小説

少年裸祭り 【弐拾八】

西島 耕助
  • 西島 耕助
  • 2009/01/03 09:25
  • 民家の庭
はぁ、はぁ… …寒かったぁぁぁぁ…!! 20分ほどの町の闊歩を終えて 今俺たちはある民家の庭に集まっている。 真ん中にストーブが置いてあって それを囲むように身を寄せ合う俺ら12人。 始まる前は 見られたこととか 褌姿を見られることとかばっか気にしてたけど いざ始まるとそんな余裕マジでない。 寒すぎるってマジで…体が麻痺しちまいそうだ。 あ、アソコの状態は当に治ったな。 …何の情報だよ。 ってかこれから海に浸かるんだよな…! ヤバイ… 俺の祭りはもう終わったようなものとか思ってたけど 全然そんなことねーじゃんか。 寒さのことをあまりにも軽視してた…。 「ここで何するんだろうなぁ…!」 声を震わせながら俺に体を寄せてくる山井。 …普通だったら気持ち悪くて振り払うところだけど 今はそんなこと言える状況でもない。 こんなとこで人肌の温かさと大切さを知るとはな…。 「さぁ…温まるだけじゃないのか…?」 実際俺も直接海に向かって ちょっと浸かって終了だと思ってたから 海岸に行く直前でのこの寄り道は結構想定外だった。 そんな俺ら2人の話を嗅ぎつけたのか 俺の右隣りにいる鈴谷がペラペラと語りだした。 「ここでさっきまでいた神社の神主さんに  厄付けをしてもらうんだよ。」 「…厄付け?」 「まぁつまりは悪いものを付けてもらうんだな。  その年の年男って言うのは  この1年この地区の人々の代表となるような役割なんだ。  12っていう数は1年のうちの月の数。  それぞれ1人ずつ  自分の生まれた月に生まれた人の代表ってことになる。  例えば俺は1月生まれだから1月生まれ代表だな。」 そうだったのか… んじゃあ俺は11月生まれだから11月生まれ代表ってわけか。 …なんか良く分かんないシステムだけど 適当に選ばれたわけだはないのかな…多分。 「あそこにいるのが神主さん。  神主さんの隣りに小さな壷が置いてあるだろ?  多分あの中に厄が入ってる。」 「…厄ってなんなんだ?」 「…んまぁ実際厄って言うのは  形を持たないある概念みたいなものだからな。  あの中に入ってるのは無害の黒い塗料だよ。  それを俺ら12人の体に塗るんだ。  それぞれの月生まれの人の  昨年までの厄と見立ててな。」 「なんでぇ。それじゃあ  俺らに悪いことが起こっちまいそうじゃんか。」 「まぁまぁ。  だからそれを海に浸かることで落とすんだよ。  身を清める=厄を落とすってことになるんだな。  その塗料ってのは水に浸かれば  結構簡単に落ちるものらしいんだけど。」 「ふーん。」 「あとここからスタートして海に行って  厄を落としてまたここに戻ってくるまで  ずっと3人で肩を組んでいかなきゃいけない。」 「ほうほう。…それはなんで?」 「海に浸かるってことは普通に考えて過酷なことだ。  そんな中でも肩を組んで  その姿勢を崩さないと言う行為は  決して崩れない関係や絆を意味するらしいんだ。」 なるほどねぇ… なんかただ海に浸かるだけだと思ってたけど いろいろやることや意味があったんだな。 「つまりは  町を練り歩く=1年の健康を願う。  海に浸かる=昨年1年の汚れを取る。  肩を組む=絆   を意味してるんだな。」 「なるほどなぁ。」 感心した様子の山井。 「…まるで歩くWiki pediaだな。」 「…ん?なんだウィキペディアって。」 「いや…なんでも。」 物事に詳しいんだかそうじゃないんだか 良く分からない奴…。 いや今のは俺の例えも微妙だったかな…。 …うん。 座布団1枚持ってかれてもこれは文句を言えない。 その後少しして神主さんから 今鈴谷から聞かされた話とほぼ一緒の内容が 俺らに告げられた。 改めて鈴谷の予習能力に感嘆させられちゃったな。 そして第一小学校の奴らから順番に 鈴谷の言っていたように黒い物体を体に塗っていく。 腹と脚に塗るのかな。 塗った後は神主さんに なんかおまじないみたいな呪文を唱えられてる。 …これ1人1人やってくのかな。 …結構時間かかりそうだ。
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