小説

少年裸祭り 【伍拾八】

西島 耕助
  • 西島 耕助
  • 2009/01/03 11:55
  • 民家の風呂
神社に到着し 12人無事に帰ってきたことを神社の神様に報告して ようやく長かった裸祭りに終止符を打つことができた。 今から、神社の近くにある民家の風呂場を貸してもらって 温まってお疲れ様って流れだ。 12人もいて時間がかかるから 小学校ごとに3人ずつ風呂に入るように指示された。 今ちょうど、第一小学校の奴らが風呂から上がってきたから 次が俺らの番みたいだな。 誰にも見られないことを期待して始まった裸祭りだったけど 最後の風呂のこととか全く計算してなかったな。 …ま、今となっちゃあもうどうでもいいけど…さ。 脱衣所に3人で向かい、スルスルと褌を解いていく。 他の2人はササッと解き終わると 隠す素振りも全くせずに、湯船に駆けていった。 俺はあんなに見られてしまった今でも そんなに堂々とすることは出来ずに 申し訳程度にちんこに手を被せて あいつらの元へと向かった。 湯船は3人でも入れるくらいの大きいサイズだ。 すでに山井と鈴谷は入浴していて 俺にココに入れと言わんばかりに 真ん中だけをしっかりと空けておいてくれていた。 俺はちんこを隠したまま、無言でその中へと入る。 ザブーーーン。 …はぁ、気持ちいい…。 「…いやーー終わったなぁーーー!」 オヤジみたいな声を上げるのは、山井。 まさに安堵の表情といった感じだ。 「…うん、終わったな、疲れたけど  無事終わってよかった。」 目を閉じながら、恍惚の表情を浮かべる鈴谷。 無事…って言葉には、死んでも賛同できないけど…な。 「…そう言えば、同じ並びだなw」 「…ん?何がだよ?」 「この並び、禊のときと一緒ジャン。  俺、西島、鈴谷。」 「…あー、確かにそうだな。」 …なーにを言い出すかと思ったらそんなことか。 嫌なこと思い出させんじゃねーよな、全く。 「よーし、再現しようぜ!」 そう言って、俺の肩に右手をかけてくる山井。 「…ちょ、おい、何すんだよ。」 「…はは!いいな、それ。」 そう言って今度は、鈴谷が左手を回してくる。 …なんなんだよお前ら… 風呂ん中でくっついてきて…気持ちわりぃなぁ。 「ほれ、西島も!」 「…え、いいよ俺は、くだらねぇ。」 「せっかくだしさ、西島、いいじゃねーか!」 …俺の気も知らねぇで…、俺は、見せたくねぇんだよ…。 「…別にもう隠すことないじゃんかー西島。」 「そうだよ、男同士だろ?俺ら。  隠す方が逆におかしいって。」 …ま、まぁそうだけどさ… ……はぁ。 …もういいか。 まだ恥ずかしいけど…そんなこと言われたらな… ふぅ。 俺は大きく1つ溜息をついて、ちんこから手を離し 両手を山井と鈴谷の肩に組む。 風呂の中で、あの禊のシチュエーションが 完全に再現された。 見なくたって分かる、2人ともきっと俺のちんこに夢中だ。 悔しいけど…さ、見たきゃ見ればいいさ。 「…へへ、やったね!それでこそ男西島だ!」 「…はは、西島も1つ、大人になったな。」 「…うるせー。」 恥ずかしながら、俺はそう一言だけ呟いておく。 脚だけ浴槽から出した状態で 俺ら3人は肩を組んだまま、少しの間沈黙の時間を過ごす。 湯船の中を見ると 3人のちんこがユラユラと揺れているのがよく見える。 その中でもやっぱり、俺のは一際小さく見えて 改めて人のと俺のとを比較することができたことで より一層情けない気持ちになり 俺は思わず視線を天井にずらしたくなってしまう。 …まぁ、鈴谷の毛のユラユラ感も十分印象的だったけどな。 「…でも、西島かっこ良かったよなぁ。」 突然鈴谷がそんなことを言い始める。 「…な、なんだよ急に。」 「いやマジで、めっちゃ男気感じたよ、うん。」 「俺も俺も!リーダーって感じだったよな!」 「…や、やめろよ変なこと言うの!」 「いやいや変とかそんなんじゃなくて  マジでそう思ったんだって!  『見たきゃ見やがれーーー!』とか  俺惚れそうになっちまった。」 「…あれはかっこ良かったな!  西島やってくれるわ~って思ったわw 「…だから!  もうあの話はいいって!…恥ずかしくなるだけだ…。」 「…はは、照れることねぇのに。」 …ったく。からかってるつもりなのか? …変な奴らだよ。 「…西島もさ、そんなに気にすることないって、マジで。」 またもや鈴谷が 話を切り替えるように次の話題を切り出す。 「…な、何がだよ。」 「…いや、何がとは言わないけど…さ。  俺西島のこと本気で男らしいと思うしさ。  マジかっこいいと思うし。」 「俺も!ひひ、一生ついてくぜぃリーダー!」 「…り、リーダーはやめろってっ!!」 「…はは。  …んまぁだから、なんて言うかさ。  せめて俺たちといるときくらいはさ。  遠慮したり変な気遣ったりすることねぇって。  な?山井。」 「その通りー!もっとオープンに行こうぜ!西島!  親友だろ?俺たち!ははは!」 「…なんでぇそれ…。」 そんな2人の会話に、俺はそっけなく対応する。 …でも、内心ホントは嬉しかったりしたんだ。 今まで俺、ちんこ見られたら みんな俺のこと馬鹿にするんだろうなって ただ単純にそう思ってたんだ。 …でも、少なくともこいつらは違うみたいだ。 俺の見たって、小さいとか馬鹿にしたりしないし むしろかっこいいとか、親友だとかまで言ってくれてる。 …そんなの、当たり前だけど初めてだし 何よりそう言ってくれる奴が今隣にいるってことが なんか、めちゃくちゃ嬉しかったんだ。 …さっきの間宮のこともそうだったけど 俺、実際ちょっと考えすぎだったかもしれないよな。 だから今まで、本気で友達だって言えるような奴が いなかったのかもしれない。 …親友…か、なんか…いいな。 「…サンキュー。」 …俺は、どうにかこの喜びを2人に伝えようと思って 最大限の感謝の気持ちを 恥ずかしながらにその言葉に凝縮して呟いた。 「…はは、やっと素直になったぞ、西島。」 「ひひひ!可愛いとこあんジャンかー西島ぁ!」 「…うるっせー。」 からかわれることは分かってたけどさ。 …まぁ、悪い気はしないよな、自然と笑みもこぼれる。 「そうだ西島!ここは景気づけにもう1回あれ!  一発ぶちかましてくれよ!」 「…なんだよ、あれって。」 「…あれだよあれ!『見たきゃ見やがれー!』だよ!」 「…お!いいねぇそれ!リーダーよろしく頼むよぉ!!」 「えー!…ったく、仕方ねぇなぁ。」 「…あはは!急にノリが良くなった。」 「…うるせー!1回だけだぞ!」 「…おう!」 「イエーイ!」 俺はなんか急に気分が良くなって 乗せられるがまま、風呂の中で、め一杯叫んでやった。 「…見たきゃ見やがれーーーーーー!!!!!」 その言葉に隣りの2人は嬉しそうに大声で笑う。 「…んじゃ、お言葉に甘えてー!w」 そう言うと山井は おもむろに俺のちんこを空いている左手で掴んでくる。 「お、おい山井!や、やめろっ!!」 「…はは!ぷにぷにして気持ちいいぞー!w」 「あ!山井せこい!俺も触りたい!」 「…ちょ、鈴谷までっ!や、やめろって!  お、おい!ちょっ!お、あっ!く、くく…  くはは…あはははは!やめろっ!!  はははははは!!!!」 …一時はどうなるかと思った。 また一時は、最悪過ぎるシナリオに、神をも恨んだ。 でも…結果的に、どうなんだろ。 間宮への、よく分からない感情にも出会えたし 親友と呼んでも悪くないような友達も 手に入れることが出来た… …気がする。 失ったものは勿論少ないとは言えない。 学校始まったときのこととか考えると、頭が痛くなる。 …でもそれってもしかしたら、手に入れたものに比べたら 微々たるもの、一時的なものなのかもしれない…な。 ちんこを丸出しにして駆け抜けた、あの砂浜。 今年の裸祭りはあのせいで 異祭として語り継がれていくかもしれないけど それもいつか いい思い出だったと思える日が、来るのかな。 …うん、きっと来るに違いない。 -少年裸祭り。 今日俺は、大きな心の壁を1つ乗り越えて 1つ男に、1つ大人に、なれた気がする-。
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