と左手でギュッと手に取ると ―…ベロンッ。 それを徐に後方へとひっくり返す。 中から現れたのは、フミちゃんの裸の背中。 それを見つめる間もなく 右腕、左腕からパーカーを完全に抜き去ると ―ポイッ……!! さっきの靴下動揺、脱ぎたてのそれが宙を舞い ―…ハラリ。私の手元に、見事に着地。 …、さすが、野球部。… …いやそんなこと言ってる余裕とか本当は……、と、 やっぱり少し、と言うか、完全にまだ熱を帯びていて …なんとなく、ちょっと、湿っているような、気がした。 フミちゃんの汗のせいなのか、私の手汗のせいなのか …それは、分からない。 「…どや。」 パーカーに気を取られていてうつむけていた顔を 前方へと戻す。 依然と後ろを向いたまま、露出された上半身。 両腕に力こぶが形作られるように、 両手をグーにして、上方で固定されている。 …凄い、なんか、… 簡単に言うと、これをいい体、って、言うんだろうな。 …って言う体、だった。 去年の夏のプールの時に見た以来だったけど そんなにジロジロ見ていたわけじゃないから分からないけど きっとあの頃よりも、体も出来てきている。…多分。 ポコッと、綺麗な山を作る上腕二頭筋。 くっきりと浮き出る肩甲骨。 その周りの筋肉も、ほんの少しずつではあるけど ところどころ隆起していて、 日々の練習の成果がきちんと現れていることを これでもか、とばかりに謳っている。 「…なかなか男前な体やろ?」 後ろを向いたまま、私に「うん。」を求めてくる。 もちろん私の答えは、 「…うん。」 「筋トレは絶対に欠かさず毎日やっとるからな。  チームメイトの中でも、結構評判やねんで?」 「…そ、そっか。」 うん、全然納得。反論しようがないよ。 「…んで、こっちが前、やな。」 そう言って、そのポーズのまま これまたゆっくりとしたスピードで、体を前方へと戻す。 全体の形状はそのままに 付いているべきものが付いている前の裸が 私の視界全体に飛び込む。 綺麗に浮き出た鎖骨。 まだまだ発展途上を思わせるも、それなりにガッチリとした胸板。 それを際立てるように、ポチッ付いた、ピンク色の小さな乳首。 割れたり割れてなかったりを繰り返す腹筋。 その真ん中に、窪みを作るのは、おへそ。 冬なのに、まだまだ寒いのに その小学校6年生の野球少年らしい綺麗な肉体美に タラリタラリを汗が這って、その度にキラキラと光って とにかくそれが、何故だかそれが、もの凄く、…エッチだった。 「…ぎょーさん見るなぁ。」 無言で視線を送り続ける私に、フミちゃんが一声。 「…あ、ご、ごめん。」 「ええよええよ。遠慮せんでええ。  今日文弥くんの体はぜーんぶ小春のモンや。  なんなら触ってもええんやで?」 …え、…い、いや…、そこまでは…… 「…い、いいよ…。」 さ、さすがに…… 「…そーかぁ。早くせえってかぁ。  もう小春の頭には"あの場所"のことしかないんかぁ。」 ……!!! …そ、そんなこと言って……、じゃ、…じゃあ……!! 「…さ、触る……!!!」 「…お、おぅ。…そ、そうか。  …了解や。」 ちょっと顔を驚かせながらも、すぐに作り笑顔へと変え 1歩、本当に私の目の前へと、歩みを進める。 「…さ、好きに触りぃ。」 間近に迫る、体。テカテカと汗で光る、体。 見上げると、フミちゃんの顔。 逆光で暗くて、正確には分からなかったけど でもやっぱり、笑ってた。 そして、照れてた。 …で、でも、…ど、どうしよう…… 「…そ、そやな。  文弥くんのおススメはぁ…、腹筋、とかやな。」 んっ、と言う声が小さく漏れ、 目の前のお腹が、再びソフトに割れる。 じゃ、じゃあ… 「…そこで。」 「はいよ、触り。」 逆らうことなどできるわけもなく 震える右手を、ゆっくりと、目の前の腹筋へと伸ばす。 …凄い硬い。…それに、…湿っ……てる……。 その異様な感覚が、指先から全身へと伝わり 伝わった場所全てに、冷や汗を発生させる。 「…硬いやろ?」 「…うん。」 それに、湿っ……てる。 「…あとは~、…上腕二頭筋とかかぁ?」 そう言うと、私の触りやすいように膝立ちの状態になり 再び力こぶを作ってみせる。 「どーぞ。」 ゆっくりと手を伸ばす。 …うん、…さっきと同じような、硬度、…と、湿度。 「あとはやっぱり、胸板やな。」 その姿勢のまま、鳩のように胸を突きだす。 操られるように、掌を乗せる。 ………!!! …硬さよりも、湿っ気よりも、 ドキドキドキドキ…、フミちゃんの、心臓の鼓動。 …それが、…もの凄く……、早くて…… 「…ど、ドキドキ…、言ってる……。」 つい、言葉に出してしまう。 ……… 「…そか。  緊張、してるんやろうなぁ。」 他人事のように、そう言う。 …そうだろうね、…だって、…… 私のより…、早いもん…。 「…んまぁこれが  これからすっぽんぽんになって  ちんちんブランブランさせる男のドキドキや。  …覚えとき。」 恥ずかしいのに、恥ずかしいくせに 私に見せてくれるその最高の笑顔、その笑顔に 私は何も、応えられませんでした。
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