小説

少年裸祭り 【伍拾六】

西島 耕助
  • 西島 耕助
  • 2009/01/03 11:15
  • 神社への道中
悪夢のような禊が終わり 取れてなくなってしまった褌を あの庭のある家で着け直した俺たち。 着けてくれたのは…また間宮さんだった。 …まぁ、もう海に浸かることもないしな。 役員の人も大丈夫だと判断したんだろ。 恨みたい気持ちは山々だけど… あんなに大人気なく謝られたらな… 俺たちだって何にも言えないよ。 今は庭から神社までの道を、12人で向かっている最中だ。 …って言っても、一緒にいるのは 山井と鈴谷だけだけどな。 始まって2時間くらいしか経ってないはずなのに もう何日もこいつらと一緒にいる気分だよ。 山井はなんだかよく分からないけど 褌を締め直し始めたあたりからやたら上機嫌で あんなことがあったことなんてどうでもいいように 嬉しそうに話しかけてくる。 …まったく、つくづくよく分からない奴だよ。 鈴谷は、相変わらずの大人っぷり。 何事にも屈しない精神を この年で手に入れちまったような感じだな。 将来が楽しみだなぁ…鈴谷くん。 …で、当の俺はと言えば もう恥ずかしさなんて当に通り越して 若干やけみたいな感覚に陥ってしまってた。 …だって、あんな大勢の前で素っ裸姿を晒したんだ。 …みんな俺のを見たのかな…どう思ったのかな… そんなこと思ってたら、精神持たねぇから もう出来るだけ何も考えないようにしようって思った。 …でも さっきのは本気でビックリしたよな。 庭の縁側で座ってたらさ、間宮が来てさ… …なんて言ったと思う? 「西島くんて、おちんちんついてるの?」だって。 …こいつ何言ってるんだろって思ったよ。 …最初質問の意味も良く分からなかったし 大体女子が『おちんちん』なんて言葉使ってるのなんて 聞いたことなかったし。 しかもそれが間宮って言う…。 あいつのことは、小1の頃から知ってるけど 汚い言葉なんて絶対に言わないような 純粋な女子ってイメージしかない。 …まぁ、顔とかそれなりに可愛いし 男子の中でも 結構好きって言ってる奴とか聞いたことあるけど 俺とかそんなに喋ったこともなかったから さっき急に話しかけてきただけでも驚いたのに そんなことまで聞いてきて… 正直驚いた、それが一番の感想だった。 …で、なんでそんなこと聞くのかって聞いたら、あいつ 俺のことが女の子なんじゃないかとか ついてないように見えちゃったとか …めっちゃ心配になったとか、泣きながら言ってくるんだ。 …しかもその理由が、俺のことが…その… 好きだからって…言ってきて…。 …はっきり言ってこっちとしては パニック状態もいいトコだよな。 そんな屈辱的なこと言われて こっちとしては 顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに どさくさに紛れて…告白されちまってさ。 どうしていいか分かんなかったよ…。 …ただ、女の子なんじゃないかって思われてることが 何より一番嫌だった…かな。 …だって俺男だもん、女じゃねぇもん…。 当たり前だけど、間宮を見る限り 完全に本気で俺のこと 女じゃないかって疑ってそうだった。 …そんな疑い晴らすためにはさ、 …1つしか方法ねぇじゃん…。 …もうヤケになってたのも一理あるんだ…と思う。 気づいたら俺は、間宮の目の前でバスタオルを取り去って あいつに自分のちんこを見せ付けてた。 …自分でも何やってんだか、もうワケ分かんなかった。 あんなに人に見られるのを死ぬほど拒んできたモノを 自らの手で、しかも同級生の女子の目の前で 晒してるなんて…さ。 もうどうにでもなれって感じだったのかな…。 それ以上にちんこが付いてないって思われてることが 何より嫌だった…かな。 小さいってことがバレるのも、そりゃ当たり前に嫌だけど 付いてないなんて思われるのなんて 最悪以外の何ものでもないじゃんか…。 …その時点で俺、女だし。 …そんな風に思われるくらいなら 見せてやろうって思ったんだよな、…きっと。 実際頭真っ白でパンパンで、そんなこと考えてる暇もなくて ホント、気づいたらやってたって感じなんだけど…。 …後悔は…してない。 …っつーかそんなこと言い出したら 祭りに参加が決まった時点で 後悔が始まってたようなモンだからな。 意味のないことを考えるのは、やめだ…。 …で、そんな俺のを見たあいつ。 途中の経過とかもう 目ぇ瞑ってたから良く覚えてないんだけど 最後にあいつ、何て言ったと思う…? …俺の…ちんこが好きだって 庭中に聞こえるように、大声で叫びやがったんだぜ…? 俺の目の前に立って、大声で、そう叫んだんだぜ…。 もうビックリって言うか、目が点だった。 当の本人も、自分でも何やってんだか分かんないって感じで 俺の目をジーーーーっと見つめてきてた。 …で、周りから笑い声が聞こえてくるのが分かるのと同時に みるみる顔を赤く染めていって …そのまま、逃げるように庭を飛び出していった。 …取り残された俺の気持ち…分かるか? どうすることもできねぇよ、誰も話しかけてこないしさ。 何故か山井も鈴谷もいなかったから それだけは救われたような気がするけど 誰も知らない中で、集中的に見られてるような感覚ってのも もの凄い居心地悪かった…よな。 まさに四面楚歌だった。 …で、まぁなんとかその場はやり過ごして 今、なんとか落ち着いて、道を褌姿で歩いてるってワケ。 …寒さとか慣れるもんじゃないけどさ。 もうなんかいろいろありすぎて 寒さを感じてる暇もないって言うか… もうそう言う感覚麻痺しちまったのかもしれない。 …で、歩きながら今日あったこと、いろいろ思い出してたんだ。 いろいろ死ぬほど恥ずかしいことがあったけど ずっと頭の中でグルグル回るようにループしてるのが ついさっきあった間宮とのことなんだよな…。 見られたこととか、聞かれたこととかもそうなんだけど …一番に、あいつが最後に俺に言ってきた言葉。 「…西島くんのおちんちんが、大好きですっっっ!!!!」 … …… …当たり前だけど、俺そんなこと言われたの初めてだった。 今まで女の子に好きですって告白されたことなら 俺、よく分かんないけど結構あるんだよな。 放課後に呼び出されたり、家にチョコ持ってきてくれたり。 そのたびに俺、どうしていいか分かんなくて とりあえず「ありがとう。」って言って誤魔化してたんだ。 女の子を本気で好きって思ったこともなかったから 俺も好き、なんてこと言えないしさ。 …でも今思うと、少し怖かったのかなって思ってるんだ。 俺のこと好きでいてくれてるってのは 素直にありがとうって思えるんだけど きっと俺の本当の姿を知ったら きっと俺のことなんて嫌いになっちまうんじゃないか…って。 考えすぎかもしれないけど 俺それくらい本気で自分のちんこのこと気にしてて 悩んでた。 いつも平気を装ってたけど 自分にいつも自信がなくて、どこか不安だったんだ。 …でも、あいつはさっき 俺のちんこが好きって言ってた、…言ってくれてた。 偽りじゃなく、上辺だけの言葉じゃなくて ちゃんと俺のちんこを見た上で それが好きって…言ってくれた。 そんな告白、普通に考えたら異常だし、おかしいけど 俺にはなんかもの凄く…その…響いたって言うか …嬉しかったって言うか…嬉しかった? …良く分かんないけど とにかく、めちゃくちゃドキドキしたんだ…よな。 あいつの口から出た、おちんちんって言う言葉… 泣きながら好きって言ってきたこと… 立ち上がって、俺のちんこが好きって叫んでた姿… 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして立ち尽くすあいつ… そしてそそくさと逃げていく背中… その映像がずっと頭の中でループしてて それを思い出すたびに、ドキドキして 顔が赤くなるのが分かる。 …あぁ駄目だ駄目だ駄目だ! 頭を振りほどき気持ちを落ち着かせようとする。 ふと後ろを向くと 女子3人組が肩を並べて歩いているのが分かる。 …左にいるのは…間宮? 咄嗟に顔を見ると、あっちも俺の顔を見ていて 一瞬、見つめ合うかたちに。 はっと気づき、すぐさま顔を逸らす間宮。 俺も慌てて前を向き目を逸らす。 …なんだ、これ… めっちゃドキドキする…。 「…どうした西島ぁ、顔赤いぞー!」 隣で陽気に笑う山井がそう言ってくる。 「…ば、ばば、バーカ!  あ、赤くなんかねぇよ!」 …何ムキになってんだ俺。 …はぁ、落ち着け落ち着け…。 でも、俺のことは俺が一番分かる。 …こんな感情間違いなく初めてだ。 ふと気を抜くと、間宮の顔が頭をよぎる…。 …分からん、分からん分からん分からん! これって…  ……なのかな…。 …よ、良く分かんないけど… …… 間宮桃子…か… …少し、気になる…かな。
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