小説

成長くらべっこ 6

- 期末テスト4日前 -

今日は土曜日、学校は休み。 朝の10時ちょっと過ぎに学校に着く。 少し遅れての到着だったから、練習はもう始まっていました。 観客…、なんて、いるわけないよね。普通の練習日だもんね。 …私だけか。なんかちょっと、恥ずかしいけど とりあえずあそこのベンチにでも座って、見学しよう…かな。 …カキーン。 ダッダッダ。 冬空の下で、白球やスパイクの足音が、心地良く響き渡る。 ちょうどノック?の練習中みたい。 …と、えっと…、… … ……あ、いたいた。 と言うか、私に気付いて笑顔で敬礼してくるフミちゃん。 ちょっと…、何恥ずかしいこと… 練習中なのに… 他人の振りをして、無視してやろうとした瞬間 ノックの球がちょうどフミちゃんの位置に飛んできて …ゴンッ。 …あ。 うわぁ…、って言うか…、今… ある場所を強打し、必死で誤魔化そうとするも 耐えられなかったらしく、体をよじらせながら悶えるフミちゃん。 …やっぱり、あ、あそ…こ…、押さえ…てる。 クラブチームのみんなからドッと笑いが起こる。 フミちゃんはただ、顔とそこを隠しながら体を動かす。 「久保田ー!!ボーっとしてっからだぞぉ!!」 「…す、すみま…、すみませんっ…!!!」 「あはっはっは!!大ジョブか~?」 ……し、知らないもん。私のせいじゃないもん。 …他人の振り他人の振り…、…っと。 ―休憩時間。 フミちゃんが私の方に向かって歩いてくる。 …… 「…小春~!小春のせいで恥かいたやろ~!」 「…し、知らないよ。自業自得でしょっ。」 「ひっでぇ。」 とか言いながら、なんだかんだ笑顔になって 私の隣りに腰掛ける。 「まぁ、来てくれてありがとうな。」 「別に大丈夫だけど、…ちょっと恥ずかしいかな。  …誰もいないし。」 「別にいいやん。独り占めできるやん?」 …もう、適当なこと言って。 …って 「…凄い汗。」 「まぁ、めっちゃ動くかんな。  球を追いかけ、全力で走り、汗に光る男。  …どや、かっこええやろ?惚れてまうやろ?」 「…どうだろ。  あのエラーのシーンくらいしか、よく覚えてないや。」 「こらぁ!」 「じょーだんだよ。」 「…ったく、相変わらずエロいなぁ小春は。」 「…な、なんでぇ!」 「結構、マジで痛かってんで?」 そう言って、ゆっくりと右手で、大事な部分をさするフミちゃん。 それを横目でチラッと見るや、なんて言ったらいいのか分からずに ただただ黙りこくってしまう私。 「…んま、そろそろ戻るわ。練習始まるし。  もう少しで終わるけど、先帰ってしもてもええで。」 「…うん。もちょっとだけ見てこうかな。」 「そか、んじゃ、また。」 「うん、頑張ってね。」 「おう。」 クラブの選手たちの元へ、小走りで戻っていく。 「ありがとうございましたぁー!!!」 …ふぅ、なんだかんだで、結局最後まで見ちゃったな。 凄いなぁ、結構きつそうなメニュー。 毎週こんなことしてたんだ。ちょっとだけね、尊敬した。 続々とユニフォームを着た男の子たちが 荷物を持ってグランドから出てくる。 そろそろフミちゃんも来るかな…と待ってみても なかなか出てこないから、ちょっとだけ様子を見に行くと 1人残って、筋トレをしているフミちゃんの姿がそこにあった。 ゆっくりと近づき、声をかける。 「御苦労さまです。」 「…お、おぅ小春か。  すまんすまんまだいたんか。」 「え、ひっどーい。」 「じょーだんよじょーだん。悪い悪い。  もちっと残ってやってくけど、待っててくれるか?」 「う、う…ん……」 …… 汗びっしょりの顔、泥だらけになったユニフォーム、 冬なのに湯気で包まれる体、笑顔… …… 「…と、ちょっと、先に帰ろう、かな。」 「そか、すぐ終わんねんけどな。」 「ごめん、ちょっと用事あって。」 「勉強か?」 「ううん、違くて。」 「そか、ほんなら仕方ないな。」 「うん。ごめんね。」 「いやいや全然、むしろ来てくれてサンキューな。」 「うん。じゃ。」 「またな。」 お別れを告げ、ゆっくりとその場から立ち去る…前に 「ま、せいぜいいい体作っといてくださいね。  フミちゃん。」 恥ずかしさとか考えないで、ちょっとだけ面白半分で そんなこと、言ってみた。 「…おう!まぁ、期待して待っとき!」 予想通りの答えが返ってきて、思わず笑ってしまう。 つられてフミちゃんも嬉しそうに笑う。 ゆっくりとその場を後にして、学校から出る…前に 「小春も!牛乳たくさん飲んで  おっぱいおっきくしとけよ~!!」 誰かに聞かれてもおかしくないほどの大声が 私の背中に刺さる。 …もう、 「ばぁーーーかぁ!!!」 振り返ることはせずにそのまま、負けないくらいの大声で そう、叫んで、やった。 …本当は凄く、ドキドキしていました。 用事なんて、本当は何もないけれど、今2人で帰ったら 何を話せばいいのか、分からなくて。 いつも普通に見ていたはずの、フミちゃんの 久々に見た、野球のユニフォーム姿。 急に、まだ小さかった頃の ただただやんちゃだった頃のフミちゃんの姿が フッと、フラッシュバックして あの頃とはもう違うことを、こんなにも成長したことを 必要もないほどに、改めて実感してしまって。 会うたびに、笑顔で私に接してくれるフミちゃんと それに笑顔で応える私。 当たり前だけど、当たり前のことなんだけど 良く考えると、なんだか凄くおかしな光景に思えて。 そう遠くない未来、全ての結果が出たそのときに 私とフミちゃんのどちらかが、相手の前ではだかんぼになる。 私は胸を、フミちゃん至っては、本当にすっぽんぽん。 それなのに、もうあの頃とは違うのに いつもと変わらない笑顔で接する私たち。 でも本当は、 本当は凄く、凄く、ドキドキ…、していました。
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